第123話 ーーー村里ではーーー
俺達は、夜明けと共に、町まで行ってみることとなった。王都からこの湖までは、歩いて1時間程の距離だったが、ここは、千年前。家の柱一本、そこには、無かった。ただ、広い草原が広がっているだけである。
街道らしきものもないので、膝下まで伸びた草むらを掻き分け、道無き道を歩くしかない。
「本当に、ここに王都ができるの? 」
「そうよ。今は、ただの草原だけどネ」
「不思議ですわ。こんな事を実際に体験できるなんて……」
「王女様、危ないデスから、私の歩いた後をついて来て下サイ」
「ありがとう御座います。エリックさん」
「いいえ〜〜どういたしまして〜〜」
「キモい……変態人形使いから王女の変態下僕にジョブチャンジしたようだ」
「シアンは、容赦ないな〜〜エリックさんのお陰で、俺達だって、歩きやすくなってるのだから感謝しないと……」
「みんな、面白いわね。飽きなくて助かるわ。ほら、魔獣よ。エリック、お願いね」
「またデスか〜〜」
あの家から一歩出ると、そこは魔獣が溢れかえっていた。ここに来るまで、エリックさん、シアン、アンリエット王女の3人が魔獣を退治している。この3人のレベル上げが主な目的だ。
不思議な事に、ここにいるメンバーは、文句の1つも言わない。俺だったら、こんな面倒くさい事やってられないと思うのだが、リーナやミミーが絡んでいるとなると話は別だ。
みんなのレベルは、エリックさんを除いて100を超えていた。埴輪の兵士達や悪竜 アジ・ダハーカの討伐で経験値をたくさん得た為である。
そして、俺のレベルは、2000を超えている。邪神アンラ・マンユを倒した為だ。それに、経験値10倍というチートなスキルがあるお陰かもしれない。
「ほら、あそこに、村が見えて来たわ。あそこに、寄りましょう? 」
「村というより、掘っ立て小屋にしか見えないのデスが……」
「この時代では、あれが、当たり前なのよ。ほら、エリック、そこにも魔獣がいるわよ」
「はい、はい」
エリックさんが、リーゼにしごかれている。いつもは、俺の役割だが、端から見てると面白い。
という事は、俺も面白がられてた訳か……
狩り獲った魔獣は、食べられるものは、収納してある。この世界では、自給自足でなりたっている。
みんなもレベルが上がっているせいか、疲れは殆どない。むしろ軽いくらいだ。
町? 村? と思われる数軒の小屋が立っている集落に着くと、見えてきた光景に目を覆いたくなるばかりだ。
痩せ細った子供達……
倒れ寝込んでいる大人……
明らかに絶命しているであろうと思わしき人……
「こ、これは……」
「酷い、酷いですわ……」
「うん。想像以上」
「とにかく、介抱しましょう。シロウ、回復薬を分けてくだサイ」
これでは、食事も疎かになっている事だろう。
魔物が近くにまで、きているのに、今まで生きてこれたのが不思議なくらいだ。
回復薬を、みんなに分け、俺は、食事の用意をしようと思った。何か食べれば元気になる人も出てくるはずだ。
少し広い広場で、石を拾い集め竃を作る。他のみんなは、住民の介抱にあたっていた。リーゼだけは、俺の側に来て、一緒に手伝っている。
「シロウは、こういう細かい事が好きなの? 」
「そういうわけではないよ。でも、仕方ないだろう? あんな様子を見てしまったら……」
「シロウは、そう思うわよね……」
リーゼの言葉が、少し気になったが、そんな事を言っている場合ではない。鍋がないので、スキル、日曜大工で、大きな鍋を創り出す。それを見ていたリーゼは、
「不思議な能力ね〜〜便利だけど、戦闘には不向きな能力ね……」
「世の中、戦闘ばかりじゃないから、良いんだよ」
「でも、ここでは、違うわ」
「……そうなんだろうね」
しかし、困った……
魔獣の肉はあるけど、それだけでは……
