第111話 ーーー再会ーーー
病院はすぐ側にあった。俺達が着いた時には、女将さんは治療室に入って処置を受けている最中だった。
治療室の前で待っていると、慌てたように看護師が出てきて
「血液型がABO式に当てはまらないなんて聞いた事がないわ……」
小声で独り言を呟いているのが聞き取れた。
ABO式が当てはまらない?
それは、半魚人族だからか?
間違いない……
女将さんは、ルミシールさんだ……
輸血が必要なら怪我をしているって事か……
病院では、きっと助ける事は出来ない……
エリックさんは、病院側と話し合っている。コネを使って中に入ろうとしているらしい。
しかし、病院側は、患者優先だ。他の患者もいるし、治療中に訳の分からぬ者を入れて感染症にでもなったら大変だ。きっと、中には入れない。
治療室の扉は頑丈な作りになっており、外部からはIDカードを翳して扉が開く仕組みのなっている。内側からは、きっと、すんなり開くのだろう。
俺は、黒翼のマントを羽織り、気配を消して、さっきの看護師が戻って中に入る時に一緒に潜入した。
患者が数人いたが、その中で様々な機械を付けられた女性がいるブースに行く。
写真の女性だ……。
きっと、この人がルミシールさんだろう。女性の周りには、医師と看護師が頭を抱えながら話をしている。
これでは、フェニックスの涙の入った回復薬を飲ませられない……
俺は、病院関係者が付き添っていない患者、子供だったが、その子にフェニックスの涙を飲ませた。すると、顔色が良くなり、みるみる回復していく。
「先生、来て下さい。余和田君の容態が……回復に向かってます」
「何だってーー」
医者や看護師の慌てようからすると、その子供の患者は重病だったようだ。
医者達が、離れた隙にルミシールらしき女性に回復薬を飲ませる。すると、青白い顔に赤みがさしてきた。カシミールさんと同じ脇腹から出血しているようだ。薬の効果で傷も塞がるだろう……
ついでのこの治療室にいた他の患者にも回復薬を飲ませておいた。これも何かの縁だ。
俺は、気がついた女将さんに気配を消しながら小声で話しかける。
「ルミシールさんですよね。回復薬が効いて良かったです。貴女のお兄さんカシミールさんをこの世界に連れて来ました」
「えっ! カシミール兄さんを……」
「はい。今、治療室の外で待っています」
すると、女将さんは、大きな声で
「カシミール兄さーーん! 」
と感極まって叫んでしまった。無理もない……1000年もこの時を待っていたのだから……
「ルミシール……今、ルミシールの声が聞こえた。ルミシール! 私はここだ! ここにいるぞーー!! 」
ここまで、カシミールさんの声が聞こえる。治療室は、ほぼプチパニックになっている。弱って運ばれてきた患者達が次々と元気になってしまったのだから無理もない。
女将さんは、付けてあった装置を外し外に出ようとする。それを、抑えようと看護師達もその行動を制止する。
扉の外では、カシミールさんだろう。女将さんの名前を呼びながら扉をドンドン叩いている。
その声に引き寄せられるように看護師の制止を振りきってルミシールさんは扉の内側にたどり着いた。しかし開け方がわからないのか、同じように扉を叩きながらカシミールさんの名前を呼んでいる。
5センチ幅の大きな扉に挟まれて1000年振りに兄妹は言葉を交わした。
「ルミシールか? 待たせて悪かった。随分、探したんだ」
「兄さん、会いたかった……会いたかった……」
「エリック、ロケットランチャー、車から持ってきて。扉を破壊する」
「私が、破魔の剣で斬り裂きます」
「いいえ、私が蹴り飛ばしますわ」
シアンとスズネそしてアンリエット王女の物騒な声が聞こえる。俺は、内側から脇に付いている解錠ボタンを押して扉を開ける。
2人を阻んでいた厚さ5センチの扉はゆっくり開き、そこに、カシミールさんのクシャクシャな顔が見えた。
「兄さん! 」
「ルミシール! 」
1000年ぶりの再会は、言葉など必要なかった。お互い抱き合ってその温もりを感じていた。
◇◇◇
病院に事情を説明して、この件については、秘密厳守してもらった。きっとエリックさんがいろいろな伝手を使ってこの病院のオーナーに話をつけたのだろう。
俺達は、取り敢えずエリックさんが予約したホテルのスイートルームに移動する。女将さんのホテルでは、いろいろ都合が悪いだろう。
