第100話 ーーー徘徊老人を探してーーー
三国会談に出席する為、俺達は異世界に来ていた。王女達は王宮に連れて帰り、モモリー姫は、サツキとソラスと一緒にルアンダ国のルアンの里に送って行った。シアンとスズネをエルフの郷に送り届けなば、と思っていた時、リーナから念話が入った。用件は冥府に来て欲しいという事だった。
俺は、急いでシアンとスズネをエルフの郷に送り届け、その足でリーナの元にドアを開いた。
「リーナ、どうかしたの? 」
「お帰りなさいませ。シロウ様」
「クルミ、リーナは? 」
「今、会議中でございます。しばらく居間でお待ちくださいとの事です」
「相変わらず忙しそうだな。わかった。居間に行ってるよ」
「はい。ご案内します」
リーナの居室は、クルミがいなかった時は、散らかっていて酷い有り様だったが、今は、きちんと綺麗に整頓されている。
「いつも綺麗になってるよね。リーナは手伝わないの? 」
「リーナ様も、少しはやるようになったんですよ。でも、お忙しいので、私が殆どしています」
「そうなんだ……クルミ様様だね」
「お側使えとして、当たり前の事です」
居間に着くと、先に、ベルゼブブ家の執事、メーガさんが座っていた。きっと、ミミーの帰りを待っているのだろう。
「メーガさん、こんにちは。ミミーの様子はどうですか? 」
「これは、シロウ様、ミミー様は、あれから一生懸命、勉強をされてますよ。メメーー」
「それは、良かった。でも、あまり、無理させないでね」
「もちろんで御座います。また、家出されてしまったら困りますから。メメーー」
執事のメーガさんも少しは、反省したようだ。メーガさんと談笑していると、リーナ達がやってきた。吸血鬼達もいる。
「シロウお兄ちゃんなのでちゅうーー」
「ミミー。勉強頑張ってるんだって? 偉いぞーー」
「でへへへなのでちゅう」
「シロウ、わざわざ呼び出してすまない」
……リーナが、俺にすまないだってーー!明日、雪が降るのか? ……
「大丈夫だよ。何か用なの? 」
「今日の会議で話し合った事を伝える」
「何の会議だったの? 」
「徘徊痴呆老人の行方について」
「えっと……ドラキュラ伯爵の事? 」
「そういう言い方もできる」
「まだ、見つからないの? 」
「シロウ様、冥界は広いのです」
「ドラ子でもわからないの? 」
「霧化されてたら、気配も察知できませんので……」
……そういうものなのか? ……
「冥界の捜索は継続して行うつもり。シロウには、地上で探してほしい」
「リーナ、構わないけど、一体、何処に行ったんだろう? 」
「痴呆老人の徘徊に目的などない。ただ、彷徨くだけ」
「そんな事は無いと思うけど……」
「会議でドラ代を暫く、シロウにつけることに決まった」
「構わないけど、 他のみんなは? 」
「ドラ太郎、ドラ次郎は、まだ、社会不適用。だから、冥界探索させる。徘徊老人が、冥界で行き倒れている可能性が大きいから」
……リーナは、容赦がないなぁ……
「シロウ、地上の事は任せた。ドラ代には、日本語も享受してある」
「日本に連れて行っても大丈夫なわけ? 心の病は治ったの? 」
「まだ、急な場面転換すると頭が痛くなりますが、前よりは良いです」
「ドラ代が普通に話してる。きっと、頑張ったんだね」
「そ、そんな……お誉めいただけるとは思いませんでした。キュン! 」
……うむ!? 生血を吸った時の後遺症か? ……
「じゃあ、暫く、よろしくね。ドラ代」
「はい。シロウ様、できれば、ゼロスリーとお呼び下さい」
「わ、わかった。ゼロスリー、よろしくね」
「シロウ、徘徊老人が地上にいたら、捕まえて連れてきてほしい。仕事をすれば、少しは、ボケなくなる」
「わかったよ」
俺は、暫く、ドラ代事、ゼロスリーと一緒に行動する事になった。
大丈夫か?
