第113話 ーーー戦場ヶ原ではーーー
戦場ヶ原で、ゼロ代の影拘束を受けていた俺は、サツキに貸し与えた聖剣で
その影を斬り裂いてもらった。背中が、傷を受けて痛みがハンパない。
直ぐにフェニックスの涙を飲み傷を癒す。流れ出た血液は戻らなくても、傷は塞がり、痛みの次第に無くなっていった。
「シロウ兄、どう? 」
「大丈夫だ。もう、殆ど痛みはない」
「その薬凄いよね。私にも少し、分けて」
「わかった。無茶はするなよ」
「いつも、してないでしょう? 」
……いいえ、サツキ、あなたは無茶ばかりですからっ!……
戦場ヶ原を包み込むように天空の黒い雲が渦巻き、周囲に重く生温かい風が吹き荒ぶ。
「これは……」
「サツキ様、瘴気が満ち溢れてきました。ご注意を……ホホーーケキョ」
「瘴気が……サツキ、何かくるぞ! 気をつけろよ」
「わかってるよ」
すると、湿地帯で覆われた戦場ヶ原の土壌から、無数の埴輪のような武人が現れた。その数の多さに驚きながらもマップで確認するすると、微妙に兜の形が違っている2組の兵士に分かれているようだ。
「何、埴輪なの? 」
「違う。確か、この戦場ヶ原は、大和朝廷以前に中禅寺湖の周辺の領地を巡って争いがあったとされている。恐らく、その時代の兵士達だ。さっき、鑑定で調べたから間違いない」
「あっ、それ、知ってる。確か毛野国がそれで上野国、下野国に分割したんだよね。その時の兵士達が現れたって事? 」
「恐らく瘴気に当てられて、残っていた魂のカケラが実体化する迄になったんだと思う。相手は、兵士だ。油断するな」
「もう、亡くなっている者達だよね。なら、遠慮はしない」
サツキは、全方位型天空弾を使用するつもりだ。俺は、黒翼のマントを羽織り、空に上がる。そして、その兵士達に魔弾を撃ち込んだ。
サツキは、亜空間から天空弾を発射させている。兵士達は、粉々になるが次から次へと土壌から湧いて出てきた。
マップで確認してみると、埴輪型の兵士は、戦場ヶ原だけではなく、中禅寺湖周辺まで、土壌から湧き出てきているようだ。
『スズネ。そっちは大丈夫か? 』
『シロウ君、何なの? この埴輪? 』
『瘴気に当てられて、復活した大昔の兵士達だ。数が多い。気を抜くなよ』
『わかった。正体がわかれば手の打ちようがあるわ。こっちは任せて』
『わかった。一般市民に怪我がないように誘導も頼む』
『承知! 』
……[念話終]……
スズネは、退魔師モードになったらしい。シアンや、エリックさん、それにアンリエット王女やクルミもいる。向こうに溢れ出た兵士達を何とかしてくれるだろう。
問題は、こっちだ。兵士が邪魔で、吸血鬼達の所に行けない……
空から魔弾を撃ち込んでいる俺の側にソラスがやってきた。珍しく焦っている様子だ。
「ソラス、どうしたの? 」
「何だか、嫌な予感が致します。邪神以外にそれに匹敵するようなものがこの地にいるようです。ホホーー」
「邪神以外って? どういう事? 」
「それは、私にもわかりません。ただ、巨大な何かです。ホホーー」
「それって、この地に昔からいた物が兵士と同じように瘴気に当てられて蘇ったって事? 」
「恐らく……ケキョ! 」
「ソラス、サツキと一緒にいてくれ。サツキは空を飛べない」
「わかりました。ホホーー」
あんな焦っているソラスを見るのは初めてだ、何が出てくるってんだ! ……
『ゴゴーー!! 』
また、地震だ。今度もかなり大きい。
ソラスはサツキを抱えて空の飛び立った。その時、サツキが……
「シ、シロウ兄……何……あれ……」
戦場ヶ原の背後にそびえる男体山の頂上からこちらを覗き込んでいる赤い目が見える。その目の大きさから、かなりデカい物体だ。
「あっ……あれは……」
三角状の山の底辺あたりから、モゴモゴ動き始め、まるで山を包み込むようにとぐろを巻いていたかのような大きな蛇がこちらに向かって動き出してきた。
「シロウ兄、あれっ……伝説上の大蛇じゃないの? 昔、戦場ヶ原で大ムカデと戦った……」
この地には、大蛇が住み、赤城山の大ムカデと戦ったという伝説が残っている。その戦いの場になったのが、この戦場ヶ原とも言われていた。
「くそっーー! 吸血鬼達を止めないといけないのに余計な物まで出てきやがってーー! 」
「シロウ兄、こっちは、ソラスと何とかしてみるよ。シロウ兄は、伯爵を止めて」
「あのデカい大蛇をどうするつもりなんだ? 」
「こっちには、ソラスがいるんだよ。冥府の大君主様だよ。大蛇の一匹や二匹ぐらいどうにでもなるよ。だから、シロウ兄。これ以上、被害が出ないように邪神の復活を止めて」
「わかった。ソラス。サツキをお願いします」
「任されてあげましょう。ホーホーホケキョ」
さっきまで、焦ってたくせに、サツキに頼られて、もう、元気になってやがる……
