第14話 ーーー海は広いな大きい魔ーーー
俺達が異世界の宿屋に戻ったのは、食事を済ませミミーのステータスを確認した場面(12話)のあとだった。
こちらでは、もう、夜だ。さっきまで日本の遊園地で遊び、マイルームでお菓子をたらふく食べたあとだが、目が冴えてしまって眠気が全く無い。
「困った……ちっとも眠く無いぞ。それに、この世界では、チラシからの購入はできないみたいだ」
「えっーーあの丸いのここでは、食べられないの?」
「いやでちゅう。いやでちゅう!」
「あの部屋が特別なんだと思う。戻ったら、また、食べよう」
「それなら仕方ない」
「また、食べたいでちゅう」
「俺は、あのベッドでゆっくり寝てみたい。今、眠く無いけど……」
ここは、異世界の宿屋。夜なのに、眠気のない人と悪魔が二魔。
……やることがない……
「どこか、散歩でも行こうか?でも、こんな夜にミミーを連れ出したら、周りから不審がられるなぁーー」
「良いとこあるよ。行く?」
「良いとこって?」
そう聞く間も無く、リーナの黒炎が伸びて俺とミミーは、リーナの影に包まれたそして、リーナは転移した。
……このパターン嫌な予感がする……
◇◇◇
俺達が転移した場所は、まだ夕方だった。それに、目の前には、綺麗な夕陽の広がる海がある。
「綺麗だーー」
「海でちゅうーー」
「こっちよ。シロウ。ミミー」
リーナは、砂浜を歩いて岩陰にある洞窟に入っていった。
……気温が温かい。南の方みたいだ。夕方なのは、時差のせいか?……
俺とミミーもリーナの後に続く。そこには、広い入江があった。
夕陽がコバルト色の海を染めて、周りの岩陰に反射し、赤と主軸とした七色の光が散乱して、とても幻想的な世界を醸し出している場所だ。
「リーナ。ここ凄いよ。初めて見たよ。こんな凄い光景」
「海でちゅう。海に入りたいでちゅう」
「ちょっと、待って。あっ、来た!」
リーナがそう叫ぶと、海面が盛り上がり黒く大きなものがそこから突き出てきた。とてつもなくデカイ海蛇のようだ。
「あーーレヴィでちゅうーー!」
「レヴィ?」
「そう。レヴィアタン。冥府の上級悪魔よ」
『懐かしい魔力を感じたと思ったら、黒炎の姫と蠅の王の姫ではないですか?』
「封印前以来ね。具合はどう?」
『まだ、前のような調子は戻りませんが、いつでも、戦えますぞ』
「レヴィ。よかっちゃ。まちゃ、あえたでちゅう」
『蠅の王の姫よ。息災で何よりじゃ。うむ。姫、もしかして契約したのですか?』
「うん。ちゅたよ。シロウおにいちゃんと」
『なんと!その者が契約者ですと……うーーむ』
……近いし、怖いし、でかいし、息が臭いし……
『ただの、人間ではないですか?よろしかったのですか?姫よ』
「うん。シロウおにいちゃんは、おいしいものくれる」
『ワハハハ。さすが、暴食の業を背負いし姫よ。食べ物で釣られるとは』
「シロウは、私とも契約してる。シロウをよろしくね」
『何と、黒炎の姫までもじゃとーー。この者に、その器があると言うのですな』
「そう。シロウは、私達を大切にしてくれる』
『姫達が封印されて、1000年ぶりに再開してみれば、この状況、些か、驚きましたぞ。黒炎の姫よ』
「偶然とはいえ、私が選んだの。ミミーも同じよ」
『そうまで言われれば、私が口を出す事もないでしょう。シロウとやら、姫達をよろしく頼む』
……怖い、怖い、帰りたい……
「は、はい。わかりました。頑張ります」
『ワハハハ、少し軟弱なようだな。よしっ!儂の加護を与えよう』
レヴィアタンの息が俺を包み込む。すると、
【ポミャン 精神異常無効耐性を獲得しました】
と、脳内アナウンスが聞こえた。
『これで、心が惑う事もないじゃろう。蠅の王とは、旧知の仲じゃ。その姫は儂の娘も同然じゃ。くれぐれも、泣かすことのないよう頼むぞっ!』
「はい。わかりましたーー!」
『ワハハハ。面白そうな奴じゃのう。ところで、姫よ。冥界には帰らぬのか?』
