第112話 ーーードラキュラ伯爵はーーー
先程から、マップを展開して周辺を探索しているが、伯爵の動向はつかめていない。霧化されていたら、気配も感知できない。
「ダメだ……ドラキュラ伯爵らしき者は見つからない……。これからは、会う人物全てに、チェックしてやる! 」
すると、クルミ達がゼロ達を連れてやってきた。ゼロ達は眠そうに目をこすりながら、
「シロウさん、クルミに柩を壊してもいいって言ったでしょう? クルミが金棒取り出して、振り回すものだから本当に壊れるところだったのですよ〜〜」
「ゼロツー。そうしないと起きそうもないから……今、大変な状況なんだ。ゼロ達も協力してくれる? 」
「シロウ様。詳しい話は、クルミから聞きましたけど、本当なのですか? 伯爵がこの世界で邪神を蘇らせるなんて……」
「理由はわからないけど、ゼロスリーは何か心当たりある? 」
「全く無いです。何でそんな面倒くさい事するのか、ちっとも理解できません」
……そうですよね〜〜……
「とにかく、この世界で邪神が蘇ったら大変なんだ。頼むよ」
「後で血を頂けるなら頼まれてもいいです」
「死なない程度に吸っていいから〜〜」
「わかりました。ドラ次郎兄さん、私達は先に転移して伯爵を探しに行きましょう」
「シロウさん、僕にも血を頂戴ネ」
「わかったよ。ゼロツー、約束するよ」
「よっしゃーー! じゃあ、先に行ってるね。シロウさんはクルミと来てね」
吸血鬼2人は、先に湖に転移して行った。ゼロ達を見て、伯爵の気が変わってくれれば、助かるけど……
「クルミ、俺達も行こうか? シアン達が車に乗り込んで待ってるし……」
「わかりました。お供致します」
あぁ〜〜なんで何時もこうなるんだ……
リーナに頼まれて、徘徊老人を探していただけなのに……
悪魔と契約してしまった所為なのか?
嫌、もしかしたら、名前が悪いのかもしれない……
あの占い師のおばちゃん言ってたし……
今度は、絶対、改名してやる!
そう考えながらシアンの車に乗り込んだ。
事故らないで湖まで行ければ良いけど……
シアンが、ハンドルを握り自身満々な顔がとても気になった。
「シロウは、ナビ役。後ろの席じゃない! 」
「えっーー! 」
「早く、時間がない」
「わかりました……」
また、助手席かよ……前だと、超、怖いんだけど……
「3・2・1……発車ーー! 」
「ロケットかよっ! 」
『キキキーー! ブォオーーン!! 』
シアンの運転で『いろは坂』を登る。この時間の登りは、運悪く? 混んでいない。ヘアピンカーブで、後輪を滑らせて走るドリフト走行は健在だ。必要以上に負荷が重くのしかかるGが、体力を削っていく。
「シアン、シアン。ゆっくりでいいから、頼むから安全運転でーー! 」
「今、〇〇豆腐店と書かれた走り屋とバトル中。邪魔しないで! 」
「俺達以外、先にも後ろにも誰もいないよ」
「シロウ、心の目で見ないと見えない。敵は、すぐ後ろに張り付いている」
「えっ!? 」
俺は、後ろを振り返り、そして、マップでも確認したが、誰もいなかった。
「シアン、誰もいないのだけど……」
「いる。私には見えている」
……エアバトルかっ! ……
『キキキキーー!! 』
後輪からゴムの焼けたような匂いがする。
「わかったから〜〜頼むから、安全運転でーー! 」
「シロウは、馬鹿のひとつ覚え。さっきから同じ事を言っている」
「もう、勝手にしろっ! 」
『キキキキーー!! 』
シアンのエアバトルは、湖に着くまで続いた。きっと、渋滞した高速での憂さ晴らしもあったのだろう。でも、そのおかげで思ったより早くたどり着いた。
