第119話 ーーーその時、シロウはーーー
クルミのカマイタチによって傷つけられた悪竜アジ・ダハーカの皮膚の部分から、大きな牙を持ったトカゲなような魔獣が溢れ出てきた。目が赤く不気味に光り、気持ち良い物ではない。
「あの悪竜、赤ちゃん産んだ」
「シアン、この緊急事態に言葉を選んでくだサイ」
「本当の事、嘘は付いていない」
「全く、貴女は……」
エリックは、シアンの言動に呆れている様子だ。
「雑魚は、私が始末致しましょう。ホホーー。他の皆さんは、悪竜をお願いします。ホホーー」
吸血鬼達も血を吸い終わり、回復したようだ。ゼロ達は、相変わらず、テンション高いが、ドラ子は、至って平静だった。
吸血鬼達はそのまま、悪竜に向かって行った。ドラ子は大鎌、ドラ太郎は剣、ドラ次郎は手甲、ドラ代はプロペラ型の武器をそれぞれ駆使して、悪竜に襲いかかる。
思ってたより、皮膚が硬いのか、それとも覆っている鱗が邪魔をしているのか、吸血鬼達の武器も思うように肉に届かない。悪竜の傷が増える度、そこから、トカゲの魔獣が湧き出てきた。
スズネは、破魔の剣で、そのトカゲを斬り裂き悪竜に向かっていた。吸血鬼達の攻撃が激しく迂闊に近寄れなかった。スズネは、最高神ゼウスの加護を受けており、その加護で空を飛ぶ事ができる。地上からでは、難しいと判断して空からの攻撃に変える。
アンリエット王女は、サツキから借りた聖剣を手にして、華麗なフォームで、トカゲの魔獣を斬り裂き、悪竜の後方に位置して、その足の部分に剣を突き立てる。しかし、鱗が邪魔して、思うように傷付けられない。それに、悪竜の尻尾が大きく左右に動いて、それを避けるだけで一苦労しているようだ。
「王女様、私が、尻尾を抑えます」
武器を半壊させてしまったクルミは、その肉体だけで、悪竜の尻尾を掴んだ。小さい身体にどれほどの力を有しているのか、王女は驚きながらも、聖剣で攻撃し出す。
ソラスは、溢れ出したトカゲの魔獣を見て、
「蛇公爵でも良いですが、この場合は、カマキリ特攻隊にお願いしますか……出でよ! カマキリ特攻隊、我の命に従え! 」
ソラスの掛け声と共に、人間大のカマキリが、10数体現れた。ソラスの前で跪いている。
「あのトカゲをやっつけなさい。刈り取った肉は、そのまま食しても構いません」
その掛け声と共に、カマキリは、トカゲ魔獣を攻撃し出す。持ち前の鎌で『ザクザク』とトカゲを斬り裂き、食していた。
それを、後方で見ていたエリック達は、
「わぁ〜〜ソラスは、ハンパないデス。オェーー! 」
「配下は、どれもキショい。オェーー! 」
「ソラスは、最高なのよ。私の契約者なんだから〜〜。オェーー! 」
エリック、シアン、そして、サツキもその光景を見て、込み上げるものを抑えられなかった。
◇
吸血鬼達の攻撃は熾烈を極めているが、悪竜を倒す決定打に欠けていた。硬い鱗と皮膚に阻まれ、致命傷を与えられていない。
エリックは、金色の弓で悪竜の目を狙っていた。矢の先には、聖水が仕込んである。悪竜の動きを計算してその矢を放つ。しかし、すんでのところで目から外れ口脇のところに当たった。聖水が飛び散ると、鱗が焦げたようだが、致命打になっていない。そして、何度も弓を撃ち込む。
サツキは、後方から、全方位型天空弾を撃ち込む。突き刺さる光の弾に鱗が剝げ落ちた。
それを見ていたシアンは、
「サツキちゃん。もう、一回天空弾撃ち込んでくれる」
「うん。わかった」
「王女様ーー!サツキちゃんが天空弾を撃ち込むから、同じ場所に聖剣を突き立ててくれますかーー! 」
「わかりましたわーー! 」
