第109話 ーーーいざ、日光へーーー
族長の家の居間で、アンリエット王女は半魚人族のカシミールさんに詫びていた。カシミールさんは、誠意ある対応に困っている様子だ。
「アンリエット様、いくら王宮内で起きた事とはいえ、元を正せば、半魚人族の問題です。王家には、何ら落ち度はありませんよ。頭をお上げください。そうでないと、私も困ってしまいます」
「ありがとうございます。カシミール様にそう言って頂けただけで、胸のつかえが取れた気が致しますわ。それで、何処かにお出かけになるのですか? 旅支度をしているご様子ですが……」
「実は、妹のルミシールが見つかったのです。それで、直ぐにでも、妹の元に駆けつけようと急いでおりました」
「まぁ〜〜それは、おめでとうございます。良かったですわね。それで、どちらにいらしたのですか? 」
……これって、何かマズい流れだ……
「シロウさんの世界にいたのですよ。先程、写真というものを見せてもらって、間違い無いと確信しました」
「まぁ〜〜シロウ様の世界にですか……わかりました。私も行きます! 」
……ほらっネ……
「アンリエット様、黙って王宮を抜け出したのですから、お戻りいただかないとみんな心配しますよ」
……メイド1号の狂ったような姿が目に浮かぶ……
「いいえ。構いませんわ。私がいないと分かれば、ロリンジュが幻術で誤魔化してくれますわ。それより、妹様の方が大事です」
……どうしよう〜〜言い出したら聞かない人だし……
「アンリエット様、これには危険な問題が絡んでいるのですよ。邪神の復活を止めないといけませんし……」
「シロウ様、だから行くのです」
……わぁ〜〜逆効果だったーー……
そんな会話をしているとエリックさんが入ってきた。アンリエット王女が目の前にいるので驚いている。
「わぁ! 王女様、どうしているのデスか? 」
「エリックさん、実は、カクカクシカジカで……」
俺はエリックさんにその危険性を含めてきちんと説明したのだ……が、
「わかりましたデス。私が責任を持って王女様の護衛を務めさせて頂きマス」
……もう、これ、俺のせいじゃないよね……
「ありがとう御座います。エリック様。宜しくお願いしますわ」
アンリエット王女も連れて行かなくてはならなくなった。メイド1号に知られたらタダではすみそうもない……
◇◇◇
カシミールさんとアンリエット王女を連れてマイルーム経由でリーナの家にドアを開く。この場所は、王女も初めての場所だ。
「シロウ様、お帰りなさいませ。こちらの方々はどちら様ですか? 」
「クルミ、ただいま。え〜〜と、こちらの女性は、ミリエナ国のアンリエット王女様です。そして、こちらが半魚人族のカシミールさんです」
「まぁ、人族の王女様と半魚人族の方でしたか。私は、鬼族のクルミと言います」
「まぁ、鬼族の方なんて初めてお目にかかりますわ。宜しくお願い致します」
「鬼族という事は、冥界の方ですよね。私も、しばらく冥界で隠れて暮らしてました。鬼族の方には、何度か助けられています」
「そうでしたか。冥界はしばらく封鎖されておりましたので大変でしたでしょう。今、お茶をお入れ致しますね。そちらにどうぞ」
王女には相応しくない家だが、仕方がない。俺のところは、家具や人が多いからもっと狭いし……
エリックさんもシアンも部屋に置かれている柩が気になっているようだ。
「あれは、ゼロスリー達のなんだ。あれがないと落ち着かないらしくて……」
「そうでしたか、とても興味深いデス」
「あの中、気持ち良さそう」
流石、エクソシスト達だ。順応性が高い。
「クルミ、あれから、あの2人あそこから出てきた? 」
「いいえ。あの時入ったきりですよ」
「そうなのか……」
……柩はマズかったかなぁ? ……
