第108話 ーーー妖精の泉ではーーー
エルフの郷にいる時に、リーナから念話が入った。今、ヤマンバ族の会合がひと段落し、休憩しているという。
『会合、上手くいきそうで良かったよ』
『それより、徘徊老人がシロウの世界にいたのは本当? 』
『本当だよ。また、居場所がわからないけど』
『この冥府からシロウの世界に行くには時空を渡る事になる。とんでもない魔力を必要とする』
『そうなんだ。何時もリーナ達が来てたからあまり、深く考えなかったけど』
『シロウのドアは特別。でも、それ以外なら、困難』
……リーナの姉さんリーゼは、時空を渡る特別なスキルでもあるのだろうか?……
『シロウ、最近、シロウの間近で誰か血を吸われなかった? 』
『知り合いには、いないけど……なんで? 』
『魔力を補うのに吸血鬼は血を吸う必要がある』
『血……あっ! この間、事件があったよ。大人2人が血を吸われて亡くなっている』
『それは、徘徊老人の可能性がある……』
『まさか……あのドラキュラ伯爵がそんな事をするわけないだろう? 』
『シロウは、勘違いをしている。私達は悪魔。全ての悪は肯定される。それに、自由な存在。人を沢山殺しても、何も咎めは無い』
『……そうだったね』
『でも、シロウの世界に手を出したのは私が許せない。これは、契約者として当然の事』
『まさか、ドラキュラ伯爵と戦うの? 』
『お互いの自由がぶつかれば自ずと戦いが生まれる。そこに善悪など関係無い』
『そうだけど……穏便にできないか……きっと理由があるんだと思う』
『理由など、人族や神族が求めるもの。悪魔には関係ない。あえて言うなら強いものが正義となる』
『でも、リーナはそんな悪魔達を変えていこうと思ってるんだよね』
『シロウと契約して、私は変わった。家族を思う気持ち、温かい感情。そんなものが大切に思えてきた。でも、すぐには無理。古い体質はなかなか変わろうとしてくれない。だから、今、知恵があって使える人材を確保している』
『リーナ、ドラキュラ伯爵は、邪神を蘇らせてしまうだろうか? 』
『多分、蘇ると思う。その為に、子供達である引きこもり吸血鬼達を私やシロウに預けたのだから』
……そう言う事だったのか……
『シロウ、何かあれば私を呼んで。直ぐに駆けつける。契約者同士なら時空も超えて転移できるはず』
『わかった。でも、そういう事態になる前に何とか食い止めてみるよ』
『シロウがやる気を出してる。明日は、雪になる確率が高い』
『リーナと話せて良かったよ。またね』
『うん……私も……嬉しい』
……[念話終]……
ドラキュラ伯爵より先に宝玉を確保しないと……
◇◇◇
族長の家で、カシミールさんの旅立ちの準備を手伝っていると、ペリンさんがやってきて、
「シロウさん、あの家を勝手に直しても良いですか? 」
「湖の家の事だよね。構わないけど……」
「早く直して、お父さんに見てもらいたいんです」
「わかった。資金を置いて行くから使って下さい。でも、1人で大丈夫ですか? 」
「ポルガが手伝ってくれるって言ってくれました」
「ポルガさんがですか……」
……ポルガさん、ペリンさんの為に頑張ってるな……
「わかりました。こちらこそ宜しくお願いします」
「はい。任せて下さい」
それを見ていたカシミールさんは、
「シロウさんも忙しいですね。今度は、私のお願いまで聞いて頂いて恐縮です」
「構いませんよ。忙しいのは慣れてますから」
申し訳なさそうに言う紳士のカシミールさんは、とても常識人だと思う。細かい配慮も怠らない出来た人だ。
「あっ、そうだ。カシミールさん。アンリエット王女が王宮での事、お詫びしたいと言ってましたよ」
「お詫びなんて、以ての外です。いろいろ配慮してくださったのですから。それに、この件は、ミリエナ国とは関係ありません。我が半魚人族の宿命ですから」
「では、そう伝えておきます」
一応、族長にも、アンリエット王女の訪問の件を聞いておこうか?
「族長、族長。あれっ、いないのかな? さっきまで、みんなとここでお茶を飲んでたのに……」
シアンまでいないとなると2人して何処かに出かけたのか?