「じゃあ、行くよ」
サツキは、悪竜の背中脇のところに天空弾を撃ち込む。計算通り、その周辺の鱗が剥がれ落ちた。そこに王女の聖剣が突き刺さる。しかし、浅い……
クルミは、その王女の撃ち込んだ聖剣の柄をジャンプして思い切り足で踏みつけた。聖剣が、内部まで突き刺さったようだ。
「王女様ーー!聖剣に雷撃をーー! 」
ミリエナ国を襲った時、王女の雷撃でキメラを倒したと聞いたので、シアンは、雷撃を喰らわせれば悪竜の内部から破壊できるのではないかと考えた。
「わかりましたわーー! 【天空に響き渡る雷よ。その力を聖剣に与え給え! 】」
アンリエット王女の言霊によって、空から雷が悪竜に突き刺さった聖剣に向かって落ちた。その衝撃音が周囲に響き渡る。
悪竜アジ・ダハーカは、ブルブル震えながら体面を覆っている鱗の隙間から湯気が立ち上り、その動きを止めた。
シアンは、その悪竜に向かって浄化の魔法をかけた。開いていた目が静かに閉ざされ、悪竜アジ・ダハーカは、絶命した。
そして、悪竜に突き刺さった聖剣は、粉々に崩れ落ちた……
◇◇◇
俺が、ミミーのシールドを抜けると、そこは、さっきまでとは、違う世界だった。湿地帯だったはずの地面が、硬くなっており、ゴツゴツとした大きな岩が突き出ている。まるで、月か火星の地上のようだ。
「これが、アンラの力なのか……」
世界を作り変える力を持つアンラの能力の一端を目にした俺は、驚くというより、思考が止まって考えるという事を放棄したような状態だった。ただ、アンラをどうにかしなければ、という思いだけでその場を進んだ。
天空から光の矢を放ち、女神達は、アンラを攻撃していた。しかし、アンラは、蚊にでも刺されたように、黒炎を突き抜けてくる光の矢が当たった場所を『ボリボリ』掻いている。
アンラの黒炎が女神達に襲いかかるが、女神達が纏っている光のオーラで打ち消されている。
「黒炎が、消されてる……これが、神族の対抗策か……」
アンラは、神族と戦い慣れてるようで、黒炎が弾かれる事を知っていたようだ。風の魔法を操り、女神達を天空から地上に落とした。威力の大きいダウンバーストのようだ。
女神達は、尻餅をついてお尻を撫で回している。結構、痛かったようだ。そして、俺を見つけ、
『シロウ、何してるんですか! 早く、あいつを何とかしなさい! 』
『エリーゼ、人族には無理よ〜〜。痛ぃ……』
……全く、この女神達は……
『また、来たのか、人族! おめーー女神と知り合いみてーーだな? やはり、お前は、即、殺だ! 』
アンラの黒炎が伸びる。聖剣を盾にしその黒炎は2つに裂かれた。
「あれ、さっきより、扱いやすくなっている……もしかして、リーナ達のおかげか……? 」
身体も軽いし、アンラの黒炎の動きも良く見える。
「これなら……」
俺は、黒炎を裂きながら前に進む。アンラは意外そうの俺の動きを見ていた。そして、
「サタンの娘、何かしやがったな〜〜おもろっ! 久々に剣で戦ってみるか……」
アンラは、黒炎の一部を剣に変えて、俺に向かってきた。俺は、その件を上段で抑え込むと、足の周りが『ドスン』と音を立てて円形状にめり込んだ。隕石でも落ちてきたような感じだ。
「うっ……」
アンラの剣は、重く、そして、早い。防御だけで精一杯で反撃できる気がしない。
『おら、おら、おら〜〜』
面白そうに剣を振るアンラの姿は、まるで、部活の鬼コーチのようだ。ニタついた顔が勘に触る。
女神達は、また、上空に上がり、今度は、浄化の魔法を使ったようだ。綺麗な光の粒子が、キラキラ光り落ちてくる。