「今は、シロウと一緒にいる。帰っても、利用されるだけ」
『確かに、黒炎を纏いし姫が戻ったら、冥界は大騒ぎになるじゃろう。姫を利用して、神界に仇なす奴も出てくるかもしれん。そうすれば、また、あのような戦いが始まる可能性もある。大切な仲間を失うのは、悪魔にとっても辛く悲しいものじゃ』
「それって、一千年前の戦いのこと?」
「そうよ。私達は、神界、つまり神族と戦ったの。巻き込まれたのは、人族達」
『あの戦いは、酷かったのう。神族が人族を誘導して、我らに牙を向けよった。この背中の傷も、まだ癒えん』
「まだ、痛むの?治そうか?」
『いや、よいのじゃ。これは、我が友、蠅の王と一緒に戦った印。消えてはいかん傷じゃ』
「レヴィがそう言うなら……」
「おとうちゅまも、きっちょ、誇りに思ってるでちゅう」
『何、心配は無用じゃ。儂は、レヴィアタンじゃからのう。ワハハハ』
……一千年前の戦いはそういうことだったんだ。あとで、王都の図書館で調べてみよう……
「レヴィは、これからどうするの?」
『儂も、しばらく気ままに過ごしてみようと思っておった。用があれば呼ぶが良い。直ぐにでも、駆けつけようぞ』
「わかった。レヴィも大事にね」
「レヴィまちゃ会える?」
『もちろんじゃあ』
そう言い残し、レヴィアタンは、海に戻って行った。リーナもミミーも少し寂しそうだった。
◇◇◇
陽は落ち俺達は砂浜を歩いていた。波の音が心地よい。リーナは、考え事をしているようだ。普段から口数は少ないが、この時は一言も喋らないでいた。ミミーは、波打ち際で貝やら魚を捕まえて、そのまま、食べていた。
……お腹壊さないのか?……
俺には、二人が背負っている重さがわからない。どうにかしてあげたいが、身体も心も動けないでいた。
そうだ……
「なぁ、リーナ。部屋に帰っておいしいものでも食べないか?」
「おいしいもの?」
「そう。おいしいものを食べると元気が出るんだよ。これ、日本の常識」
「わかった。そうする」
「ミミーも食べたいでちゅう」
「じゃあ行こう。【マイルーム ドア1オープン】」
俺は、出てきたドアを開けて、みんなで部屋に入った。……がっ。そこには、寝転びながらコップ酒を煽る女神エリーゼがいた。
◇◇◇
「あっ!」
『あっ!』
「………………」
「何してるんですか?女神様。もうこんなに汚して、この前掃除したばかりなんですからね」
「シロウ、異世界から戻るのが、早すぎるわ。ちゃんと、異世界ライフを送らないと……」
「ちゃんと、してますよ。お腹が空いたから、ここで、おいしいもの食べようと思っただけですから」
「地産地消ってことばを知ってる。異世界にいるなら、異世界のものを食べればいいでしょう」
「甘いものをリーナ達に食べさせてあげたかったんです」
「甘いものなら、私も欲しいわ!」
「女神様ーー!」
「シロウーー!」
「シロウ、その女神だれ?」
「女神でちゅう。殺されましゅう」
「リーナ達は、初めてだったね。この女神様は、俺が死にそうになった時この部屋を作る能力をくれた方だよ」
「あーーあの時、私を浄化しようとして、帰っちゃった女神だ」
「サリーナよね。あの時、大変だったんだからーー魔力が暴走してて」
「敵なのでちゅう」
「そちらは、ミミーよね。ベルゼブブの娘。あなたのお父さん凄い強かったって神界で有名よ。でも、所詮悪魔は悪魔よね」
……リーナ達には、敵仇だよね。まずいなぁ……
「神族は敵でちゅう!!」
「悪魔こそ神族の敵よっ!」
「むーーー!!!」
「よっし!ここは、俺の部屋です。いくら女神様でも好き勝手しないでください。それに、リーナ達もここは俺の部屋だから、ここで争わないように。ここで、戦闘が起こったら、部屋がめちゃくちゃになるでしょう」
「でも、女神が……」
「でも、悪魔達が……」
「いいですか!ここは、俺の部屋なんです。ここでは、俺に従ってもらいます。じゃないと、おいしいもの作りませんよ。いいんですか?」
