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異世界で引きこもりたいけど周りの女性が許してくれない件について  作者: 涼月風
第4章

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第114話 ーーー記憶の扉ーーー





『あれっ、ここ、どこだ? 』


 俺がドアを開いた先は、長閑(のどか)な街並みが眺められる小高い丘の上だった。


『伯爵のところじゃないの? なんで? 』


 街から続く街道から馬車がこちらに向かってきている。俺は後ろを見ると、そこには、割と大きな家があった。その、馬車はおそらくこの家に向かうつもりなのだろう。


『ここがどこか、あの馬車の人達に聞いてみよう』


 馬車が、俺のすぐそばまできた。俺は、その馬車に向かって割と大きな声を出して話しかける。


『すみませーーん。ちょっと、お聞きしたいのですけどーー』


 馬車は、俺の横を走り抜け屋敷に入ってしまった。


『何だよ〜〜無視かっ! 』


 もしかしたら、馬車の音で聞こえなかったのかも知れない……

でも、御者の人は、普通、気づくよね〜〜


『やはり、無視かっ! イヤイヤ、こんな事してる場合じゃない。ドアを開いて戻らないと……』


 そう思っていると、馬車が着いたのか、屋敷から執事らしき人物が出てきて、


「お帰りなさいませ。ドラキュラ伯爵」


 と言ったのが聴こえてきた。


『マジかっ……あれが ドラキュラ伯爵……』


 馬車から降りてきた若い紳士の横顔は、あの伯爵と似ていた。それに続いて降りてきた美人の女性を、さり気なくエスコートしている。


「ロマンティーナ、疲れてないかい? 」

「貴方、大丈夫よ」


『えっーー! あの2人夫婦なの? それにしても、若い。若すぎる。どうして? そうだ。話を聞いてみよう。すみませーーん。ちょっと、お話があるんですけどーー』


 流石にこの距離で気づかない訳はない……が、また、俺は無視されてしまった。


『もしかして、俺の声聞こえてないのか? 姿も……黒翼のマントは羽織っているけど、魔力通してないし、気配はわかるはずなんだけど……』


 俺は、思い切ってその屋敷に入ってみた。執事の前を通っても、何も言われる事は無かった。


『マジか……見えてないだと……じゃあ、声は……お〜〜い! 』


 執事を始め、ドラキュ伯爵らしき人物とその奥さんらしき人に大きな声を出したが、呆気なくスルーされてしまった。


『間違いない……声も、姿もわからないんだ……』


 理由はわからないけど、ここにいる人達には、俺の存在がないらしい。そこで、スキルの鑑定を使ってみた。これなら、相手の情報がわかるはずだ。


 しかし、それもダメだった。鑑定が機能していない……俺は、ここにある、ありとあらゆるものに鑑定をしてみたが、全て、機能してなかった。


『何故、ここにきてしまったんだ。ここは、何処だ? 』


 ドアを開いて戻ろうと思ったが、ドアも機能していない。つまり、俺は、この、訳の分からぬ世界に閉じ込められてしまったようだ。


 どうする!? 早くしないと邪神が蘇ってしまう……

 でも、ドアも機能しないとなると、どうやって元の世界に戻ればいいんだ?

 まぁ、理由はわからないが、こうなってしまったのは仕方がない……

 俺は、何故かこの状況が気になってあの夫婦の後をつけてみた。


 夫婦は居間に入り、執事がお茶を入れている。その時の夫婦の会話でここが何処なのか直ぐに理解できた。夫婦は、


「貴方、もう、ここもダメみたいですわね。教会の者に目をつけられてしまったようだわ」


「何かあれば、私が君を守るよ」


「でも、貴方。何故、私達が異教徒なのかしら? 普通に暮らしているだけなのに……」


「それは、教会の神託者が我々を異教徒だと認めてしまったからだ。全て、神族の所為(せい)だ」


「ダメよ。貴方。神様を神族なんて言ったら……バチが当たるわよ」


「本当の事さ。私が人外なのを知っているくせに、自ら手をくださず、人族を引導して追いやるなんて、汚いやり方だ。その所為で、お前まで苦労させてしまって申し訳ないと思っている」


