第1話 ーーーきっかけは唐揚げ弁当ーーー
ドアを開けると、そこには全裸の美少女がいた……
◇◇◇
「見てっ!あの男よ」
「うわぁー、気持ち悪い」
「変態よ、変態だわ!」
「王宮に潜り込んで、王女様の着替えを除くなんて、なんて羨ましい……けしからん奴なんだ!」
「馬鹿な奴だねーー捕まる事ぐらい予想できただろうに……」
「若気の至りも度が過ぎたようじゃな。ウォホッホッ……」
「あら〜〜、結構いい身体してるじゃない〜〜」
城下町の様々な人の声が聞こえる。
俺は、磔にあって、市中曳き回しの刑の最中だ。頑丈な木に後ろ手をきつく縛られており、首には鎖が繋がれている。身動きできない状態だ。
そして、一番最悪なのがパンツをはいてない事だ。
薄汚い布地が身体に巻かれているだけで。少しの振動でもその布地が落ちそうだ。まっぱで城下町一周だけはどうにか避けたい。
必死になって、布が落ちないように抵抗しているが、最悪の時はもうすぐ訪れそうだ。
「あの男、クネクネして気持ち悪いわーー」
「何、あの動きーー、キモい!」
「目が汚れるーー!」
「ここら辺では見ない顔立ちですなぁーー、東部の出身でしょうか?」
「あの動きは、もしかして東部の島国に伝わる武術の動きなのか……」
「いや、ただの変態だ」
「あの腰の動き、とてもいいわ〜〜ん」
その時、一陣の強い風が街を覆う。
『キャッーー!』
空を見上げると薄汚い布地が舞い上がっていた。
俺は、精神的に死んだ。
◇◇◇
何故こんな事態になっているかというと、少し長いが聞いてくれ!
いや、是非とも聞いてほしい。
あれは、俺が一郎兄の引越しの手伝いをして、帰る時だった……
◇◇◇
俺は、鈴風 四郎。キラキラネームが当たり前の時代にそぐわない名前だ。
名前の通り鈴風家の4人目の子供で中学三年生。高校受験を控え勉強や家の手伝いなど毎日忙しなく過ごしている。
一番上の兄は鈴風 一郎。生真面目な性格で今、臨床検査技師をしている26歳だ。この春、婚約が決まり秋に行われる結婚式の準備で忙しく過ごしている。
二人目は、鈴風 二葉。夜のお仕事をしている綺麗な姉だ。今年で21歳だったと思う。普段はいい加減な性格だが、兄妹たちの為に経済面で協力してくれる家族思いの良い姉だ。
三人目は、鈴風 三季。高校二年生で陸上部の期待の星だ。大雑把な性格だが面倒見が良いのか、友達が多い。勉強はあまりできない。
四人目は、俺だ。家の家事は俺の仕事で、難しい料理はできないが家を切り盛りしている自負がある。顔立ちもイケメンでは無いがそこそこ見られる程度だと思う。勉強もできる方だし、モテそうなのだが、そういう浮いた話は一度も無い。
五人目は、鈴風 皐月。中学一年生で頭が良い。名前を五月とつけようとした親に皐月が良いと兄姉達が反対した。兄達は名前でさんざん、からかわれたからな。
漢数字が入って無いだけでも、読みは同じでも雰囲気が違う。感謝して欲しいものだ。皐月は、何でもソツなくこなす秀才である。妹でも頭が上がらない。
六人目は、鈴風 睦美。小学五年生だ。名前の件は皐月と同じだ。何でうちの両親は、センスがないのだろう? 本人達曰く、覚えやすいからだそうだ。睦美は、勉強嫌いですぐ飽きるのがたまに傷であるが運動神経は三季姉に似たのか優れている。
父親は、単身赴任で母親は、介護士をしており、今どき珍しい二男四女の子沢山の八人家族だ。家族みんな仲が良いのが自慢だが、一つ大きな悩みがある。
この、3DKの都営住宅で……。
そう!これだけの家族で3DKは、狭すぎる。とにかく狭いのだ。
一郎兄と俺は同じ部屋で、二葉姉と三季姉、皐月は一緒の部屋だ。母さんと睦美は一緒に寝ている。
こんな家族の中で育った俺は、自分だけの部屋を持つことが夢だった。小さい頃から新聞の折込チラシに入ってくる不動産屋の家の間取りを見る事が好きで家の間取りを見るたびに、ここに机を置いて……ベットは、窓際に……本棚は……と想像を巡らす事が楽しかった。
一郎兄が結婚して新居を構えることになり、念願の『MY ROOM』が秋には手に入るはずだったが、一郎兄と入れ替わりに妹の皐月と睦美が入る事になりせっかくの夢が儚く消えてしまった。
「別にショックじゃないよ。可愛い妹と一緒だから……でも、前より人口密度が上がるのは受験生の俺的にはどうなの?……」
そう嘆いても、この家では女性重視だ。男どもが何かを言ってもその数倍の言葉で返される。そこには、道理も倫理もあったものじゃない。言葉で負ければそいつが敗者だ。しかも、理不尽にも暴力付きだ。初めから男女比で男は敗者なのである。
でも…そんな俺にも、もう一つ夢があったのだ。そう、マイルームに趣味の品々を飾りそれを眺めて至福の時を過ごす事を……
決して、妹と一緒の部屋では決してそれを飾ることはできない!
