act.8 契約
―隠者の森―
「お、おい・・・大丈夫か?」
カタカタ震えながら熱いスープを啜る俺に、心配そうな様子でリンネが問いかけてきた。まだ手足の感覚がはっきりしないが、少しずつ元に戻ってきた。
何が起きたかわからないが、リンネ曰く「生命力を食べられた」らしい。あと少しでも救出が遅れていたら助からなかったとも言っていた。
「ちょっとリンネ、私にもそれを作りなさいよ。さっき妙なものを食べたせいで胸糞悪い気分なのよ。」
俺をこんな目に遭わせた張本人が、オズの頭を撫でながらそう言う。勝手に捕食されかけた挙句、不味いって・・・
「師匠・・・?事故だったとはいえ、その態度はないんじゃないっすか?」
「勝手に部屋に入られて、睡眠を邪魔されたのよ?殺されても仕方ないと思わない?ねぇ、モブ男君?」
さっきの黒い右手を出現させ、俺に触れるかどうかの位置で待機させてそう言う。頷かないと殺すというわかりやすい脅しだった。クズが・・・と思いながら渋々頷いた。
「でしょう?なら、その命をもって・・・」
「師匠っ!!」
「・・・まあ、今回は大目に見てやるわ。」
さっきまでは俺を始末する気満々だったが、リンネに咎められ、考えを改めてくれたようだ。俺の周囲を漂っていた黒い右手が音も立てずに消滅する。
「初めまして、私の名は・・・そうね、業徳寺とかで良いんじゃない?こう見えても探偵をしているわ。」
リンネの師匠がどこかで聞いた様な挨拶をする。
「それで、私に依頼があるんじゃない?ほら、さっさと氏名と内容を言いなさいよ。」
探偵か・・・人を探すのに適した人物と言えるだろう。正直、関わりを持ちたくないが、早く元の世界に帰るために利用しない手はない。業徳寺にこれまでの経緯を話した。
「なるほどムツキ・・・マヌケな名前ね。」
「失礼っすよ、師匠・・・っていうか俺、お前の名前を聞いてなかったな。」
名乗ってなかったからな。
「拉致されて、人探しをしろと言われてここに捨てられた?ハイレベルなクズね。」
豪徳寺が同情するフリをしながら話を促す。どうも豪徳寺はグリードと似た人種(?)に感じる。
「それでどうしたらいいの?拉致した奴を懲らしめたらいいのかしら?」
グリードはあの奇妙な空間にいるし、それは難しいだろう。とりあえず人死が嫌だという理由で断った。
「ああ、はいはい・・・じゃあ、人探しの方ね。特徴を出来るだけ教えてくれる?」
この世界の主人公・・・これをどういう表現で示したらいいだろう?とりあえず特別な力を持った女性と言ってみた。
「そんなのいくらでもいるわよ?」
ごもっともだった。基準は分からないが、リンネも豪徳寺も特別な力を持った女性である。
「あんた、私にわかりやすくするために、表現を変えたでしょ?あんたを拉致した奴は、元はどういう風に言ってたのかしら?」
この世界の主人公、この世界の中心、そう答えると案の定、リンネは怪訝な顔をした。
「その、頭大丈夫か?まさか師匠に食われかけた時のショックで気が・・・?」
・・・まあ、当然の反応だろう。だが、業徳寺はこの表現で探し人が誰か理解できたようだ。
「なるほどね・・・協力することは可能だし、多分すぐに見つかるわ。」
本当か!?是非すぐにでも・・・
「でも、協力する気はないわ。あんた、お金持ってないでしょ?」
言われてみればそうだった。仕事として探偵に依頼するのだから当然金額が発生する。
「そこをなんとか頼む!俺、こいつに協力するって言ってしまったんだよ!」
リンネは必死に頭を下げてくれているが、豪徳寺は頑なに了承しない。仕事なのだから仕方がないだろう。
なら、あんたの仕事を手伝う代わりに、助けてもらうというのはどうだろう?
「なるほど、依頼料をお金ではなく体で払うということね。まあ、いいんじゃない?」
割とすんなり認めてくれたのが意外だった。
「やったな、ムツキ!」
「なに他人事みたいな顔してんの、リンネ?あんたとオズもこいつと同行するのよ?」
俺一人に任せる訳でなく、リンネとオズがサポートしてくれるようだ。この業徳寺という女性、性格はクズだが話はわかるようだ。
「契約成立ね、早速依頼が一つあるから行ってきてくれる?」
そう言って豪徳寺は封筒を一つ投げ渡した。リンネがそれをキャッチして依頼を読み始める。
「はあ!?冗談っすよね、師匠?ここって・・・」
「冗談じゃないわ、約束通り仕事してもらうわよ?」
依頼内容を読んで青ざめるリンネを、豪徳寺は面白そうな目で見ていた。まだ俺は依頼内容を知らないが、どんな恐ろしい内容なのだろう?




