第106話 ーーー吸血鬼バンピーゼーーー
高校生活も慣れて来た頃、ゴールデンウィークが始まった。所属している不思議研究倶楽部の合宿も行われる予定だ。スズネとシアンは、合宿の為の買い物に出かけてしまった。俺も誘われたが、こちらに来ている吸血鬼達が心配で断った。
そして、俺は、今、リーナの家で吸血鬼達と話し合っている。
「ゼロツー、少しは外に出ないとダメだよ」
「そうは言ってもシロウさん。この世界は、人が多すぎます」
「ゼロスリーも、少しは散歩にでも行こうか? 」
「そうは言ってもシロウ様、この世界は、建物がいろいろな形をし過ぎて疲れます」
……この世界の興味より、心の傷の方が大きいようだ……
「クルミは、平気で1人で買い物に行くよ」
「それは、クルミが、鬼族だからです。吸血鬼は基本、柩の中で暮らしてます」
……ゼロスリー、俺が思ってる吸血鬼のイメージと違うのだが……
「せっかくの美少年と美少女が、家の中でゴロゴロしてるのは、勿体無いと思うのだけど……」
『そんな事ありません。家最高じゃないですかぁ〜〜』
「変なとこでハモらないでくれる? どう反応していいかわからなくなるから」
「シロウさんが、僕達を無理矢理外に出そうとしているのが悪いんです。家で十分です。柩があったら、最高なんですけどーー」
……もう、ほっといて良いよね……こいつら……でも、リーナに頼まれてるしなぁ……
こっちの世界に来て一歩も外に出ようとしない吸血鬼達を見かねて話し合ったが、無理そうだ。クルミばかり、買い物などで忙しくしていると悪い気がする。
すると空間が割れて、お客が舞い込んで来た。こんな風に訪れるのは、ヨーロッパの吸血鬼マリーンさんだ。
「シロウいる? わっ! 凄い気配ね。もしかして、お仲間? 」
「あっ、マリーンさん、いらっしゃい。そうだよ。バンピーゼさんの兄さんと姉さんだよ」
「まぁ、主人様のご兄姉の方ですのね。私、バンピーゼ様から血を分けていただいたマリーンと申します。宜しく、お兄様、お姉様」
……どう見ても、マリーンさんの方が年上に見えるのだが……吸血鬼の生態はイマイチわからない……
「ほらっ、挨拶しないと〜〜もう〜〜俺が紹介するけど良いんだね」
「……」
「マリーンさん、この男の子の吸血鬼がドラ次郎ことゼロツー、そして、そちらの女の子がドラ代ことゼロスリーだよ」
「まぁ、ドラ次郎様とドラ代様ですのね。とても素敵なお名前ですわ」
『……よろしく』
「ちょっと、初めての人や悪魔に慣れてないんだ。悪魔見知りとでも言うのか、この場合? 」
「そうなのですか、きっと、繊細な方々なのですわね〜〜」
「それで、どうしたの? まだ、化粧品のサンプルみんなに配ったけど、感想聞いてないのだけど……」
「今日は、その用事じゃなくって、バンピーゼ様の事で来たのよ」
「どうかしたの? バンピーゼさんが? 」
「実は、見つかったのですけど、柩に引きこもってしまっていて困ってるのよ〜〜」
……また、引きこもりか!……
「何があったの? 」
「それが……」
吸血鬼マリーンの話を要約すると、ある悪魔に襲われたのだが、その時、大事にしまってあった物を盗られてしまったそうだ。
「でも、バンピーゼさんを襲う悪魔なんてこの世界にいるの? 」
「いないわよ〜〜だから、聞いたのだけど、全然話してくれなくて、それに盗まれた宝玉がとても大事な物だったらしく、ある方に顔向けできないと落ち込んでしまって、柩にGO! しちゃったらしいのよ〜〜」
「えっ! 盗られた物って宝玉なの? 」
「そうみたい。大昔、一度見せてもらったけど、赤くて卵型の綺麗な石よ」
「それって……」
半魚人族が持っていたものと同じものかもしれない……これって、ヤバくね。
「誰だかわからないの? そのバンピーゼさんを襲った悪魔は? 」
「言わないからわからないわ。でも、あの様子だと、よく知っている悪魔だと思うわ。そうでなければ、あの細かい性格の主人が油断したりしないもの」
……と、すると……まさか!……
「ゼロツー、ゼロスリー。直ぐにバンピーゼさんに会いに行こう! マリーンさん連れてってくれる? 」
「良いけど……お兄様、お姉様、大丈夫? 」
2人の吸血鬼は、外に出たくないらしく、青ざめた顔をしていた。
「ゼロツーもゼロスリーも行くよ。後で血を吸っても良いから」
「わかりました……」
二魔は、嫌がりながらもマリーンさんの転移で末っ子吸血鬼バンピーゼの所に向かった。
◇◇◇
転移したところは、薄暗い地下室のような所だったが、至る所にハイテク完備の豪華な場所だ。
広い室内の中央に、この場に相応しくない黒い柩が置かれている。
マリーンさんは、その柩の側に慣れた様子で向かい言葉をかけた。
「ご主人様。マリーンです。お客様をお連れしましたよ」
「……」
「ご主人様、お兄様とお姉様ですわよ」
「……お兄とお姉」
「そうですわよ。それと冥府の姫の契約者のシロウも来てますわよ」
「……冥府……わぁーーごめんなさい。ごめんなさい」
バンピーゼは、いきなり謝りだした。冥府という言葉に反応したらしい。