「カシミールさん。妹さんの場所は明日別件で行かなくてはならんかったのですが、行くのは、その時一緒でいいですか? 」
「はい。右も左もわかりませんので、それで構いません」
「あとで、こちらの言語を知り合いの物に享受してもらいますから、今夜は、エリックさんの家に泊めてもらっても良いですか? 」
「私は構いませんデス」
「アンリエット王女様は、スズネに頼もうか? 」
「大丈夫。私の家の部屋が余っている。私達の近くにいた方が安心」
「シアン、それでは宜しくね。アンリエット王女も宜しいですか? 」
「はい。私は、何処でも構いませんわ。宜しくお願い致しますわ。シアンさん」
「うん。任せて」
……とても不安なのだが……
携帯の写っていた写真の女性は本当にカシミールさんの妹さんなのだろうか?ただ、似ているだけという可能性もある。そしたら、カシミールさん、がっかりしそうだ……
睦美によく聞かないと……
俺はそう思っていた。
◇◇◇
夕食は、クルミ達とみんなで一緒に食べた。その時、クルミも行ってみたいと言うので、吸血鬼達を無理やり起こして、一緒に連れて行くことにした。
……でないと、二度とあの柩から出て来なそうなので……
「8時に団地の駐車場で待っている」とシアン達と昨夜約束したので駐車場に行ってみると、国産車で有名なメーカーの高級ミニバンである車が2台用意されていた。
「おはよう。すごい車だね」
「エリックがコネを使って調達した。泊まるホテルもVIP専用のスイートルームを無理やり用意した」
「そうなんだ……」
……また、変な事にローマ聖教のコネを使って……
「でも、俺達の泊まるホテルは高志間先輩の知り合いだって言ってたけど? 」
「偶然そのホテルだったらしい。でも、私達が泊まる所は並の部屋。王女達はスイートルームに泊まる」
「車2台あるけど、エリックさんと誰が運転するの? 」
「王女達は、エリックの車。不思議研究倶楽部のみんなは、こっちの車。運転手は私」
「えっ!? シアン、運転出来るの? 」
「運転は得意」
……そういえば実年齢は18歳だったよね……
「そうだ。サツキも後から来るかも知れない。大丈夫? エリックさん」
「1人や2人増えた所で問題ないデス。では、シロウ先に行ってますね。現地で会いましょう……無事でしたらネ」
「えっ!? 何て言ったの? 」
「何でもありません。では、お先デス」
悪魔達をエリックさんにお願いしてある。何かあってもあの3魔がいれば王女やカシミールさんも安心だ。
アンリエット王女とカシミールさんそれと悪魔達3人を乗せてエリックさんは軽快なエンジン音とともに走り去って行った。
……何でエリックさん、ニヤけてたのだろう……?
「じゃあ、シロウ。私達も学校に行こう! ナビお願い」
「わかったよ。助手席に座ればいいんだろう? 」
「そう、話が早い」
俺とシアンは車に乗り込んだ。まず、学校に行ってスズネ達、不思議研究倶楽部員を乗せてから、目的地の日光に向かう。エリックさん達は、そのまま現地に向かった。
「シアンが車の運転できるなんてびっくりだよ。そんなに運転得意なんだ」
「運転は、得意。二輪車だけど……」
「えっ!? 車って四輪だよね? 」
「そう、四輪は初めて」
「はい!? 」
「初めてって……免許あるんだよね?」
「もちろん。国際ライセンスを持っている」
「何だ……驚かさないでよ〜〜」
「私が昨夜パソコンで作った」
「えっ? 今、何と? 」
「シロウ、もう行く。シートベルトを首に巻いて」
「はい? シートベルトは肩から斜めに腰で巻くんじゃないの? 」
「そうだった。失念してた」
……これは、ヤバそうだ……さっきのエリックさんの不敵な笑みはこのこと?
