第18話 ーーー残念な1日(2)ーーー
俺は、また、あの噴水のある公園のベンチに腰掛けている。端から見たら勇気を振り絞って彼女に告白したが「シロウくんって良い人よね。でも魅力ないのよねーー。ただのモブって感じーー」って言われ、振られて落ち込んでいる男子学生に見えると思う。
……異世界に来たばかりの妹にはあっさり抜かれるし、明日は王宮で怖いメイドに会わなければならないし、俺、自分の部屋にこもりたい……
「そうだ。マイルームに引きこもってしまおう。あそこは、時間がないし明日が来ない。ずっといれば、王宮にも行かなくて済む。そこから、もう絶対、外に出るもんか。そうと、決まれば、さっさと、人目のないところでドアを開こう」
俺は、全マップ探索で周囲の人気のないところを探した。すると、すぐ近くの路地裏で、五人の如何にも悪そうな男が一人の女性を取り囲んでいる。
その路地裏は、この近くでドアを開ける絶好の場所だ。
……こいつらが、いなければ、そこに行ってすぐにドアを開けるのに……
俺は、その路地裏に行き、連んでる男達に
「ここから、早く出て行ってくれ。ここは、絶好の場所なんだ」
「何だ。お前!」
「後から来て偉そうな事、言ってんじゃねーーぞ!」
「おいおい、僕ちゃんよ。何言ってくれてんの。覚悟はあるんだろうな」
「お前らこそ、早く、ここを出て行け!俺が、ここを使うんだ」
「ボス、殺してもいいんだろう」
「あーー痛い目の合わせてやれ!」
一人目の男は、素手で殴りかかって来た。俺の頬に思いっきり当たる、が、全然痛くない……殴りかかって来た相手の方が、腕があらぬ方向に曲がっている。
「何だ。テメーー!」
今度の奴は剣を抜き、切り掛かって来た。俺は、スローモーションを見てるような感覚になり、サッと避ける。それを、何度か繰り返した。
俺は、拳を握り殴りかかる。そいつは吹き飛んでいった。
「オメーー何者だ。何しやがった!」
今度は、三人がかりで切り掛かってくる。俺はさっきと同じように避け相手の三人に拳を向ける。すると、相手の男達は、また、ふき飛んだ。
俺は、あっという間に五人の男を倒してしまった。しかも、剣を抜いて斬りかかって来た相手をだ。
……俺、こんな怖そうな奴ら倒せたの? 俺、本当に強いの?……
喧嘩などした事なかった俺は、呆然としていた。すると、一人の女性がこちらを見ていた。どうやら、男達に因縁をつけられ、手篭めに合う寸前だったらしい。
「あの……助けてくれてありがとうございます」
「はい」
「宜しかったらお礼をさせて下さい。私は、シンシアと言います」
「シロウです……」
「どうぞ、こちらへ」
そう言った女性の後を俺はついて行ってしまった。自分が強くなっていたことを、数値上では理解していたが、実践は、はじめなので思考が曖昧になっていたからだと思う。
俺は、ドアを開く事さえ忘れていた。
◇◇◇
「あの……シロウさんは、冒険者なのですか?」
年は俺より上みたい。素朴な感じの可愛い人だ。三季姉が髪を伸ばしお淑やかにしたら、こんな感じかもしれない。
「はい……」
「失礼ですが、シロウさんは、裸で張り付けにあって、街を回った方ですよね」
……直球きたーー!心折れてるのに、もう、耐えられない……
「はい……」
「きっと、何か事情があったんですよね。シロウさんは悪い人に見えませんし……」
……もしかして、この人、天使なんじゃないの?……
「誤解だって、わかってくれて、王女様も許してくれました」
「やはり、そうだったんですね。私もそう思っていました」
……あーー心の傷が癒されていく。何だろう。とても温かい……
「着きました。こちらです。少し騒がしいですが、お気になさらないで下さい」
「あーーシアおねーーちゃんが帰ってきた」
「ほんとだ。シアねーちゃん」
ぞろぞろ子供達が溢れて出てきた。
「あーー、このお兄ちゃん知ってる。のぞき魔だーー!」
「ほんとだ。のぞき魔だ」
「今度は、シアねーちゃんを覗いたのか!」
「シアねーちゃんに近づくな!」
見たことある子供達もいた。そうだ。俺に石を投げつけ囃し立てたガキだ。
「こらっ!やめなさい。この方は、シロウさん。私を助けてくれた人よ。そんなこと言う子は、おねーちゃん、もう、知らないからね」
「えーー、この、のぞき魔がーー!」
「強いの、この、のぞき魔?」
「シロウさんは、強いのよ。五人の悪人をあっという間にやっつけちゃったんだから〜〜」
「へーー」
「あのーー、ここはどういうところなのですか?見たところ兄弟姉妹じゃないみたいですし……」
「あーー、そうですね。ここは、身寄りのない子供達が集まって暮らしているところです。騒がしいですけど、お茶でも飲んでって下さい。今、入れますから……」
……孤児院みたいなとこか。それにしても、この人数でこの家じゃ狭いんじゃないかな? ……
「シンシアさんが一人で子供達の面倒をみているのですか?」
「はい。でも、大きな子も手伝ってくれますから、それほど大変ではないのですよ」
……これだけの、人数を面倒みるって、ざっと10以上はいるぞ……
「のぞき魔、遊ぼうよ」
「何か面白い話してよ」
はじめ、警戒してた子供達もすぐ慣れると、髪を引っ張ったり、服を掴んだり、ガヤガヤまとわりついてきた。