家族にもバレる訳にはいかない!
洗練されたフォーム、
短いスカートから伸びる細い脚。
愛くるしいスマイル。
あーー憧れのマイ・フィギュア達……。
そう、俺は隠れオタクなのだ。小さい頃、姉達と見ていた日曜日、朝のテレビ番組『魔法巻毛少女 くるくるパッツン』にハマってから色々なアニメを見始め、今に至る。
男の子なら、実写版のヒーローものに憧れるが、女姉妹が多かったせいか俺には馴染みがない。俺はハマった二次元のフィギュアを買うために朝から新聞配達のバイトに励み、貯めた資金で少しずつ買い漁っている。勿論、手に入れた品々は、同じ都営住宅の幼馴染に匿ってもらっている。そいつは、一人っ子なので憧れのマイルーム持ちだ。
「羨ましい……羨まし過ぎる」
幼馴染も以前は二次元に興味を持っていたが今は、ガチのアイドルオタクだ。俺には、その良さは全然理解できないが……
女性なんて、恐竜のようだと思っている。絶滅種だ。姉や妹を見ていてそう思う。凶暴で、わがまま、横暴な生き物。今や理想の女性は幻想の世界でしか存在しない。
だから、二次元は最高なのだ!
「いかん、いかん 、思考がMY宇宙に行っていた……」
俺は、趣味をひたすら家族に隠し、ありふれた日常を送っている。
そう、あの日までは……。
◇◇◇
「ここが一郎兄の新しい新居か……」
「そう言っても、賃貸だけどな。時間がなくて妥協したけど、なかなか良い物件だろ」
「新婚さんには、ちょうど良い広さだと思うよ。都内でこれなら、相当無理したんじゃない?」
「まぁーー、多少はね。その分、小遣い減らされそうだよ」
「すごい!キッチンがlHクッキングヒーターだ。しかも、対面式!」
「それは、由香里の希望だよ。掃除が楽なんだとさ」
「いいなぁーー、俺もこんな部屋に住みたい……」
今日は、兄妹総出で一郎兄の新居引越しの手伝いに来ている。由香里とは、一郎兄の婚約者であり、俺の通う中学校の先生だ。去年、担任だった島野 由香里先生は、家庭訪問で両親の代わりに一郎兄と面談しお互い意識しあって付き合い始め、ゴールインという訳だ。
「俺の後に皐月と睦美が入るんだろ。四郎の夢は当分先だな」
「高校入ったら一人暮らししてやる!」
「母さんや二葉達が許すわけないだろう。諦めろ」
「あんた達!サボってないで荷物運んでよ!それに一郎兄の家でしょ。駆り出された私達が働いて、当の本人がサボってちゃ話になんないよ。皐月や睦美まで由香理さんと荷物を片付けてるのに」
「悪い、悪い……ほらっ、四郎、そっちを持ってくれ」
「はい、はい」
「四郎!返事は一回でいいのっ!」
二葉姉は、相変わらずだ。
「あれっ、三季は、どうした?」
「今日は、部活だよ。大会が近いから休めないんだって」
「終わったら、俺のおごりで蕎麦でも食べようと思ったんだけど」
「三季姉には、帰りにお弁当でも買って帰るよ。その方が喜ぶし」
「四郎、私にも買っておいて、夜食で食べるから」
「わかったよ。何がいいの?」
「唐揚げがいい」
「太るよ」
「生意気ね。四郎は!姉さんのどこが太ってるって!」
「わかった。わかったよ。ギブ、ギブ」
「じゃあ、お願いねーー」
二葉姉のスリーパーホールドは、反則技だ。首も苦しいが、背中に当たる二葉姉の胸が迫力ありすぎる。
「お前も苦労人だなぁ」
「一郎兄がいなくなったら、俺の立場がさらに無くなるよ……」
「まぁーー、何というかーーそのーー諦めろ」
「消極的に納得するよ……」
一郎兄の俺に向ける眼差しが、悟りを開いた仙人のようだった。