体力は失ったけど……
◇◇◇
俺達が車で湖の畔にに着くと、ゼロ達がやって来た。
「シロウさん、伯爵見つかんないよ〜〜」
「霧化してるのかもしれません」
「俺もマップで探してるのだけど、伯爵らしき者はいないんだよ」
「シロウ君、考えたんだけど、カシミールさんの話では、宝玉が熱を発するのを水で防ぐのは、邪神に魔力を吸われないようにする為でしょう? もしかしたら、復活させる為だけなら、水辺に限らないのじゃないかなぁ? 周りの被害を考えないで事を成すだけなら、少し広い場所があるだけで良いと思うのだけど……」
「そう言う事も考えられるか……もし、ゼロ達が、宝玉に魔力を注がなければならなくなったら、霧化状態でもできるの? 」
「それは、無理です。魔力を注ぐには実体化してないとできません」
「とすれば、ここら辺で俺達の追跡を逃れながら魔力を注げる広い場所といえば……」
「戦場ヶ原は? シロウ君」
「戦場ヶ原か……」
俺は、マップで確認する。すると、湿地帯の上に1人誰かいるみたいだ。拡大を視点変更でその人物を注視すると、半分透明な状態だ。しかし、時間が経つにつれ、はっきりしてくる。霧化状態から実体化した状況だったらしい。
「いた……伯爵だ。まだ、魔力を注いで無いようだ……」
「ゼロ達、転移頼む。座標は、ここだ」
「わかりました。今、私も伯爵の気配を感じました」
「王女とスズネ、シアン、そしてクルミは、ここにいてくれ。何かあった時、ここら辺の人達の避難誘導をしないといけないし、伯爵を興奮させたく無い」
「わかった。何かあったら念話を頂戴」
「あぁ、そうするよ」
◇◇◇
ゼロスリーの転移で、伯爵の側に転移する。伯爵は、俺達が来る事を知っていたかのように、満面の笑みを浮かべていた。
「うぉほほほ、良くここがわかったもんじゃて……シロウよ」
「伯爵、何してるんですか? 冥府に帰りましょう? みんな探してたんですよ」
「もう、儂はあそこには戻らん。ドラ太郎、ドラ次郎、そしてドラ代も柩から出てくれたしのう……これも、お主のおかげじゃ」
「伯爵……」
ゼロ達は、何か言いたそうだったが、言葉が出てこない様子だ。
「伯爵は、邪神を蘇らせるつもりなのですか? 」
「それが、儂の存在すべき理由じゃ。お主達には、わからぬかもしれんがのう……」
「邪神が蘇ったら、この世界はどうなりますか? 大人しくしていてくれるのでしょうか? 」
「それは……無理じゃのう。あの方は、存在するだけで、被害が出る。人族など滅んでしまうじゃろう」
「そうですか……それは困るので、伯爵を止めるしかありません」
「お主が加護を受けて強くなったのはわかる。だが、それは、人族としてじゃ。悪魔や神族にとっては、まだ、ヒヨッコ同然じゃ。それは、わかっているのかのう? 」
「もちろんです。やっと、この間、ゼロ代の特訓で中級魔法をマスターしたばかりですから……それに、伯爵相手に勝てるとも思ってません」
「でも、止めるのじゃな? 」
「はい。この世界には、大事な家族がいますので、殺される訳にはいきません」
「家族か……確かにそれは、守るだけの価値はあるのう。しかし、くだらん考えじゃ」
「伯爵だって、邪神と親子のような関係なのでしょう? それにドラ次郎やドラ代達だって……」
「そうじゃ。だが、それは、時には足枷しかならん。己の成すべき事の為に阻む障害のひとつじゃ」
「伯爵のやらなければならない事って、やはり、邪神を……」
「それは、方法のひとつじゃ。儂は、神族を滅ぼす為に今迄、生きて来た。邪神といわれる存在、アンラ・マンユとともにのう」