「シロウさんが、ゆっくりできないでしょう。はい。お茶を召し上がり下さい」
「はい。ありがとうございます」
「お茶飲んだら、遊ぼう」
「何か面白いことして〜〜」
「抱っこーー」
……これは、これで大変だぞ。俺は、まだ、大家族で慣れてるけど……
俺は、お茶を飲んだ後、子供達と追いかけっこをしたり、お話をしたりして一時間ぐらい遊んでいた。
「すみません。お客さんが来ることないので、みんな珍しがってしまって……おまけに子供達と遊んでいただいて申し訳ありません」
「別に、構いませんよ。うちも6人兄弟ですから、騒がしいのも慣れてますし」
「そうでしたか〜〜どおりで子供達の扱いに慣れていらっしゃると思いました」
「失礼ですが、ここの運営はどうされているのですか?」
「王家から、補助が出てます。それと、教会も方からも支援がありますが、物入が多くて……」
「先ほどの、人達とはどういう関係なのですか?」
「あの人達は、ここら辺を縄張りにしているヤサグレ者です。いつも、ここにきては、難癖をつけていたのですが、これで、少しはおとなしくしてくれれば良いのですが……」
「そうだったんですか……でも、何で難癖をつけてくるのですか?」
「前に、お金を貸してくれたんです。こちらは、断ったのですが、上手いこと言われて、借りてしまいました。それで……」
……返せない相手に、無理やりお金を貸し付け、返済と称して、何かを奪おうとするやり方か……目的は、シンシアさんか?……
「奴らの目的は、何なのでしょうか?」
「詳しい事は分かりませんが、この付近を、歓楽街にしたいらしいのです。私達意外にも、被害に遭ってる人も大勢います」
……地上げゴロのやり方だ。今時そんなやり方じゃあ、あっ、ここは異世界だ。それなら、通用するかも……
「お金はいくら借りたのですか?」
「金貨一枚です。でも、利息とやらで、今では、金貨五枚を要求されてます」
……金貨一枚でこの家屋敷が手に入るのなら安い買い物だ……
この手の奴らは、お金を返しても別のやり方で攻めてくるだろう。ここは、子供達がいるから、次に奴らがとる手段は明白だ。子供を拐えばいいと考えるだろう。
「今は、借金を背負っていた方が安心です。もし、お金を返せば、次は子供達が狙われると思います」
「子供達に何かあったら……私……」
きっと、この人は、子供達の為なら、自分を犠牲にするタイプだ。危険でみてられない。
それにしても、ただのゴロツキが、この王都で歓楽街を作れるのか?背後に権力者がいるんじゃないのか? テレビドラマでは、そういう設定、多いし……
すると、リーナから念話が入った。
『シロウ、大丈夫?』
……そうだ。俺は、宿屋から逃げ出してきたんだ……
『大丈夫だよ』
『サツキが心配してる』
『うん、ちょっと外の空気吸いたかっただけだから大丈夫だよ』
『わかった。そう伝えとく』
「シンシアさん。少し俺に考えさせてもらえませんか。それと、これを受け取って下さい。何かの足しにでもして下さい」
俺は、金貨10枚を差し出した。
「シロウさん。これは受け取れません。助けて頂いた恩もあるのに、こんな大金まで、受け取るわけにはいきません」
「このお金は、王家から頂いたものです。この間の誤解だという事で頂きました。妹も王都に来たので家を買おうと思ったのですが、諦めました。ですので俺には不要なお金です。使ってくだされば、嬉しいです」
「そんなーー妹さんが出ていらっしゃったのなら、物入りのはずです。これは受け取れません」
「これは、子供達のために使って下さい。では、ご馳走になりました」
俺は、そう言ってさっさと家を出て行った。
「シロウさん、待ってください!」
そう声が聞こえたが、俺は足早にこの場を去ったのだった。
◇◇◇
俺は、また、噴水の公園のベンチに座っている。
「あーーまた、面倒なことに首を突っ込んでしまった。それに、お金を置いてきてしまったり、これじゃあ地上げゴロと同じじゃないか。俺は、偽善者だ!」
と、今度はそう落ち込んでいた。端から見たら、公園で頭を抱え急に叫び出し宇宙と交信していそうな、ちょっと残念な頭の人に見えるだろう。
周りの人は、俺を避けるように近寄らない。結界でも張ってあるみたいだ。
……このベンチ、もう、俺専用でいいんじゃない……
すると、向こうから俺を呼ぶ声が聞こえた。
「シロウ兄、シロウ兄、こんなとこで何やってんの?」
「サツキか……」
「サツキかじゃないよ。急に出て行ったから心配したんだからね」
「そうか、そいえばそうだった」
「もう、シロウ兄はしょうがないんだから、はい」
「これ、何?」
「串焼きリンゴって言うんだって。あっちの屋台で売ってた」
「へーー焼いたリンゴに蜂蜜がかかってるのか」
「甘酸っぱくて美味しいよって、屋台のおばちゃんが言ってたよ」
「ほんとだ。これは、これで……」
「あれっ、サツキの分は?」
「えへっ。お金がなくて、これしか買えなかった」
「そういえば、こちらのお金渡してなかったな。よく買えたな」
「おいしそうって見てたら、おばちゃんがくれたんだよ」
「買ったわけじゃなかったのか。ほら、これ持っておけ。無駄使いするなよ」
「わーー助かる。ありがとう。シロウ兄」
俺達は、みんなの分の串焼きリンゴを買って、宿に戻るのだった。