◇◇◇
俺とドラ代こと、ゼロスリーは、サラマー国の王城に来ていた。一度来た場所ならば、ゼロスリーも平気そうだ。
……トイレに行く回数は多かったけど……
俺とゼロスリーは、居間でライン王子と話あっていた。
「シロウ殿、本当にキメラを倒したのですか? 」
「私が倒したのではなく、連れのゼロツーです。今は、用がありまして、こちらには来てませんが」
「では、北の鉱山は、もう、安全なのですね」
「キメラの巣があると言っていましたが、三体しかいませんでしたよ」
「そんな事は無いはずです。前の討伐の時でさへ10数体確認されていたのですから」
……魔獣同士で仲間割れでもしたのか? ……
気になったので、マップで確認する。北部の山脈には、キメラらしい魔獣は存在していなかった。
「理由はわかりませんが、今は、他にキメラはいません。他の魔獣はいると思いますが、前より安全なはずです」
「そうですか……あとは、ドワーフ達が戻って来てくれれば……」
「エルフの民が、今回の三国会談に出席するそうです」
「何ですとーー!」
「知り合いの半魚人族がミリエナ国の賓客として迎えられておりますので、その方に逢いに行くみたいです」
「半魚人族ですか……あの、伝説の……」
「はい」
「シロウ殿、大変貴重な情報をありがとう御座いました。三国会談の話をこちらで精査したいと思います。シロウ殿は、出発まであと、数日ありますからこの城内でのんびりしていて下さい」
「実は、知人から知り合いの捜索を頼まれまして、少し出かけようと思っています。出発時の前日には戻って来ますので」
「そうですか……相変わらず、シロウ殿はお忙しい。わかりました。前日にお待ちしております」
「ライン王、申し訳ありません」
「何々、こちらこそ」
三国会談までの間、俺と、ドラ代は、地上でのドラキュラ伯爵の探索に向かうのだった。
◇◇◇
「ねぇ、ゼロスリー、何でドラキュラ伯爵はいなくなったんだと思う? 」
「さぁ〜〜皆目、見当がつきません」
「地上にいるのかね〜〜」
「気配は、全く感じません」
「俺のマップでは、ドラキュラ伯爵をチェックしていないから、わからないんだよ」
俺とゼロスリーは、今、サラマー国、北部の山脈に来ている。どこを探して良いのかわからない為、以前来たキメラの巣の近くにドアを開いた。ここなら、ゼロスリーも来たことがあるので、苦しまないで済みそうだ。
俺は、マップを展開しながら山道を下る。山の麓には、町らしいところがあったからだ。
「あっ! この先、魔獣がいるみたいだ」
「大丈夫です」
ゼロスリーは御構い無しに進んで行く。そして、虎のような魔獣に向かって、数発の魔弾を放ち、あっという間にやっつけてしまった。
「凄い! それって、魔弾だよね。どうやって撃ち出すの? 」
「悪魔それぞれですが、私の場合は、身体の周りに亜空間から魔弾を撃ち出すの道具のようなものをイメージして、放ちます。最初は、指から放つと覚えやすいってドラキュラ伯爵が言ってました」
「指からか〜〜」
俺は、手をピストルの形のしてゼロスリーが、仕留めた魔獣の遺体に向けて、魔弾を放とうとすると、指の先端が熱くなり、それを、撃ち出すイメージをすると、
「シロウ様、それでは、威力が大き過ぎます。もっと、抑えないと……」
ゼロスリーの言葉は、間に合わなかった。俺は、もう、魔弾を撃ち出したあとだった。
『ドッカーーン!!』
「おぉーー!」
「シロウ様は、サリーナ様、ミミー様と契約されているのですから、無駄に魔力が大きいのです。もう、少し抑えないと、辺り一面、跡形もなくなりますよ。現に、もう、魔獣の遺体のカケラすら見当たりません」
ゼロスリーが言う通り、俺が撃ち出してしまったのは、ロケットランチャー程の威力を持った魔弾だった。制御を誤れば大変な事になるかも知れない。
「こういう攻撃系の魔法は、火魔法のファイヤーショットぐらいしか、使った事ないんだよ。イマイチ、制御の仕方がわからないんだ」
「シロウ様、サリーナ様と契約して暫く経ってますよね。何、してたんですか? 」
「俺がやっつける前に、周りの者が強すぎて、すぐ終わっちゃったんだ。攻撃する暇さへ無かったよ」
「つまり、ヘタレなのですね」
「そうだよ! 悪いか? 」
「まぁ、仕方ないでしょう。悪魔と比べたら、ヘタレですが、人族の中では、優秀な方だと思います」
……ドラ代は、優しいのか、冷たいのか、キャラがわかりずらい……
「ゼロスリー、良かったら、俺に魔法を教えてくれない? 」
「構いませんけど、私で宜しいのですか? 」
「もちろん」
「では、麓の町に行きましょう。今は、もう、誰も住んでいないみたいですし」
「よろしくお願いします」
◇◇◇
麓の町は、廃村といった感じで、人っ子ひとりいなかった。事前にマップで確認済みなのだが……
使われていない建物は直ぐにボロくなる。この町の建物も同じような状態だった。その中でも、良さそうな建物を見つけ、俺と、ゼロスリーは、その場所を拠点とした。
「まずは、掃除だな」
「では、私は、食料を調達してきます」
「食べ物なら、マイルームから調達できるよ」