「神族を……」
「話は終わりじゃ。シロウ。血の支配は知っておるかのう? 」
「血の支配? 契約ではなくて? 」
「お主は、悪魔と契約できた稀なる人族じゃ。だが、悪魔の知識がない。血の支配とは、こういうことじゃ」
俺は両腕をいきなり、捕まれた。右にはドラ次郎が、左にはドラ代が俺を拘束している。
「ゼロ達、どうしたの? 離してくれる? 」
「それが、血の支配じゃ。己が血を与えた者を支配できる……流石に、2人に使うのは初めてじゃがのう……」
俺は、ボディーに1発重い拳を喰らった。意識が遠のく……ドラ代の影が俺を縛りあげる。俺は、文字通り、手も足も出ない状態になってしまった。
「お主は、サリーナお嬢の契約者じゃ。殺すまではせん。そこで、これから起こる事を見ておくのじゃな……きっと、面白いものが見られるぞ。ドラ次郎、ドラ代、これが宝玉じゃ。それぞれの地点に行き魔力を注ぐのじゃ」
『はい……マスター』
ゼロ達は、完全に伯爵に操られているようだ。このままでは、邪神が蘇ってしまう……
「そうだ。言い忘れておった……シロウ、冥府を頼むぞ。生きておったらのう……」
伯爵を含む吸血鬼達は、飛び立ちそれぞれの地点に向かったようだ。
もしかして、初めからゼロ達を使うつもりで……
イヤ、イヤ、そんな事はないはずだ……
でも、このままでは、身動きが取れない……
俺は、マップから吸血鬼達の行動を見ていた。それぞれの地点に到達し魔力を注ぎ混んでいる。
マズい……
『スズネ、伯爵が宝玉に魔力を注ぎ出した。止められなかったんだ。周辺の避難を頼む』
『さっき、エリックさんがやってきて手配してる。でも、ホテルの客とか大勢いて直ぐには無理そう。時間がかかるわ』
『このままでは、1時間もかからないうちに邪神が復活する。何とか間に合わせてくれ』
『わかった。みんなと協力してやってみる』
……[念話終]……
その時、地の底から地響きが鳴り渡った。
地震だ……それも、かなり大きい。
少し魔力を注いだだけで、これだけの地震を起こすのか……
何とかしないと……
俺は、ドラ代の影の拘束を解こうとして、いろいろ試してみたが、ビクともしない。それどころか、もがけばもがくほど、キツく締め上げてくる。
どうすれば……
そして、また地響きと共に地震が起こる。さっきより大きい。
それに、空も変だ。黒い雲が渦巻いている。
リーナを呼べば、伯爵と戦う事になるのは目に見えている。それも、大きな被害が出そうだ。
困った……
「何が困ったの? 」
突然、背後に声がした。俺は、後ろを見ると、
「サツキーー! 」
「何々、急にそんなデカイ声あげてーーびっくりするじゃない」
ソラスと一緒に転移してきたようだ。ソラスは、空をグルグル飛び回っている。
「サツキ、俺を縛り上げているこの黒い影をどうにか出来ないか? 」
「えっ!? シロウ兄、縛られてるの? どこどこ? 」
この黒い影は、俺しか見えないのか……
「サツキ、亜空間から聖剣を出すからそれで俺を斬ってくれ! 大丈夫。手が動けば、回復薬飲むから……」
「えーーマジ? 」
「マジ、マジ」
「もーーう。知らないからね。死んでも」
「構わない。頼む」
俺は、聖剣をしまってある亜空間を開いた。サツキは、その聖剣を取り出し、俺の背中に回った。
「いくよ。本当に死んでも知らないからね」
「大丈夫だ。頼む」
「わかった。いくよーー! 」
『えいっ! 』
『痛っーー!』
サツキと、俺の悲鳴が戦場ヶ原に響き渡った。その声に応えるように強い風が吹き込んできた。