「バンピーゼさん。はじめまして。サリーナの契約者のスズカセ シロウです。ドラ次郎さん、ドラ代さんも来ましたよ。バンピーゼさんには、聞きたい事があるのです。半魚人族の宝玉が最近何者かに盗まれたのです。バンピーゼさんが盗られた宝玉ももしかしたら、同じものではないのですか?」
そう話かけると、いきよいよく柩の扉が開き驚いたように話し出した。
「半魚人族の宝玉が盗まれたってーー! 」
「はい。本当です」
「そうだったのか……」
バンピーゼさんは、何か思い当たる節があるらしい。その様子を見ていたドラ代は、
「バンピーは、随分、老けたわね。もう、オヤジじゃないの」
「あのバンピーがこんなおっさんになるなんてショックだよ」
「ドラ次郎兄もドラ代姉も酷いよ。気にしてるんだから……」
「それにしても凄い柩ね。扉に付いているのは何なの? 」
「あぁ〜〜これ、これは、液晶テレビだよ。寝ながら世界の様子がわかるんだ。それに、スピーカーも内蔵してるんだぜ。ネットにも繋がるし、空調完備の優れものなんだよ」
「よくわからない言葉が多いけど、凄いのはわかるわ。私もほしいなぁ」
「うん、僕もほしい」
「まだ、在庫があるから持っていっていいよ」
『本当、やったーー! 』
冥府の吸血鬼達は大喜びだ。バンピーゼさんは、ドヤ顔してるし……
「材質も最高品質の黒檀を使用しているんだよ。丈夫だし、気密性も高いんだ。それに、中の寝具は、一流品ばかりだ。寝心地も最高だよ」
「へーー凄いのね」
「あの〜〜バンピーゼさん。柩の話で盛り上がっているところ悪いんですけど、宝玉の話を聞かせてもらってもよろしいでしょうか? 」
「そうだった……すまん。私が、バンピーゼだ。君の話は、ドラ子姉やマリーンから聞いてるよ」
「スズカゼ シロウです。シロウと呼んで下さい」
「じゃあ、シロウ君。実は……」
バンピーゼさんは、話ずらそうだ。俺は、もしかして、と思った事を伝えてみた。
「もしかして、宝玉を奪ったのはドラキュラ伯爵ではないですか? 」
「な、なぜシロウ君はその事を知っているんだ? 」
……やはり、そうだったのか……
「実は、ドラキュラ伯爵が行方不明になってまして、冥界や地上を捜索してたんですよ。未だ、その足取りはつかめませんでしたけど、これで、少し、わかった気がします。どうして、バンピーゼさんは、半魚人族の宝玉を持っていたのですか? 」
「それは、ある方に頼まれたからだ。実は、子供の頃、ドラキュラ伯爵の書斎に隠してあった宝玉を見つけて、あまりにも綺麗だったものだから少し借りてみんなに自慢してたんだ。すると、その方がやって来て、その宝玉を見て驚いたんだよ。そして、私にそれを預けてこの世界に転移させてくれたんだ。その宝玉が二度と冥府やあちらの世界に存在しないようにとね」
「すると、バンピーゼさんは家出したんじゃなくって、任務でこちらの世界に腰を落ち着けたという事ですか? 」
「シロウ君の言う通りだよ」
「では、その方というのは? 」
「冥府の王、アスモ=サタン様だ」
「アスモ=サタン! それって、リーナのお父さんですか? 」
「あぁ、そうだ」
「バンピーそうだったの? 何故一言、言ってくれなかったの? 」
「ドラ代姉、サタン様と約束したんだ。誰にも言わないと……」
「約束なら仕方ないよね」
「ドラ次郎兄、すまん……」
「いいよ。だって、柩もらっちゃったし〜〜」
……柩って……吸血鬼にとってそんなに大事なの物なの? ……
「でも、何でドラキュラ伯爵は、宝玉を欲しがったのだろう? 」
「知らないのかい? ドラキュラ伯爵にとって、その宝玉に封印されている邪神と呼ばれる悪魔とは、親子同然の関係なんだよ」
「親子ですかーー? 」
「そうだ。これは、サタン様から聞いた話だが、我々吸血鬼をお造りになった方がその邪神アンラ・マンユ様だ」
「えっーー! 」
「我々悪魔だって、何もないところから急に存在していた訳ではないのだよ。シロウ君にも両親がいるように、我々にも、それと似たような存在があって、今、こうして生きているんだ」
……それはそうかもしれないが……
「じゃあ、ドラキュラ伯爵は、その親である邪神アンラ・マンユの復活の為に宝玉を盗んだというのですね」
「そうとしか考えられない……。サタン様から聞いた話では、その邪神が蘇ったら冥界も天界も滅びるだろうと言っていた。もちろん、この地上世界もだ」
「だから、リーナのお父さんは、宝玉をバンピーゼさんに渡して、この世界に匿ったという訳ですか……」
「困った事になった。これで、宝玉2つはドラキュラ伯爵が持っているという事になる。もう一つ揃ったら、最悪の事態になってしまう……私は、サタン様に顔向けできない……」
「でも、半魚人族の方が言ってましたよ。もう一つの宝玉は妹が持っているらしく転移してしまってどこの世界にいるかわからないと……」
「嫌、宝玉は、それぞれを求めているんだ。きっと、その力に吸い寄せられるように、もう一つの宝玉も反応しているはずだよ。見つかるのも時間の問題だ」
「そういうものなのですか……」
これは、困った。半魚人族の人に会ってもう一度相談してみないと……
もう一つの宝玉の在り処の手がかりは、半魚人族のカシミールさんしかいないのだから……
俺は、この話を直ぐにでもリーナに知らせたかった。
いつも忙しそうにしているリーナには、申し訳ないけれど……。