俺は、背後から『ズズズ……』と這い寄る地響きを聴きながら、伯爵の元に向かう。
下では、兵士同士が撃ち合いをしていた。以前、戦った記憶が残っているのだろう。
俺は、伯爵が宝玉に魔力を注いでいる地点まで飛んで行こうとしたが、空は風強風が吹き思うように進めない。あちこちで竜巻も起こっているようだ。
「地上は兵士達がいてダメ。空は強風でダメ。じゃあ、どこ行けばいいんだ! ……そうか、ドアを伯爵のところに開けば……」
俺は、魔弾で地上を攻撃してスペースを空ける。そして、途上に降りた俺は、ドアを開いた。
でも、その時、俺は、こんな大事な時に『ドラキュラ伯爵は何故、神族を滅ぼそうとしてるんだ?』と、考えてしまっていた。
◇◇◇
一方、スズネ達は、
「シロウ様の世界には、変わった形の兵士達がいるのですね」
「王女、あれは、太古に滅びた兵士達よ。瘴気に当てられて蘇ったようなの。構わないから、やっちゃって下さい」
「よろしいのですか? では、遠慮なくお手伝い致しますわ」
アンリエット王女は、戦闘体制に入る。リズムカルに小さなジャンプを繰り返し、親指の腹の部分で鼻を擦り上げた。
アンリエット王女は、女神メサイヤの加護でモーションコピーがある。以前、シロウが大量に見せてくれたDVDの中の武芸家の1人、ブルー◯リーを真似ていた。
「う〜〜あちゃー! 」
回し蹴りで埴輪一体を粉々にしてしまった。アンリエット王女のリズムカルなジャンプは止まらない。小刻みなジャンプの中から繰り出す蹴り技は、威力もあり、埴輪の身体をことごとく粉々にしていく。
また、スズネは、破魔の剣で次々と斬り裂いていた。神屋流の剣技だ。魔の者を滅する為だけに磨き鍛えられた剣技だ。人間の動きしかできない者には相手にならない。
また、シアンはクルミと一緒に一般人の避難誘導にあたっていた。エリックが用意したバスにみんなを乗り込ませる。バスが何台も中禅寺湖の周辺に集まってきているが、最初のバスが、エンジントラブルを起こしたようで道を塞ぎ、山を降りれない状況になっていた。
「エリック、あのバスをどかさないと、避難できない」
「困ったデス。重機でもあれば良いのですが……」
「あの車、バスですか? あれには人は乗ってないのですよね」
「はい、動かなくなってしまったので、後ろのバスに便乗させました」
「壊しても良いのですか? 」
「緊急事態デス。止む終えません」
「では、私が、投げ飛ばします。どちらの方向に投げ飛ばせばよろしいですか? 」
「投げ……そんな事……できるのデスよね。湖になら、火災にならなくてすみます」
「わかりました。湖ですね」
そう言いながら、クルミは亜空間から金棒を取り出し、大きく2・3回素振りをした。そして、見事な一本足打法の構えをして、金棒をバスに向けて打ち込んだ。
『ドッカーーン! 』
大きな打撃音と共に、バスは空に投げ飛ばされていく。そして、見事に湖に着水した。
「すごい……クルミ、すごいデス。これで、後ろのバスが通れマス」
「クルミ、ナイス、ホームラン」
「お粗末様でした」
クルミ達のお陰で一般人の避難は順調そうだ。あとで、口封じが大変そうだけど……。イヤ、もう、拡散してるかも……。いろいろと……
◇◇◇
男体山の頂上から這い出てきた大蛇は、這いずる音を響かせながら、戦場ヶ原の先まできていた。近くでみると、もう、大きすぎて何が何やらわからない状態だ。
「ソラス……あの大蛇、どうにかできそう? 」
「そうでありますね〜〜先程、サツキ様が、あの大蛇と大ムカデが戦ったと言いましたが、それは、本当でありますか? 」
「伝説では、そうなってるけど……」
「では、私の配下、ムカデ攻撃隊と戦わせてみましょう」
「えっ!? あのムカデと……」
サツキは、以前、黒十字教の島でソラスの配下、ムカデを見ていた。思い出したくない記憶の1つだ。
「我が元に来たれ! ムカデ攻撃隊! 」
ソラスが叫びと、地上から『ワシャワシャ』と無数のムカデが這いずり出てきた。ムカデは、蘇って兵士たちの膝下ぐらいまで重なる数の多さだった。その数の多さにサツキは熱いものが込み上げてくるのを必死に我慢していた。
そして、ソラスは、
「さぁ〜〜思う存分、働きなさい。あの大蛇に匹敵するくらい合体して大きくなるのです。ホホー」
ソラスの合図に、這いずり出てきたムカデ達はひと塊りになり、巨大な大百足と変身した。でも、良く見てみると、小さなムカデが寄り集まり大きくなっているようだ。
「さぁ〜〜あのデカい蛇を攻撃するのです。ホホー」
合体した大ムカデは『ワシャワシャ』と音をたてて、大蛇に向かって歩き出した。大蛇も『ズルズル』と這いずり、鎌首を持ち上げている。
太古に争ったと言われる大蛇と大ムカデが、現在、また、この戦場ヶ原で戦おうとしている。