エリックさんは、ペリンさんとエルフの郷を見学するって言ってたし……
シアンに念話を入れよう……
『シアン、そこに族長いる? 』
『いる。今、一緒に妖精の泉に来ている』
『族長に話があるんだけど……』
『シロウもここに来れば良い。族長の家の裏手の道を真っ直ぐに行けば直ぐ着く』
『わかった』
……[念話終]……
妖精の泉なんてものがあるんだ……
折角だから見てみたい……
俺は、シアンに言われた通り、家の裏手の道を歩いて行く。少し登り坂になっているが、道の両脇には、綺麗な花が咲き乱れていて、とても素晴らしいところだ。
1分ぐらい歩くと、シアンと族長が見えて来た。泉の畔で瞑想しているように見える。
2人の周りには様々な色のオーブのようなものが飛んでいる。スキル鑑定で見てみると、それは妖精である事がわかった。色により、その属性が決まっているらしい。赤は、火の妖精。緑は、樹木の妖精。青は、水の妖精のようだ。他のもいろいろな色のオーブが漂っている。
「邪魔して悪いのだけど、ちょっとよろしいですか? 」
「シロウか、構わんよ」
「ミリエナ国のアンリエット王女がエルフの郷を訪問したいそうなのですが、理由は、カシミールさんにお詫びをしたいとの事です」
「そうか、あのお嬢ちゃんがね……構わんよ。だけど、まだ、あのお嬢ちゃんだけだ。今は、まだ、審議中なのでな」
「そうですか……護衛はつけないとまずいと思うのですが……」
「シロウ、お主がおるじゃろう? 」
「俺ですか? 」
「まだ、エルフの民は、人族を完全に受け入れておらん。時間も必要なのじゃ」
「わかりました。そのように伝えます。この綺麗な球は妖精なのですね? 」
「お主には、この球が見えるのか? 」
「はい。綺麗な色をしています」
「妖精眼が無ければ見えぬはずだが、お主は規格外らしいのう」
「そういうものなのですか? 」
すると、俺の側に透明の球が寄ってきた。俺の周りをぐるぐる回り出す。
「お主も妖精に好かれてるいるみたいじゃのう」
「そうなんですか? 」
その透明の球は、回るのをやめ、俺の頭にちょこんとと乗った。そして、色が紫色になる。
「な、何と〜〜紫じゃと〜〜」
「どうかしたんですか? 」
「こんな妖精色を見たのは初めてじゃ。シロウは、面白いやつじゃのう」
「俺が面白い!? 」
族長は、俺の頭に乗った妖精の球をマジマジと見て、呟く。
「シロウ、お主は、興味深い。たまに遊びに来ておくれ」
「構いませんけど、では、アンリエット王女の件、宜しくお願いします」
「あい、わかった」
シアンは、集中しているようだ。もしかしたら、妖精と話をしているのかもしれない。
俺は、2人の邪魔にならないように、退散する。俺の頭に乗っていた妖精球は、いつのまにか泉の中央に漂い、また、無色透明になっていた。
◇◇◇
俺は、族長の家に戻り、アンリエット王女に念話を入れた。
『アンリエット様、シロウです』
『お待ちしてましたわ』
『今、エルフの郷に来ているのですが、この郷の訪問はアンリエット王女だけなら構わないそうです。お付きの護衛の方はまだ、難しい様子でした』
『わかりました。私、1人で参ります。今なら、ソランジュもいません。すぐに迎えに来てくれますか? 』
『今直ぐですか? 』
『はい。お待ちしてますわ』
……[念話終]……
今直ぐって言ってたけど、平気なのか?
また、着替えをしていたら、何と言われるか……
俺は仕方なく王女の居室にドアを開き、そして、アンリエット王女をエルフの郷に連れて行く。
族長のテラスにドアを開くと、また、若いエルフ達に囲まれてしまった。今度は、その中にポルガの姿もある。
「また、お前か〜〜って、そっちの美少女は人族か? 」
「そうだよ。この間、族長と会談したミリエナ国のアンリエット第1王女だ。今日は、カシミールさんに会いに来たんだよ。族長の許可はもらっている」
「初めまして、エルフの民の皆様。今日は、私用でこちらに参りました。いろいろ納得のいかない事もおありでしょうが、今日だけは、お許し頂けたら幸いです」
「いいさーー族長の許可もらってんだろう? こんな美人……違うっ! このような礼儀正しい人ならば、エルフの俺達だって無闇な事はしやしね〜〜よ」
「ありがとう御座います」
アンリエット王女は丁寧に頭を下げた。その姿を見て、エルフの民は、なんだか嬉しそうだ。
まぁ……男ならわからないでもないが……明からさま過ぎだろう!!
俺は、アンリエット王女を族長の家に案内した。若いエルフの者達は、その姿をずっーーと見ていた。
……初めからこうすれば、直ぐ和解できたんじゃないの? これ……
俺は、自分から好んで迷路に入り、迷っていた感じを受けた。




