第118話 ーーー冥府の黒炎 VS 原初の黒炎ーーー
黒炎が一回り大きくなり、リーナは、完全な戦闘態勢に入ってしまった。
こうして、近くでリーナの戦闘を見るのは、堕天使アザゼルとの戦闘以来だ。
お互いの黒炎が混じり合い、少し透けていた黒色が真っ黒に変化する。黒炎同士がぶつかり合う度、周囲に衝撃波が襲う。その度に、小さな地震が頻繁に起きていた。
俺は、ミミーが張ってくれたシールドの中で守られている。
「これ、結界持つかな? アザゼルやルシファー先輩大丈夫か? 」
「大丈夫だと思いまちゅう。でも、長くは、無理なのでちゅう」
「そうだよね……」
お互い、魔法攻撃は仕掛けていない。魔力を吸収されてしまうからだ。黒炎の強さで勝負が決する戦いだ。
リーナの魔力は十分にある。だが、黒炎の方は、アンラの方が上のように思える。それは、黒色の濃さでそう感じた。
打ち出すスピードは拮抗している。防御も同じぐらいだ。以前、神と悪魔が協力してアンラを封じたとなれば、アンラの力は、まだ、余裕がありそうだ。しかし、リーナには、その余裕は感じられなかった。
リーナだって、いつまでも、戦える訳ではない。持久戦になったら、こっちが不利だ。
「俺、リーナのとこ行くよ。ミミーは、大人しくここで待ってて」
「ダメなのでちゅう。アンラの本気はこんなもんじゃないのでちゅう。絶対、シロウお兄ちゃんは、死んじゃうのでちゅう」
「でも、行くよ。ゴメンね。ミミー」
俺は、ミミーのシールドを抜け、2魔が戦っている近くまで移動する。そして、アンラがリーナに話しかけている声を聞いた。
『お前、サタンの忌子だろう? 』
「何の事だか理解不能」
『お前、母親殺しだろうって言ってんだよ』
「母は、病気で亡くなった。意味わからない」
『わはははは。お前の周りの悪魔達は、悪魔らしからぬ優しさを持ってるようだな。真実を知らせないとは、本当、呆れるぜ』
「そのニタニタしてる顔、キショい」
『はぁ!? 何言ってくれてんの? てめーーアフラと同じ事言いやがって! 』
「アフラの気持ちがわかる。お前は、キショい」
『よくもまぁ、久々に蘇ってみれば、人族には生意気な口をきかれ、サタンの娘には、アフラと同じ事言われ、もう、やってらんねーーぜ。ここいらで、終わりにすっか! 』
アンラの魔力が跳ね上がる。すると、黒炎は更に大きくなり、もの凄い衝撃波が伝わる。
俺は、聖剣を地面に刺し、シールドを張り何とかやり過ごせた。さっきの会話を聞いていたお陰で心構えができてたからだ。リーナは、数十メートル後ずさった。黒炎を纏っていてもこの後退だ。邪神と言われるだけあって、アンラの力は、本物だ。
さっきの衝撃波のせいか、男体山の頂上から噴煙が登り始めている。すると、
大きな火柱とともに、モクモクと綿飴のような灰色の噴煙が噴き出した。
『おーー花火が上がったぜ! 景気がいいじゃねーーか! 』
まさかの、男体山の噴火だった。
アザゼルとルシファーの結界のお陰で、被害は少ないが、それでも、結界内の建造物は、崩れ落ちている。
『おい! サタンの娘。さっきの話の続きをしてやるよ。お前の母親は、お前が生まれた時にその黒炎に飲まれて死んだんだよ。おかしいと思わなかったのか? お前は、フェニックスを知ってんだろう。病気で死ぬわけねーーだろう。涙、飲ませれば治っちまうのによーー。涙飲ませてねーーって事に少しの疑問も持たなかったのか? お前は、母親を自分の黒炎で殺したんだよ。ノー天気な女なだぜ。全く』
「…………嘘、嘘だ」
『あとで誰かに聞いてみるんだな? 存在してたらの話だけどよーー! わははは』
「だ、黙れ! この外道! 」
リーナの炎が揺らぎ、大きくなっている。
……暴走仕掛けてるのか? ……
「ダメだ。リーナ! 意識をちゃんと持てーー! 」
「煩い、煩い、煩い、嘘だ、嘘だ、嘘だ……」
「リーナ! ダメだ。アンラの言葉に惑わされるな! リーナ!! 」
「煩ーーい!! 」
『ようやく本気になったか? つまらねーー戦いは好きじゃないんでね』
「殺す。殺す。殺す」
リーナの黒炎が周囲を巻き込み大きくなってアンラの黒炎とぶつかる。その衝撃は、さっきと比べものにならない程、大きなものだった。
アンラは、ニタニタ笑いながら嬉しそうにリーナの黒炎を防いでいる。俺は、そんなアンラを見て違和感を感じた。
「まさか! わざとリーナを暴走させて、湧き出た魔力を吸収しているのか? 」
アンラの黒炎の一部が霧散されていた。どうやら、アンラの思惑に嵌ってしまったようだ。
「嘘だ、嘘だ、嘘だ……嘘付きは、殺す、殺す。殺すーー! 」