一郎兄の奢りでみんなで蕎麦を食べ、帰りに俺は、二葉姉と三季姉のお弁当を買いに商店街に寄った。
この商店街は、都営住宅の人々が利用するので、周辺の商店街より活気がある方だが、空き店舗もちらほら目立つようになってきた。
さっさと二人の姉のお弁当を買い、暗くなる前に家に帰る。
俺の思考は、一郎兄の新居の事で頭がいっぱいだった。
「あの隅に、ベットを置いて、向かいの壁にはガラス張りの棚にフィギュア達を飾って……」
すると、前から、睦美と同じぐらいだろうか?犬の散歩をしている女の子が歩いて来る。というか、大型犬に引っ張られて歩かされているような状態だ。
この狭い、歩道ではすれ違うにも困難だ。俺は、歩道の外側に出てその女の子が通り過ぎるのを待つことにした。犬に引っ張られながらもその女の子は、俺が道を譲ったのを理解したのか頭を下げ足速に通り過ぎようとした。
その時だ。犬が、俺の持っていた弁当の匂いに反応したのか、寄りかかってきた。俺は、無意識に避けるように車道に出てしまった。
『キィーー!』
車のブレーキ音が響く。大きなタイヤ……。トラックのようだ。犬が泣き叫ぶ。女の子と目があった。大きく見開いていたのが印象に残った。
俺の意識は、そこで無くなっていた。
◆◆◆
意識が覚醒した場所は、何もないところだった。俺は、呆然と体育座りをしていた。頭がはっきりしない。夢の中のようだ。
何処からか声が聞こえ、綺麗な女性が現れた。同じ年齢ぐらいだろうか?目の大きな人だった。
『鈴風 四郎君 貴方の命は風前の灯です。あと僅かで消えて無くなります。そこで貴方には、異世界に行くか消えて消滅するか選んでもらいたいのです』
その女性は、とても事務的だった。俺は、思考が追いつかず「異世界?」と聞き直したつもりだったが、相手の女性は異世界への転生を承諾したものと受け取ったらしい。
『わかりました。異世界への転生をお望みですね。転生者には、私からの加護をお渡しします。加護の種類は色々ありますが、四郎君の魂の資質に合わせた物が与えられます』
その女性が話終わると直ぐに俺の身体に何かが入ってきた様な感じがした。
『それと、異世界での言語も理解できるようになって……あれっ?……何で薄くなってるの?』
「薄いって何がですか?」
『貴方の身体です!あれっ?何でーー、まだ、異世界の扉を開いて無いのに〜〜』
女性の声が、さっきまでの事務的な話し方と違って焦っていて面白い。
すると、違う女性の声が聞こえてきた。
【四郎!】
なんか、二葉姉の声に似てる……
『何で、うっそーー、どうしちゃったのよーー、加護が効いて無いのかしらーーエイッ、エイッ』
【四郎!四郎っーー!】
『あーー、どうしよう、どうしよう〜〜あんた、どうすんのよ!エイッ、エイッ」
焦った女性の声は、俺に八つ当たり気味だ。女性の掛け声のたびに、俺の身体に熱いものが入ってくる。
「どうするって聞かれたって……」
【四郎!四郎!四郎!目を覚ましてーー!】
『あっーーダメーーっ』
二人の女性の絶叫とともに俺は眼を覚ました。見慣れない天井だ。
「四郎ーー!良かった。良かった……」
二葉姉の声だ。
「四郎が眼を覚ましたぞーー!医者を呼んで来る!」
一郎兄が慌てて病室を飛び出した。
『四郎にいちゃんーー』
皐月も睦美も泣いている。俺は、ゆっくりあたりを見渡すと家族みんながそこにいた。みんな、目を真っ赤にして泣いていた。
俺は、トラックに跳ねられさっきまで心臓が止まっていたのだと後になって聞かされた。医者達は「奇跡の生還」と言っていた。