「もしかしたら、シアン、車運転するの初めて? 」
「さっき言ったはず。初めてだと」
「待って! 待って! せめて若葉マークぐらい付けようよ。そうすれば、周りの車も気を使ってくれるからさァー」
「わかった。今、採ってくる」
……これは、本気でヤバいぞ……どうしたらこの状況を回避できるんだ?……
俺はシアンが不思議な事をしてるので、問いかけてみた。
「シアン、もしかして、それ、若葉マークのつもり!? 」
「そう。さっき、そこの木から採ってきた。黄緑色の葉っぱ」
「それ、本気なの? 」
「当たり前なことを言わない。シロウがつけろと言った」
「若葉マークって、こんな大きさの裏が磁石になってて、ボンネットとかに貼り付けても落ちないステッカーみたいな物だから! それ、本物の若葉だよね。そんな小さくちゃ周りから見えないよ! 」
「シロウ、こういうものは、心の目で見るもの。じゃあ、行くよ」
『ガタン! ゴトン! 』
「な、何が起きたの? 」
「ブレーキとアクセル間違えた……」
「はい!? 高齢者ドライバーの言い訳みたいな事言わないでよっ! 」
「大丈夫。よくある事。ニュースでよく言っている。では、行きます」
『ブォー〜〜ン』
……これ、絶対、死ぬパターンだ。学校まで着くの無理そう〜〜……
「シロウ、ナビお願い」
「わかったよ。次の交差点、右だから……右車線に入ってくれる」
「わかった。右側の車線に変更。面舵いっぱい」
「そうそう、走れば上手いじゃないか〜〜って! 信号赤だよ!赤! 」
「大丈夫。こうすれば青になる」
『キキーー! 』
シアンは信号が赤でも突っ込んで綺麗なドリフトを決めながら交差点に入ってしまった。そして、走ってくる車を避け右折する。
「シアン! 信号無視だよーー! 赤は止まれだよ! 」
「違う。こっちが赤でも向こうは青。だから、青い信号の道路に出れば信号は青になる」
『ギャーー! ぶつかるーー! 』
「大丈夫。相手が避ける」
……死ぬ、絶対、死ぬ……
「シロウ、ナビが疎かになっている」
「ねぇ、どこかに止まって、機械の方のナビを入力しようよ」
「そんな暇は無い。車は急には止まれない」
「イヤ、イヤ、安全確認してブレーキ踏めば普通に止まるよね。そうしようよ」
「シロウは、細かい。そんな事では大成しない」
「大成しなくていいから、車の態勢整えようよ」
「次はどっち? 右、左? 」
「確かまだ、真っ直ぐだよ」
『キキーー! 』
「シアン、俺、真っ直ぐって言ったよね。何で右折するの? 」
「地球は回っているから」
「はい!? 何で地球規模の話になってるの? 」
「道路は地球に存在する。それに回り回れば、真っ直ぐになる」
「ならないよ! それに、この道狭いよ。スピード出したら危ないってーー」
「シロウはわかってない。こういう道は危険だから素早く抜け出すに限る。だから普通はスピードを上げて早く走る」
……交通法規はどこにいったんだ? ……
「シアン、歩行者とかいるよ。自転車も。危ないよ」
「大丈夫。転移すれば問題ない」
「車は転移しないからっ! 」
「冗談。こういう時はこれを使う」
『ビビビビーーーー! 』
「わぁ〜〜うるさいよ。無闇にクラクション鳴らすなよーー!」
「何を言ってる? 鳴るものは鳴らさないと可愛そう」
「これ、もしもの場合とか、合図とかそういう時に使うんじゃないの? 」
「それでは面白くない。鳴らして、歩いてる人を驚かす為の機能。本来の目的に合致している」
……ダメだ……シアンには独自の交通ルールがあるらしい……
みんな睨んでるし……
ごめんなさい……仕方が無いんです。この運転手、常識外人ですから……
「シロウ、あれが学校? 」
「シアン、俺達、毎日通ってたよね。あれ、学校に見える? 」
「見えない」
「何だと思う? 」
「シロウの家」
「そう。どういう訳か周り回って自分ちに戻って来ちゃったみたいだね」
「不思議……きっと、地球の自転とか月の引力とか宇宙からの未知の力が働いたのだと思う。これを、研究テーマにして論文を書けば、ノーベル賞をもらえる」
「もらえるのはきっと違反切符だよ」
俺は無事に学校までたどり着けるのだろうか?