リーナの攻撃が更に激しくなる。これでは、迂闊に、近寄れない。それに、完全ではないが、リーナは、暴走仕掛けている。
「何とかして、リーナを止めないと……」
すると、噴火した雲の切れ目から、光が差し込んできた。『薄明光線』又は『天使の梯子』といわれる現象だ。その光は、だんだんと大きくなり、その中を天から何かが降りてきた。そして、それは、俺の方に移動してきて、
『シロウ!! 何してるのですか? 馬鹿なのですかっ! この世界に邪神を復活させるなんて! 』
「はい!? 女神様、何でここに……」
そこに現れたのは、女神エリーゼだった。それと、女神メサイヤもいる。
『先程、冥界の姫がやって来て、邪神が復活するかもしれないから、と封印の協力をお願いに来たのです』
「リーナが……それで、遅くなったのか……」
『シロウ、貴方は、また、私の管轄の姫を勝手にこっちの世界に連れ出したでしょう? あとで、お仕置きです』
「メサイヤ様も来てくれたのですか? 」
『仕方なくです。エリーゼが行くというものですから……』
……相変わらずだ。ストーカー気質が抜けてない……
『それより、冥界の姫の暴走を先に止めますよ。シロウ、その間の防御をお願いします』
「わかりました」
女神エリーゼと女神メサイヤは、杖を持って上空に駆け上がり、リーナに浄化の魔法を施す。天から降る綺麗な光に辺りは、眩く照らされた。
それを、見ていたアンラは、
『アフラのカケラの神族か〜〜これは、ちょうどいいや〜〜』
不敵な笑みを浮かべて、それを眺めていた。そして、黒炎の弾丸を女神達に打った。
俺は、予想してたので、それを、聖剣で食い止める。アンラは、
『また、お前か、人族! てめーーさっきから、邪魔ばかりしやがってよーー! 何様のつもりなんだ! 』
アンラは、悔しがりながら、喚き立てていた。
リーナは、女神達の浄化で落ち着いて来たようだが、心ここにあらずといった表情で、生気がない。
俺は、リーナの元に駆け寄った。
「リーナ、今は余計な事を考えちゃダメだ」
「シロウ……私が……お母さんを……お母さんを……」
「リーナ、辛くて悲しい事があれば俺にぶつけろ! 俺は、いつも、そばにいるから……」
「……シロウ」
『チェッ! つまんねーー奴らだぜ! もう、本気出しても良いよな。こんな世界、終わりにしよーーぜ! 』
アンラは、そんな俺達の事を待っててくれるはずもなく、リーナから掠め取った魔力を使い、空間を歪ませた。
湯気の向こう側を見ているようで、この周辺の空間が揺らいでいる。
『ダメです! そんな事をしたら、この世界の因果律が崩壊しちゃいます』
女神エリーゼは焦りながら、メサイヤとともに光の矢を取り出し、アンラに撃ち込む。
その光の矢は、黒炎を突き抜けるが、アンラの素の防御力によって、防がれてしまった。
『何なのです。貴方は〜〜こんなの聞いた事ありません』
『エリーゼは、知らないの? アンラは、神族が束になってやっと封印できた怪物よ。私達だけの力でどうにかなる相手じゃないわよ』
『メサイヤ、私は首席です。そんな事は知ってます。ただ、驚いただけです』
女神達は、上空で騒いでいた。
俺は、リーナをミミーの防御シールドの中に入れて少し休ませた。
「ミミー悪いけど、少しリーナをお願い」
「わかったのでちゅう」
「シロウ、行くの? 」
「リーナは、休んで魔力を回復してね。俺は、アンラを止めないと……」
「わかった。シロウ、こっちきて」
「えっ! 」
俺は、リーナに口を塞がれた。柔らかな感触が温かい液体と共に伝わり、その液体を飲み込む。
「これで、少しは戦えるわ」
「え〜〜と、その〜〜」
「リーナおねーちゃんばかりずるいでちゅう。ミミーもするでちゅう」
今度は、ミミーに口を塞がれた。リーナと同じ温かい液体が口の中に入ってくる。
「ミミー、ダメだよ〜〜」
「良いのでちゅう。もう、二回目なのでちゅから」
そういえば、ミミーと契約した時は俺が血をあげたんだっけ……
「シロウ、身体の中の魔力を表面に溢れ出す感じ。わかった? 」
「リーナ、何の事かさっぱり理解できないんだけど……」
「もう、ダメってなったら思い出して」
「……わかった」
「今は、それで良い」
俺は、ミミーの防御シールドを抜けて外に出る。そこは、さっきとは、違った歪んだ世界だった。
◇◇◇
「もう〜〜なんなのよ〜〜これ〜〜」
アザゼルは、結界を維持しながら、空間の歪みが広がるのを防いでいた。
「全く、シロウは、何やってんだ。俺に、こんな裏方仕事させやがって、先輩を何だと思ってやがるんだ」
ルシファーもこの歪みを抑えるのに一苦労しているようだ。
『これが、終わったら、酒をたんまり奢らせてやる。わかったか! シロウ 』