「そんな事はないわ。貴方は、どの人族方よりも人族らしいわ。私が保証するわ。それに、お腹の赤ちゃんもきっと幸せになると思うの。貴方の子だから……」


「そろそろ名前決めないといけないな」


「私は、男の子だったらドラ太郎、女の子だったらドラ子が良いと思うの。貴方の名前が入っているでしょう? きっと、幸せになるわ」


「おいおい、それでは、子供が大きくなった時、あまりにセンスがないと怒られそうだよ。できれば、男の子ならバロン、女の子ならマロンなんてどうだい? 君の名前に似て可愛い子に育つと思うんだ」


「嫌、貴方の名前を入れてくれないと、私、怒りますからね」


 その時、執事がやってきて、


「伯爵様、至急、城にお戻り下さいと使いの者が参りました。ご用意をお願いします」


「やれやれ、今、帰ったばかりだというのに、いつもこれだ」


「それは、貴方が優秀だからですわ。お気をつけて行ってらっしゃいませ。貴方」


「すまん、ロマンティーナ。用が終わったら直ぐに戻るから……」


「私は、大丈夫よ。この子がいるから……」


 夫人は、少し目立ち始めてきたお腹をさすりながらそう話す。それに答えるように、伯爵もそっと、その手を重ねた。




◇◇◇




「あれっ、急に真っ暗になったぞーーさっきまで明るかったのに、もう、夜になってる……どういう事? ……ここ、さっきの居間だよね……」


 その時、扉の向こうが赤くなり出し、そして『パチパチ』と火が燃える音がしてきた。


『えっ! 火事!? おーーいー火事だぞーー! みんな逃げろーー! 』


 火の明かりで居間が明るくなって、周りが見渡せるようになってきた。そこで、俺が見たものは、お腹を斬り裂かれて、胸に剣が突き刺さっている伯爵の奥さんの姿だった。


『うっ……な、なんてひどい事を……これじゃ、もう、助からない』


 絶命しているのが一目でわかった。そして、火の手はもう居間の中まで広がっていた。


『マズい、マズい、逃げないと……あれ、熱くない』


 ドラキュラ伯爵はいないようだ。まだ、城から戻ってないらしい。あの執事も見当たらなかった。


『他のみんなはどうしたんだ? 外にいるのはあの執事か? 』


 居間の窓から外を見ると、暗闇の中に火に照らされた執事の姿があった。側には教会の人間らしき服を着た人物が数人いる。


『もしかして、あの執事が裏切ったのか? 俺も、ここを出ないと……』


 俺は、執事と教会の人達の側に行きその会話を耳にした。


『確かにやったのだろうな? 』

『はい。間違いなく……』

『そうか、そうか、お主の働きには、神も感謝するだろう。では、これを受け取れ』


『包みに入っていたのは、きっとお金だろう。執事の奴、お金で主人達を売ったのか! なんて卑怯な奴なんだ』


 俺は、怒りが湧き上がり、執事を何度も殴り飛ばしたが、その身体をすり抜けるだけで、何の効果もなかった。


『クッソーー! 何なんだ。この状況はーー! 』


 教会の者は、資金を受け取った執事をニヤニヤしながらみており、そして、剣をその執事の胸に挿し込んだ。


 執事は、短い呻きとともにその場に倒れ込んでしまった。もう、助からないだろう……


 教会の者達は、直ぐにその場から立ち去って行った。そして、俺は、この後、駆けつけて着たドラキュラ伯爵の壮絶なる魂の叫びを滴り落ちる涙と一緒に聞くことになってしまった。


 そして、伯爵は、


『おのれーー教会の者達! それに神族め! 絶対に、許さない! 』


 立ち崩れて、地面にひれ伏しながら、ドラキュラ伯爵は、そう叫んでいた。




◇◇◇




 俺は、ドアを開いた覚えもないのに、元の場所に戻っていた。ここは、戦場ヶ原だ。魔弾を撃ち込みドアを開く場所を確保したばかりだと気づいた。その証拠にドアのプレートには『ドラキュラ伯爵の記憶』と書かれていた。


