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世界迷宮の攻略者  作者: Mr.J
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第2話

 背中に刺さったナイフを引き抜こうとしたが、少し動かすだけでも酷く痛み、背中と額から汗が吹き出した。

 それでも引き抜かない事には回復させられないので、左手を噛み締めて思いっきり引き抜く。


「~~~ッ」


 声にならない声が出て呼吸が激しく荒れた。

 大きく息を吸い込み、なんとか呼吸を整える。


 俺は涙の溜まった目を擦りながら荷袋を漁り、瓶に詰めた回復薬を取り出し一気に飲み干した。

 瞬時に痛みが消えて無くなる。

 念のためにナイフが刺さっていた部分を触って確認し、怪我が完全に治っているのを確かめてようやく、ほっと胸を撫で下ろした。

 そして冷静になって荷袋の中を覗き込み残り3本になった瓶を見て大きな溜息を漏らした。





 それにしてもこんなにあっさりと魔物を殺せるとは思っていなかった。


「俺でも殺せる魔物もいるんだな…」


 元攻略者であった父親から見込みなしと言われ、戦いの技術をほとんど教えてもらえなかった俺であるが、自分の力で魔物を殺せた事実に驚いており、大きな達成感を感じていた。

 自然と口角が上がって自身が満たされるのを感じていた。



 いつまでも悦に浸っている場合ではない。

 まだ魔力切れの症状が残っていたが、このままここで休んでいればまた次の魔物が来るかもしれないのだから移動すべきなのではないかと考える。


 何処か安全な場所へ行き横になって魔力も体力も回復させたかったし何か食べられる物も確保したかった。

 しかしずっと村で暮らしてきた俺には村の外の地理が分かる筈もなく闇雲に光り苔にうっすら照らされた通路をひたすら歩くしかない。


 運良く犬土竜の巣でも見つけられれば大型の魔物に襲われる心配が無くなるだけでなく、犬土竜の肉にもありつけて一石二鳥なのだが…。


 もちろん移動して魔物に遭遇する危険性もあるのだがこの場所には俺の血と焼けたゴブリンの匂いが充満しており、釣られて何かが出てくる可能性が高く移動した方が安全な確率の方が高いと考えたのだ。




 そして安全な場所を探して歩き出してすぐに俺は違和感を覚えた。


「何だ…この道、見覚えがあるぞ。」


 そんな訳がない。

 俺は村から出た事なんて無かったのだから。

 きっと似た構造の通路が村にあって既視感を覚えただけに違いない。

 そう思い、また歩き始めたが今度こそ何かがおかしいと確信する。


 光り苔を見たときに『美味しそうだ』と感じたのだ。

味どころか光り苔が食べられるだなんて話を聞いた事すら無い。


 では何故食べたことがない光り苔を美味しそうだと感じ、知らない道が知っているかのように感じ、その先にどういう道が広がっているのかぼんやりと分かるんだ?



「あぁ、そうか!これが親父が言っていた迷宮のルールってのか、人だけでなくゴブリン相手でも通るんだな」




 この世界を覆っている迷宮には不思議なルールがある。

 全てのルールが知られている訳ではないがそれでも攻略者は経験から、こういうルールがあるらしいと後世に残していて、俺も元攻略者だった親父からルールを幾つか聞いた事があった。


 ひとつ

『迷宮の破壊は不可能である。壁を掘り進めて行くと光を反射しない真っ黒な壁がありそれは如何なる攻撃も通さない』


 ひとつ

『迷宮にはいくつもの階層があり階層を越えるには階層主を倒さねばならない』


 そして

『迷宮において攻略者は、殺した者の経験、力をいくらか得ることが出来る』


 確か他にも幾つか言っていたが、お前では攻略者にはなれない、才能がない、とはっきり明言されていた俺はどうせ村で一生を終えるのだと話半分に聞いていたため、ほとんど覚えていなかった。

 こんな事になるのならしっかりと聞いておけば良かったと後悔した。



「ゴブリンは光り苔を食べていたってことか。人間でも食べられるのか?」


 俺はしばらく悩んでいたがとりあえず少しだけ口に入れて駄目なら吐き出せば良いと、壁に生えた光り苔を少しだけ摘まんで口に入れた。




 意を決して口に入れた光り苔だが、食べられない程ではないが青臭さと苦味があり、そしてピリピリとした刺激を感じさせた。


 つまり不味い。


 が非常時なら食べられなくもないなと、俺は空腹を感じなくなるまで光り苔を食べ続けた。




「さて、安全な場所を…ん?もしかしてゴブリンから得た経験で場所が分かるんじゃないか?」


 俺は安全な場所を思い浮かべた。

 すると何となく情景が浮かんで来た


 沢山の人影がぼんやりと見える。

 浮かんで来た人影に意識を向けると全てゴブリンだった。


「全然安全な場所じゃねぇな…あんなのに寄って集って襲われたら普通にどうしようもなく死んでしまう」


 冗談ではない、安全な場所だと勘違いして危うく嬉しそうにゴブリンの集落に突っ込んでいくところだった。


 光り苔を美味しそうと感じた件と言いゴブリンの知識や経験はどうやら素直に信じて良いものばかりではないようだ。


 ではこんなのはどうだろう。

 今度は曖昧に安全な場所を思い浮かべるのではなく、『犬土竜の巣穴』をピンポイントで思い浮かべてみた。



 すると幾つかの場所がぼんやりと頭に浮かんできた。

現在地の近くだけで4つ程浮かんできたがその中で一番安全に向かえる場所もゴブリンの経験から感じとる事が出来たので、俺はそこへ向かう事にした。









 そして10分程度歩いた場所に巣穴を発見した。


 犬土竜の巣穴はちょうど人が入れるようなサイズの穴が横向きに広がっていた。


 入る時に自然と体が行動を起こし俺は鼻を2回鳴らして穴の中の臭いを嗅いだ。

 獣臭さがあまり残っていないこの巣穴にはどうやら既に犬土竜は住んでいないと言うことが判断出来た。


(……これはゴブリンの経験から自然に出た行動だろうか?)

 自分には臭いで判別出来る芸当は無かった筈である。


 案外ゴブリンの経験も侮れない部分もあるようだな、と嬉しく思いながら俺は巣穴の中で横になった。

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