第117話 ーーー悪竜 アジ・ダハーカ ーーー
俺の手には、聖剣が握られていた。この、聖剣は、前勇者がリーナの父親、アスモ=サタンと戦って折れていたものを、鞘に入れて復元したものだ。
勇者がどのような人物かは知らないが、この剣で冥府の悪魔達を倒した事は事実だ。勇者にできて俺に出来ない事はない。
そう思っていたが……
アンラの黒炎は、さっきより一回り大きくなり、攻撃も素早くなっていた。避けるのも、無理な状態だ。
『おい、人族、お前、人族にしては、人間離れしてねーーか? 』
「いろいろ苦労してるもんでね」
『魔力が補充しずらい世界ってのは、結構、面倒だな……仕方ねーーな。アレを出すか……』
アンラは、ポケットに手を入れ、中でゴソゴソしている。余裕そうな顔を見ていると腹が立ってくる。
『アジ、ちょっと吸血鬼やフクロウのとこ行って魔力集めて来いや! 』
アンラは、ポケットから石のような物を放り投げた。その石から、物凄くデカい竜が現れた。
『ブォオオオン! 』
『アジ、あっちの方だ。ちゃんと魔力集めて来いよなっ! 』
『ブォオオオン! 』
その竜は、アンラの使い魔らしき存在らしい。アンラの言うことを大人しく聞いて行動し出した。
「何だ、あのデカい竜は? 」
『何だ。お前、竜を見た事ねーーの? ダセーーなぁ。あれは、アジ・ダハーカつって、俺が創り出した悪竜だよ』
「悪竜? 」
マズい……サツキ達が危ない……
『サツキ、大丈夫か? 』
『大丈夫だよ。兄から薬もらっておいて正解だったよ』
『無茶するからだ。それから、そっちにデカい竜が向かった。みんなに知らせておいてくれ』
『今度は、竜なの? わかった。兄も気をつけてね』
『兄、兄言うな』
『ベーーっだ』
……[念話終]……
悪態を吐くようなら、大丈夫だろう……
サツキに念話を入れる為、アンラと距離をとったつもりだったが、いつの間にか目の前に黒炎が迫って来ていた。
「おーー危ない……」
この状況で、念話はもう無理そうだ……
『おい、人族、こっちもそろそろ終わりにしようぜ! 手加減しててもつまんねーーからな』
あれで、手加減してたの?………
黒炎を何度も聖剣で防いでいたせいか、聖剣にヒビが入っている。鞘に戻して修復させたいが、その隙もない。
ドアを開いても、大人しく入ってくれそうもないし……
すると、また、アンラの攻撃が始まった。早さもそうだが、威力がさっきより半端なく強くなっている。聖剣も折れそうだ……
ミミーが、何やらゴショゴショしている。そして、
「あったのでちゅう。これで、アンラも少しは大人しくなるのでちゅう」
と、何かふわふわしたものをアンラに向かって放り投げた。それは、だんだん大きくなって、どデカいスライムになった。
『ボヨヨヨヨン』
スライムは、アンラの黒炎の真上から落ちてきた。一瞬、スライムの中に黒炎ごとアンラが閉じ込められる。しかし、それも、一瞬だけの事だった。すぐに、そのスライムは黒炎に吸収されてしまった。
『何だ〜〜今のは〜〜攻撃のつもりなのか? お前、ベルゼブブの娘だよなぁ〜〜何、さっきから人族の味方しちゃってんの? 親父に怒られるぞ! 』
「シロウお兄ちゃんは、ミミーと契約してるでちゅう。それに、パパは……もう、いないでちゅう……」
『何? あのベルゼブブの親父が死んだの? まじウケるんですけど〜〜わははは』
「煩い! 馬鹿アンラっ! パパの悪口はゆるさないでちゅう」
『ちゅうちゅう、うるせーーよ! 黙れ! ガキ』
アンラの黒炎がミミーに襲いかかる。ミミーは素早く避けたようだが、どうも動きが遅くなっている。
「そうか! 霧散黒炎を知らないうちに撒かれたのか? 」
俺は、ミミーの元に駆けつけ、襲ってきた黒炎を聖剣で防ぎ、そして、ミミーを抱えた。だが、とうとう、黒炎の勢いに聖剣が耐えられなくなり、
『ポキッ!』
俺は、鞘を取り出そうとしたが、黒炎の攻撃が収まらない。折れた聖剣では、もう、限界だ。黒炎が手前で2つに別れた。1つは、剣で防げるが、もう、1つは無理だ。
俺は、黒炎がミミーに当たらないように、庇う姿勢をとるが、もう無理だ……
ダメだ。当たる……
「遅くなった。シロウお待たせ」
その声をどれ程聞きたかった事か……
「リーナ……」
アンラの黒炎をリーナの黒炎が防いでくれていた。
俺とミミーは、リーナの黒炎の中に収まっていた。相変わらず器用な事が出来るリーナの黒炎だ。
「リーナおねーーちゃん。遅いのでちゅう」
「ミミーお待たせ。良い子にしてた? 」
「はい、なのでちゅう」
「リーナ、助かったよ」
「アンラとの戦闘はシロウでは荷が重い」
「自覚してます……」
「それでも、良くやった」
アンラの黒炎とリーナの黒炎がぶつかり合っている。それも、激しいレベルのぶつかり合いだ。俺達と話をしている場合でもなさそうだ……