「いいえ。シロウ様には、出来るだけ現地の物を食べてもらいます。これも、修行の一環です」
……えっ!? 修行するの? ただ、魔法を教えてっていっただけなのに?……
「では、行ってきます」
そう言ってゼロスリーは、空を飛んで行ってしまった。
俺は、家の掃除に明け暮れた。家事手伝いのスキルをフルパワーで使う。普通なら1日作業だが、数時間で綺麗になってしまった。
「ここには、お風呂はないみたいだ……。そうだ。キッチンの隣の部屋を潰して浴室にしてしまおう」
日曜大工のスキルを使って、浴場を作り出す。イメージ通りできるので便利な能力だ。
「水は魔法で作り出すとして、お湯にするには……そうか! 水の中の手を入れて火魔法を使う要領で、温めればいいんだ」
早速、俺は、水を湯船に入れて、いっぱいになったところで、手を入れて火魔法を使う。俺の手の先から、泡が沸きだっていた。数分で、ちょうど良い湯加減になったところで、ゼロスリーが帰ってきた。
家の前で『ドスン』と大きな音がする。
「なんだ〜〜? 」
「シロウ様、ただいま戻りました」
「ゼロスリー、お帰り。凄い音がしたけど、何? 」
「仕留めた獲物を置いただけです」
……獲物を置いただけで、あんな音が出るのか? ……
俺は、家の外に出てみると、小さな驚きの声とともに、大きなため息をついた。
「ゼロスリー。これ、何? 」
「今日の食事です」
「これって、マンモスだよね。象のデカイやつ」
「いいえ、これは、魔獣のマンマンモスです」
……何、その名前……艶めかしいんですけど……
「魔獣なの? 」
「はい。人族でも食べると聞いたことがありましたので、少し、遠くまで足を延ばして捕まえてきました」
「そうなんだ……」
……これ、食べきるまで、一ヶ月以上かかるよ。きっと……
「直ぐ解体しますから、お待ち下さい」
そう言ったゼロスリーは、風魔法を操り、手頃なサイズに切り刻んでしまった。
開いた口がふさがらない……
「お待たせしました」
「待ってないよ。直ぐ終わったし。そうだ。お風呂を沸かしたから入ってきなよ。疲れたでしょう?」
「いいえ。シロウ様からお入り下さい。私は、その後で構いません」
「順番なんて構わないよ。ゼロスリー、先に入ってきなさい」
「ご命令とあらば、従います。では、遠慮なく……」
俺は、ゼロスリーを作りたての浴室に案内し、それから、切り刻まれたマンマンモスの肉片を思い出しながら、今日の食事は、どうしようか、と考えていた。
◇
「シロウ様は、細かい事がお出来になるのですね」
「それって、浴室の事? それとも、料理の事? 」
「両方です」
結局これは、マンマンモスのステーキにしてしまった。ただ、焼くだけだし、調味料は、揃ってるし……
「ゼロスリー、沢山食べてね。いっぱいあるから」
「いいえ、私は、少し頂くだけで結構です。それより……」
ゼロスリーは、俺の首筋をジッと見つめていた。
「そうか! 食べ終わったら、血を吸っていいよ」
「良いんですか? シロウ様の生血は美味しいので」
……生血って……生ビールみたいだ……
「構わないよ。吸血行為もきちんとできるようにならないと困るのは、ゼロスリーだからね」
俺は、血を増やそうと、残っている肉をガバガバ食べるのだった。
◇
もう、辺りは暗くなっていた。俺は、家の外のデッキに腰掛け、異世界の星を見ながら、家の外でお腹がこなれてくるのを待っていた。ようは、食べ過ぎたのである。
すると、ゼロスリーがやって来て俺の隣に座った。
「シロウ様……」
……なんなの? この雰囲気……
「ゼロスリー、地上は慣れてきた? 」
「まだ、慣れるとまではいきませんが、それなりに過ごしやすいです」
「冥界と比べてどう? 」
「冥界の方が気兼ねないです。地上は気を使います」
「そうなんだ……」
「シロウ様……その……」
……そんな色っぽい目で俺を見ないでくれ、変な気分になるだろう!……
「わかってるよ。いつでも良いよ」
「はい。では、頂きます……カプッ」
……マズい! なんか良い匂いがする……俺、理性を保てるのか? ………
血を吸い終わったゼロスリーは、そのままの姿勢で俺を熱く見つめて……
「は〜〜い。出席番号3番。ドラ代ことゼロスリーで〜〜す。私のファンの君! 生血をありがとうね〜〜キュン、キュン」
……えっーー! あの状況から豹変するの〜〜!?……
「もう、これで最後の曲となりました〜〜キュン」
……最後って……いきなりクライマックスかよっ!……
「では、聞いて下さい。柩の取説」
♬ 扉を開けて〜〜確認するの〜〜右、左
♬ 中の布団は〜〜消臭済みよ〜〜枕もね
♬ 水も、お菓子も隅に置いて、雑誌もあれば最高よ
♬ 最初に決まった音楽聴くの、防音バッチリ完璧よ
♬ でもね、困ったことがひとつあるの……それは、トイレよ
♬ もっと、広い柩………欲しい。欲しい。
♬ 私の希望は……1DK
♬ それって、もう柩じゃないわよね。千年寝てたら気づいたわ。イエー!
「みんなーーどうも、あ・り・が・とーーう……グーーグーー」
いきなり歌い出したと思ったら、寝てしまったんですけど……
何なの、これ?