「まあ、シロウがそういうなら、仕方がないわね」
「シロウに従う。でも、おいしいものを食べさせてくれる約束は絶対」
「そうなのでちゅう」
「では、落ち着いたようなので、ご飯を作ります。何がいい?」
「シロウに任せる」
「そうね。人族の食べ物、私は知らないもの」
「丸いケーキがいいでちゅう」
「ミミー、ケーキは食後にね。じゃあ、鈴風家特製鍋をご披露しましょう」
『鍋?』
「そう。鍋です。熱々で栄養もあって、それに、お酒にも合いますよ」
「じゃあそれでいいわ。お願いねシロウ」
「シロウ私も手伝う」
「リーナとミミーは、お風呂沸かすから入っておいで。潮風にあたって髪がバサバサだよ」
「いいの?」
「お風呂で綺麗になっておいで。その間に、作っておくから」
「綺麗って……わかった」
「女神様は、そこを片付けて下さい。テーブルの上に転がってる酒瓶もです」
「シロウは、細かいわね。そういう男はモテないわよ」
「いいんです。モテなくて!」
俺は、鍋の材料をチラシを見ながら購入した。すると、それを見ていた女神が
「シロウ、今の何なの?そんな能力、私知らないわ」
「スキルのレベルが上がったらできるようになったんです。でも、この部屋限定みたいですけど」
「そうなの。不思議な力ねーー。チラシなら、ここで買えるの?」
「そうみたいです。俺もまだ、詳しい事は分かりませんが」
「じゃあ、このお酒買えるの?」
「欲しんですか?」
「ちょっと、興味があるだけよ。神界のお酒もおいしいけど、人族の作ったお酒も飲んで見たいわ」
「これ、ワインみたいですけど、赤ですか?白ですか?」
「色がついてるの?両方お願いするわ」
「わかりました。ちょっと待ってて下さい」
俺は、チラシを見ながらワインを注文する。それと、別のチラシを見ながらグラスや足りない食器を買い足した。合計で金貨1枚と大銀貨2枚だった。
……これで、12万円って高いよね。でも、日本のお金ないし、仕方ない……
女神様にワインとチーズを渡して、俺は料理を作り始めた。
「うわっ!何このお酒。ワイン?香りが芳醇だわ。すっごいおいしい〜…」
そんな、女神の言葉を背に聴きながら、俺は黙々と料理をしていた。
リーナ達も出てきたようだ。用意しておいた服に着替えている。流石に女神の前では、裸は抵抗あったみたいだ。
できた鍋を運びみんながテーブルを囲む。俺は、食べ方を教え、みんなは口をハフハフしながら美味しそうに食べていた。
「シロウおいしいよ、これ」
「魚介類の出汁が出てるからね」
「おいちいでちゅう。生のお魚よりずーーちょ、おいちいでちゅう」
「味は悪くないわね。ワインでしたか。このお酒にもよく合うわ」
女神様は、赤ワインを既に空にし、今は白ワインを飲んでいる。
「シロウ、聞いてよーー。メサイヤがね。私にも早く彼氏を作ればーーって言うのよ。何様のつもりなの。あいつ……。すっごい上から目線だと思わない。私だって、別に彼氏いらない訳じゃないのよ。いないのよ。私に釣り合う神が!この間も、ちょっといいわっと思ってた神が私のこと、仕事ばかりでつまらないって言ったのよ。信じられる? じゃあ、神樹で開かれるフレイヤ達の愛の歌の話でもしろって言うの?それとも、アフロディーテーみたいにあったばかりの神と生殖の話をしろと言うの?普通無理でしょう。そんな事。あ〜〜誰かいい神、いないかしら……ひっくっ」
……酔っ払ってる。これは、酔っ払った二葉姉を見てるみたいだ……
「シロウは、その女神と仲がいいんだ。そうなんだ……」
「リーナ。違うよ。仲がいいとかじゃなくて、絡まれているだけだよ」
「ふ〜〜ん」
俺の左には、酔っ払って絡んでくる女神。右には、怒りを向けてる悪魔。前には、バクバクケーキを食べる幼女。
……俺は、どうすればゆっくりできるの?誰か教えてーー!……




