第8話『烙印』
「そうだな、いつも通りに1年だ、1年待ってやろう。」
そういって男が何かの術式を発動させた。
右手の甲が内側から燃えるように熱くなった。
「ぐぅッッ!!」
歯を食い縛り必死に耐えているとすぐに痛みは収まった。
右手を見ると手の甲に真っ黒な×マークの烙印が浮かび上がっていた。
「その烙印がある限り何時でもこちらからは補足が出来る。」
そう言った後に男が俺の耳元へ口を近付けて囁いた。
「1年経ったら殺しに来るからそれまでに沢山殺して強くなってくれ。お前ら初心者は素晴らしいなぁ。こうして烙印を刻んでおけば必死に力を付けてくれる。そんで1年経ってそこそこ強く育ったお前らを収穫するんだ。そうして俺はどんどん強くなれるってぇ訳だ。フフハッ、1年後俺を殺して生き残れるように精々頑張りたまえ。ま、無理だと思うけどな?強くなってなくても殺すから足掻けるだけは足掻け。」
そして頭を掴んでいた男の腕の力が緩まり、俺は解放された。
振り返ると男の姿はなかった。
「…………畜生」
あぁクソッ…痛いなぁ…それに凄く疲れた。
頭の中はこの短時間で起きたことを受け止めきれずにぐちゃぐちゃだった。
悔しくて苦しくて、そして一年後に勝てる可能性が絶望的な事実を悲観して涙が溢れてきた。
「こんな…のっ、こんなの無茶苦茶過ぎる だろ!どうしろってんだよ…」
口から出る声は震えていた。
鼻が詰まり呼吸が苦しい。
俺はこの何日かで自分でもやっていけると迷宮を甘く見ていたのだ。
こんなことになるなんて音送りなんてしなければ良かったんだ…。
俺は何かをする気力が湧かなかったが激痛がそれを許さなかった。
折れていない右手で荷袋を必死にあさる。
片手では袋を開くこともあさることも手間取った。
俺は少しでも早く激痛から逃れる為に必死の思いで回復薬を取り出した。
しかし焦るあまり回復薬の入った瓶は手を滑り落ち床に落ちた。
幸か不幸か膝を付いた高さからだったので瓶は割れなかったが俺はこれが自分の置かれた状況と重なる部分があるように感じた。
「焦るだけでは駄目だ…冷静に行動して、最速で強くならなくてはならない。そうだ…最大効率で強くならなくちゃいけないんだ。」
俺は瓶を拾って回復薬を飲み干した。
激痛は嘘のように消え去り、すぐに立ち上がって歩き出した。
「最速で…最速で…休んでる暇なんてない…」
そう呟きながらケイルは暗がりへと消えていった。