俺は、この隙に聖剣を鞘に納め修復させた。
「シロウ達は、後ろに下がってて、今、移動させる」
リーナの黒炎が伸び俺とミミーをかなり後方に運んでくれた。その間もアンラの黒炎は、リーナの黒炎と激しくぶつかり合っている。
「リーナ! 俺も戦う」
「気持ちは受け取る。でも邪魔」
リーナの黒炎が一回り大きくなった。
アンラのレベルとリーナのレベルでは、かなりの差がある。いくら、アンラが、全回復してないとはいえ、リーナのレベルでは、勝てる保証はない。
「リーナ……」
俺の声は、もう、リーナには届いていなかった……
◇◇◇
一方、サツキ達のところは……
吸血鬼達が転移して来て、休んでいる。サツキも回復しているが本調子でないようだ。
「シロウ兄から伝言、デカい竜がこっちに向かってるって! 」
「ほぉーーそれは、アジ・ダハーカでありますな。ホホーーケキョ」
「それって、伝説の悪竜ですわ」
「流石、人族のお姫様は、良くご存知であります。ホーホー」
「アジ・ダハーカ、聞いた事がありマス。最悪の竜だと……」
「3つの頭を持っていると教会の図書館で見た」
「実際は、首は1つでありますが、強い事は事実であります。ホホーー」
「そんなのと戦って勝てるの? 」
「サツキ様、勝てるのではなく、勝たないといけません。そうしないと、この世界が滅んでしまうのであります。ホホーーケキョ」
「ドラ子様達が回復すれば問題ないと思います」
「クルミさん、でも、時間がないわ」
「ドラ子さん達は、吸血鬼です。血を吸えば回復します」
「わかったわ。私の血を吸って良いよ」
「スズネさん。シロウ様が言うには、血を吸っても3分しか持たないそうです。戦いが始まる寸前の方がよろしいでしょう」
「私も血を提供致しますわ」
「私も吸って構わないデス」
「痛くないならOK」
「私も……」
「サツキさんはまだ、本調子ではありません。後方で支援をお願いします」
「でも、クルミさん……」
「そういえば、私、剣を持ってこなかったですわ。どう致しましょう……」
「王女様、私の剣を使って下さい。シロウ兄のですけど……」
「シロウ様のですか。よろしいのでしょうか? 」
「大丈夫です。私は、後方支援で剣を使いませんから……それに、それは、聖剣です。きっと、王女様のお役にたつと思います」
「聖剣ですの! わかりました。きっと、お役に立ってみせますわ」
その時、
『ドスン、ドスン……』
地響きが鳴り渡る。どうやら、悪竜が来たようだ……
「住民や観光客の避難は終わってマス。でも、ここで食い止めないと、被害がでマス」
「私が、先に悪竜の行動を抑えておきます。皆さんは、ドラ子さん達の回復をお願いします」
そう言い残しクルミは、大きな金棒を取り出し竜に向かって行った。クルミの本気の戦いは初めて見る。角が現れ、光を帯びている。
近くで見るアジ・ダハーカは、かなりの大きさだ。恐竜のティラノサウルスの3倍程の大きさで羽根が生えている地竜だ。クルミ1人では、抑えられそうもない。
悪竜の前に立ちふさがり、クルミは、金棒を頭上でぐるぐる回し出した。クルミの周りの大気が回転し出し、竜巻が発生する。その竜巻を悪竜にぶつけた。
悪竜は、その竜巻に飲み込まれた。カマイタチ現象が起きているようで、悪竜の身体の皮に傷ができている。しかし、皮が厚いのか、肉を切り裂く迄には至ってない。悪竜は、羽根をバタつかせその竜巻きを消しとばした。
その時の突風が、クルミを吹き飛ばした。そして、悪竜は、口を大きく開け、その口から黒炎を放った。
その黒炎は、辺り一面を無の状態にする。木や草、建造物が一瞬にして、消え去り、残ったのは、ただの荒地だけだった。
クルミは、体制を整え、その黒炎を避ける。しかし、金棒が黒炎に当たったのか、その部分だけ、消えて無くなっていた。
「ホホーー黒炎を吐きますか……これは、厄介な竜であります。ホホーー」
「ソラス、何なの、あの炎、黒いし、それに、触れたもの、全て無くなってるよ」
「あの炎は、冥界にしか存在しない炎です。触れたものを吸収、消失させます。ホホーー」
「リーナさんの炎そっくり……ブラックホールみたい……」
「でも、土壌は残っている。スズネの言うブラックホールとは違う。きっと、意識化で、それをコントロール出来る炎。厄介だけど、当たらなければ、ただの黒い影」
「シアン。次に黒炎を吐きそうになったら教えて、クルミさんの援護に向かうわ」
「待って、スズネ。血の提供が先、折角クルミが時間を稼いでくれている」
「そうね。そうだったわ……」
スズネは、目の前で戦闘が行われているのを黙ってみてられないようだ。退魔師としての血が騒ぐのかもしれない。
スズネ、シアン、王女、エリックは、吸血鬼達に血を提供した。エリックだけは、催淫効果の特性を持つドラ子に吸われた為、落ち着きがなかったが……