アンラの黒炎は、その光に触れると、勢いが小さくなる。悪魔にとって浄化は厄介な代物らしい。
剣を振るいながら、アンラは、上空の女神達に、さっきと同じダウンバーストの風魔法を繰り出す。同じ手に二度はくわないだろうと思っていたが、また、上空から女神達が落ちてきた。
『痛たたたた……シロウ! 何、見てるんですかっ! 』
『また、お尻、打っちゃったわ。痛ぃ』
その光景を目の端で見ていた俺は、ツッコミを入れたい心境だが、そんな余裕はない。アンラの剣は、とにかく、凄い……
『人族、避けてばかりいねーーで、打ち込んでこいよ〜〜ツマラね〜〜だろう! 』
「そんな余裕はないんだよ! 」
『撃ち合っている相手にそんな事を言うなんて、バカなのか? お前』
「バカで結構だ。実力は、自分が一番知っている」
『弱者ってのは、本当、無駄な事しかしねーーのな。もう、ツマンねーーお終いだ』
アンラは、剣を振るいながら、魔弾を撃ち込んできた。俺は、剣は受け止められたが、魔弾をモロに喰らってしまった。その反動で、後方に数十メートル転がり、身体のあちこちから、血が滴っていた。
『ほぉーー結構、頑丈じゃねーーか! 加護でももらってるのか? 』
アンラは、ニタニタしながら、今度は、女神達を攻撃しだした。攻撃体制ができない女神達は、防御だけで目一杯だ。
俺は、アンラに、魔弾を撃ち出す。しかし、黒炎に吸収されてしまった。
……そうだった……魔法は、吸収されちゃうんだ……
俺は、女神達のところに駆けつけ、聖剣でそれを防ぐ。女神メサイヤは、その隙に天空に逃れる事が出来たが、エリーゼは、怪我を負っているらしく、動きが鈍い。そして、
『わぁ〜〜もう、面倒くさい。お終い、お終い』
アンラは、そう言うと、黒炎を収縮しだした。そして、一気にそれを解放する。
『ドォーーン!! 』
物凄い轟音とともに、凄まじい衝撃波が走る。俺は、女神エリーゼを抱えたまま吹き飛んでしまった。
『……シロウ……シロウ』
何処からか声がした。目を開けると、女神エリーゼがそこにいる。
『シロウ、やっと、目を覚ましましたか? まだ、戦いの最中ですよ』
そう言う女神エリーゼは、頭から血を流していた。
「女神様、血が出ていますよ。この回復薬を飲んで下さい」
『大丈夫です。神族は、自己治癒能力を持っていますから、すぐに回復します。それより、シロウ、貴方こそ、その薬を飲みなさい。すごい怪我ですよ』
女神に言われて自分の身体を見ると、あちこちボロボロだった。
『私を庇ってくれた事には、感謝します。お陰で、この程度で済みました。ですが、あの邪神を蘇らせた事には、私は怒っていますよ。だから、シロウ、あいつを倒しなさい。女神命令です。そして、これは、その勝利の祝福の前渡しです……』
女神エリーゼの顔が近づいてきた。そして、唇に温かいものが触れ、液体が流れ込んできた。すると、身体の傷が塞がり始め、体力が回復する。
「あの〜〜女神様……これって……」
『良いから行きなさい。私の初めてを捧げたのですから、その分の働きをしてきなさい! 』
「はい。わかりましたーー! 」
俺は、女神エリーゼにどやされ、その場を後にした。女神様は、安心したようで、その場で俺を見ながら自己回復しているようだ。
周辺の状況は悲惨だった。ミミーとリーナは、防御シールドごと吹き飛ばされたようだ。マップで確認すると、2魔共に無事だったが、リーナやミミーは怪我を負ったようで血が滴っていた。
俺は、その光景を見て、内側から溢れ出す何かを感じていた。そして、それは、一気に俺の周囲に飛散した。
俺は、紫炎を纏っていた……