「ルミシール待たせて悪かった。私があの時、転移した場所は、冥界で、この間まで封鎖されて出られなかったんだ」
「そうだったの……私が転移した場所は、ここから少し先の滝のところだった。私に襲いかかってきたセイレーン1体と一緒に転移してしまったの。でも、宝玉を持っていないセイレーンは、転移の時の魔力消失で直ぐに亡くなったわ。それから、私は、宝玉を守る為にこの世界で生きていこうと思ったのよ。宝玉が揃わなければ、アレが蘇る事など出来ないと思ったから……それに、いつか兄さんが迎えにきてくれると信じていた。でも、その宝玉をさっき奪われてしまった……」
女将さんことルミシールさんが持っていた宝玉も奪われたらしい。これで、宝玉全部ドラキュラ伯爵の手に渡ってしまった……
「お二人は、ここでゆっくりしていて下さい。それにルミシールさんは血液を流していたので、まだ、万全な状態ではないと思います。無理をしないで下さい。俺は、宝玉を探して取り返してきます」
「シロウ君、ドラキュラ伯爵は気配を消せるのでしょう? 血の繋がりのあるドラ代さんだって、その気配を察知できないのよ。何処を探せばいいの? 」
「もし……アレを甦らそうとするならば大量の水が必要となります。宝玉の熱を冷ます必要があるからです。ここら辺で、大量の水があるといえば……」
「そうか! 中禅寺湖ね。シロウ君。中禅寺湖に行こう! 」
「私が倒れたのもその場所です……」
「どうやったら蘇るのですか? 」
「宝玉を三角形になるように配置して、それぞれの頂点に宝玉を置き、各宝玉に一定量の魔力を注げば、自ずと宝玉が反応します。その時の熱量がとても大きいので水が必要になるのです。あとは、自然と宝玉同士が反応して亜空間の扉が開くと思います。かかる時間は3時間程度だと思います」
「カシミールさん、もしかすると水が必要だから、半魚人族が管理してたのですか? 」
「神から授かった時にそのように言われています。宝玉の性質として水の中に日に1回は浸けなければなりません。そうしないと宝玉が暴走してしまうのです」
「宝玉が暴走……それは、どういう事なのですか? 」
「封印を維持する為の魔力を流出させてしまうのです。つまり、魔力を邪神に吸い取られてしまうということです。邪神は、亜空間に封印されてますが、魔力を得れば、封印は破れないにしろ、亜空間に影響を及ぼす事ぐらいはできるでしょう。その時は、自然災害として地上や冥界、神界に少なからず悪影響を及ぼすと考えられています」
「それは、別の意味で大変な事になりますね。だから、ルミシールさんは湖に行ってたのですか? 」
「はい。いつも、午後には湖に行って宝玉を水の中に浸けていました。もし、何かあった時の為に広い場所の方が良いと思って……」
「そうでしたか……宝玉が奪われてもう2時間は経つ……最悪の場合、あと1時間で邪神が蘇るのか……」
「宝玉を奪ったものが1人の仕業なら、その魔力の供給に時間がかかると思います」
カシミールさんの言うことが確かなら、少しは時間的余裕ができる。
「クルミ、悪いんだけど、ゼロ達を起こしてくれる? 起きなかったら、柩を壊すって言えば起きると思う」
「わかりました。今、直ぐ起こしてきます」
ドラキュラ伯爵だけでは、それぞれの宝玉に魔力を注ぐにも時間がかかるか……
すると、魔力補充の為にまた、人間を襲う可能性もある……
でも、この世界で、蘇らすとは限らないじゃないか……
元々異世界の存在だし……
俺は、マップを展開させて、伯爵の行方を探す。しかし、何処を探しても見つからない。
「この世界で邪神を蘇らせるとは、限らないよね? 」
「そうですわね。邪神といえば私達の世界の神話ですわ」
アンリエット王女は、自分の世界が気になっているようだ。
「いいえ。宝玉が揃えば、宝玉同士が反応しているはずです。蘇る世界は関係ないと思います」
そう話すカシミールさんの顔は、真剣そのものだ。
「わかりました。念の為、エリックさん、ローマ聖教の力を借りても良い? 中禅寺湖周辺の避難をお願いしたいのだけど……」
「わかりました。手配しましょう」
「俺達は、湖に行ってみよう」
「わかった。私が運転する」
シアンは、ここぞとばかりドヤ顔でそう言い放った。
この場合は、仕方ないか……