マイルームで調達するか……
人気のないところで、マイルームのドアを開き、チラシから食材を調達する。米もたくさん買い込んだ。
メニューは、雑炊だ。あの様子では、いきなりの固形物は、胃に負担がかかりすぎる。
良い匂いが立ち上り、俺の周りには、人だかりができていた。もちろん、みんな痩せ細っている。
その時、
「おぉ〜〜いい匂いじゃねーーか! 」
数人の男達が、我が物顔でやって来た。並んでいた子供や女性達を蹴り飛ばし、俺の前にやってくる。
「おい、兄ちゃんよ〜〜早く、それ、俺達に分けろや! 」
何処にでもいそうな、荒くれ者だ。
「ちゃんと、並ばないと渡せないよ。それに、突き飛ばした人に謝罪が先だ」
「わははは、何、言ってんだーー、てめーーは? はぁ! 俺様を誰だと思ってるんだ」
「面倒くさいやつらだ……」
「何おーーいいから早くそれを寄越せ! 」
そいつらは、俺に殴りかかってきたが、避けるのも面倒なので、シールドを張った。そのシールドに弾かれてその男は、手を痛めて転がりまわっている。
「てめ〜〜! 魔法使いか! それなら、遠慮はいらねーーよなっ! 」
男達は剣を抜き、束になって俺に襲いかかってきた。シールドを張っているので、俺は防御もとらずに、ただ、食事の用意をしていた。そいつらの剣は、何度も何度もそのシールドに当たった。
しつこいし、面倒なので、そいつらを風魔法で吹き飛ばした。荒くれ者達は、遥か彼方の草原に落ちたらしい。そこには、魔獣がいるから、きっと、そいつらの相手をしてくれるだろう。
「シロウは、エゲツないね。ちゃんと相手してあげれば良いのに」
「リーゼも、見てないで、邪魔する奴は追っ払ってよ。食事の用意が遅くなるし」
「だって、面倒なんだもん」
確かに、そんな奴らの相手をしてるほど、暇じゃない……
俺は、完成した雑炊をみんなに分けた。みんなは、夢中でそれを食べていた。
弱った人達を介抱していた他のみんなもそこに集まった。薬を飲んで元気になった人達も一緒だ。
だが、亡くなってしまった人は、もう、どうにもできない……
少し離れた場所に、穴を掘り、お墓を作る。
そのまま放置していたら疫病の恐れもある。
「リーゼ、何処もこんな様子なのか? 」
「そうよ。でも、ここはマシな方ね」
「マジか……」
これは、本当に大変な事だ。
俺達は、レベル上げも兼ねて、旅をしながら、村里に寄り、同じ事を繰り返した。今日は、食事にありつけても、明日にはどうなるかわからない。
早く、安定した食料と、治安をどうにかしないと……
リーゼが言っていた事が骨身に染みるほど、理解できた。
◆◆◆
一方、シロウ達が消えた日本では、
「サツキ、どういう事なの? ちゃんと説明して! 」
日光から帰ったサツキは、シロウが、連れ去られた事を家族に説明している。でも、サツキ以外、シロウの能力を知らないみんなは、どういう事か理解できないようだ。
「だから、シロウ兄の他にもエリックさんやシアンさん、それと、アンリエット王女が消えちゃったんだよ」
泣きながらそう訴えるサツキを見て、ただ事ではない事は理解できる。しかし、肝心な部分が良くわからないようだ。
「仕方がありません。私から説明致しましょう。ホホーー」
「わぁーー! ふ、フクロウがしゃべったーー! 」
「失礼な! 私は冥府の大君主ソラスです。フクロウなどというチンケな鳥ではありません! 」
「冥府? 大君主? 」
「まぁ、普通の人族なら驚くのも無理はありませんけど……実は……」
ソラスは、今までの事を話し出した。足りない部分は、サツキやスズネがフォローを入れてみんなに説明している。
ここには、サツキ、スズネとソラスしかいない。リーナの部屋に置いてあるドアを使いソラス以外の悪魔達は、冥府に帰っていった。
「あのね、サツキ、何でもっと早く言わなかったの? 」