 そうか……あれは、伯爵の記憶の扉だったんだ。俺は、気になっていた神族への敵対心を知ろうと無意識にその扉を開けてしまったんだ……


 ドアには、俺の知らない機能がまだ、あるのかも知れない……

 でも、これでわかった。伯爵が何故、邪神を蘇られてまで、神族を滅ぼそうとする理由が……


 伯爵の気持ちは理解できたが、それを止める権利は俺にあるのか?

 リーナは、よく悪魔は『自由な存在』という。

 俺にも、家族を守りたいという自由がある。

 お互いの自由がぶつかれば、強いものが正義か……


 あの記憶では、話し合いなど無駄そうだ……

 逆に、俺が伯爵の立場なら、同じ事を考えていたかも知れない……


 でも、俺にも守りたいものがある。


 覚悟はできた、あとは、伯爵と対峙するだけだ……


 俺は、再び、ドラキュラ伯爵の元にドアを開いた。




◇◇◇



「ドラキュラ伯爵……」

「シロウか、来るのが遅かったようじゃな」


 伯爵がいたところは、当たり一面焦げていた。宝玉の熱が周りを燃やしてしまったのだろう。


「もう、やめませんか? 瘴気が当たり一面溢れ出して、大変な事態になってますよ」


「お主は、儂の記憶を覗いたのじゃろう。なら、止める権利は、お主には無かろう? 」


「何故それを? 」


「儂の記憶に触れる者がおった。そんな事をできるのはお主だけじゃろう? 」


「理由は、わかりませんが、覗いてしまった事は事実です。謝罪しろと言われれば謝罪しましょう。でも、こんな、事をやめてくれたらです」


「それは、できぬ。それに、後ろを見ろ。面白いものが出てきたようじゃぞ」


 伯爵に言われ、後ろを見ると、男体山の大蛇と、大ムカデが争っていた。


「何だーーあれはっ! 怪獣映画かっ! 」

「あれは、ソラスの配下の者じゃろう。なかなか、見応えのある光景じゃ」


「シロウ、儂の記憶を覗いたのならわかるだろうが、儂の存在理由は、神族への復讐じゃ。儂の連れ合い、ロマンティーナは、人族じゃった……よく出来た妻で、悪魔で吸血鬼である儂に心をくれた女性じゃ。それに、儂は妻のロマンティーナだけじゃなく、産まれてくる子供まで奪われたのじゃ。あの世界は、あの後、邪神と呼ばれるアンラ・マンユが復活し、悪魔と神族の全面戦争になって滅びてしまった。その時も邪神を導いたのが儂じゃ。地上の人間はおろか、神族壊滅まであと一歩だったのじゃ。だが、それも、ゼウス神に阻まれてしもうた。そのあとは、また、世界を構築され、前とは違う世界になってしまった……ロマンティーナの存在すら無い世界にのう……。

 その世界でも、悪魔と神族は戦い始めた。また、地上の人族は滅び、再び、再構築された……

 これが、真実じゃ……神族は、世界を構築、管理する種族じゃ。悪魔の私にはなし得ない力じゃ。だが、アンラ・マンユは違う。邪神と呼ばれるこの方は、世界を構築できる術を持っておる。そう、儂が望む世界を構築できるのじゃ。その世界で、儂は、今度こそ、ロマンティーナと……」


 その時、辺り一面が大きく揺れ、空間が歪み始めた。


「シロウ、遅かったようじゃのう。アンラ・マンユの降臨じゃ……」


 その歪んだ空間から衝撃波が走る。その一波で、周辺は吹き飛んでしまった。


 伯爵は、霧化したようだ。俺は、その衝撃波に飲み込まれ、崩れ落ちた男体山まで吹き飛ばされてしまった。


 この衝撃波が、町に届いたら……


 世界は、終わりを迎えようとしていた。









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