「異世界? そんなとこあるの? 」
「睦美も行きたーーい」
二葉、三季、睦美は、ソラス達の説明を聞いて、納得できる部分もあった。最近のシロウは、何かがおかしかったからだ。
「言えるわけないでしょう? 頭のおかしい子だと思われちゃうもの」
「それは、そうだけど、言ってくれないとわかんないじゃない」
「じゃあ、言ったら二葉姉は信じてくれたの? 」
「信じるわよ。サツキは、嘘をつけるような子じゃないからね」
「……ウェ〜〜ン」
サツキは、また、泣いてしまったようだ。
「でも、シロウがね……あの子、昔から心配だったのよ」
「お姉さん、何が心配だったのですか? 」
「スズネちゃんならわかるかもしれないけど、あの子、生きてる感覚が無いというか、魂がここに存在してないというか、説明しずらいんだけど、生きてるぞーー! って、生命力を感じなかったのよね。臆病なくせに大胆で、すぐ諦める。それは、自分の命もよ。でも、自殺願望があるとか、死にたがりとかとは違うの。こう、何かが起きた時、しょうがないか……って諦めるような感じよ。だから、お母さんと相談して、家事を任せる事にしたのよ。忙しく何かをやらせてないと、ダメになると思ったから……いつか、シロウにとって大事なものがたくさん増えれば、生きる力が出てくると思ったのよ」
「お姉さんの言ってる事、良くわかります。私も、シロウ君と同じです。小さい頃から、いろいろなものが見えて、幼稚園までは、たくさん友達もいたんです。でも、小学校に上がると、みんなから嘘つき呼ばわりされたり、不気味な子っていうような目で見られてました。でも、私には、見えるし、わかるんです。だから、退魔師の仕事で自分の命が亡くなってもいいや、みたいな感覚はいつも抱いてました。そんな時、シロウ君に出会ったんです。何故か、気になりました。もしかしたら、私と同類なのでは? というかそんな感覚です。今は、大切な友達ですけど、きっと、私が男だったらシロウ君みたいだったのかな? って思ってます」
「そうよね。黎明さんから少し聞いてるわ。学校とか今の社会は、枠内に収まる人間を求めているのよ。つまり、常識から外れない人をね。でも、初めから外れていた人は、どうする事も出来ないわ。最近の社会では、個性を尊重するって話もよく聞くけど、それは、枠内に収まった個性の事よね。あまりにも逸脱した個性は、疎まれちゃうわ。スズネちゃんみたいな異能の力を持って産まれたらなおさらよね。だって、スズネちゃんの常識と、何も持たない普通の人間の常識はあまりにもかけ離れているから……だから、スズネちゃんの方から、一般の常識の枠に収まるように努力しなければならないのよ。でも、それは、自分を偽ることでもあるわ。だから、人より悩み、人より苦労しなければならない。きっと、そんな時にシロウと出会ったのね」
「はい。その通りです……」
「シロウは、ガチガチの枠内の人間なのよ。だから、もし、異能の力を持ったとしても、きっとそれを無闇に使おうとしないはずよ。使えば、自分の常識を壊す事になってしまうから……臆病なのよ。枠から外れたくないという意識が高いんだわ。サツキも似たようなとこあるからわかるわよね? 」
「わかるよ。私もそうだもん……」
「もっと、早く相談してくれたら、良かったのに……でも、仕方ないわね。帰ってくるって言ったのでしょう? 」
「そこまでは……その場にいなかったから……でも、ちょっと借りるねってリーゼっていう悪魔が言ってたのは本当らしいよ」
「じゃあ、待ちましょう。それしか方法ないし。お母さんには、誤魔化しながら上手く言っておくわ。でも、今度、隠し事したら、ただじゃおかないからね! 」
「はい……」
「もう〜〜シロウったらっ! 帰ってきたら、説教だな! 」




