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act.4 目的


 ―神域―


 気が付くとこじんまりとした空間に俺は横たわっていた。確か空亡を倒した後で気を失ったんだ・・・ 

 「お疲れ様。まあ、良くも悪くも予想通りの実力だったわね。」

 例の声がまた聞こえる。しかし今までと違い、とても近くから聞こえる。まさか声の主は近くにいるのか?

 「ここよ、ここ。」

 声のする方向を見ると、一匹の奇妙な猫がこちらを見ていた。見た目はただの猫なのだが、その姿勢は猫の骨格では到底不可能な、例えば休日の中年男性が寝転がりながらテレビを見る様な体勢だった。

 「初めまして、私の名は・・・そうね、グリードとかで良いんじゃない?名の通り欲を司る者よ。この世界の管理をしているわ。」

 どちらかといえば怠惰という言葉が似合いそうなぐらい、面倒くさそうなトーンで猫が俺に話しかける、とてもシュールだ。ついには鼻まで穿りだしたが、爪で粘膜を傷つけないか心配だ。

 「さっきまでの試験は合格よ、見事あんたは復活のチャンスを手にした訳ね。」

 そういえば、ここに呼び出された理由もこいつの・・・グリードの目的も、何も聞かされていない。一体俺に何をしろというのだろう?世界を救えとか、魔王を倒せとかならほぼ不可能だ。

 「いや、さっきのを見てあんたに戦闘能力を期待する訳ないじゃない。」

 ですよね、それが賢明かと。わかったならさっさと元の世界に帰してくれ。

 「本来この世界にありもしない魂を呼び出すのは大変なのよ?使い道のない役立たずなら放っておくわ。」

 やはりそう簡単には帰す気がないようだ。

 「あんた、主人公って言葉は知ってる?物語の中心人物、つまり世界の中心ともいえるわ。そういう存在はどの世界にも存在するの。この世界でも、あんたの世界でもね。」

 ファンタジーを現実に持ってこないでほしい。この世界ではそうでも現実は違う。その言葉にグリードは心底馬鹿にしたような表情で反論した。

 「いいえ、どの世界にも存在はするわ。それがわからないのは、あんたが何の取り柄もなく、特徴もなく、何なら物語の一シーンにすら登場することなく、なんとなくな理由で退場する脇役、いわゆるモブだからよ。ほら、まさにそんな死に方だったしね。」

 いいだろ、別に。少なくともお前みたいな、ふざけた格好で人を馬鹿にする奴より、よっぽど良い人生を送ってたよ。

 「あっそ、勝手に言っておきなさい。」

 精一杯の嫌味も、素っ気無く対応された。本当に嫌な奴だ。

 「あんたは今まで存在する価値すらないような人生を送ってきたわ。でもそんな可哀そうなあんたがすごく活躍できる仕事をあげる。くだらない反論をする前に、私に感謝したら?」

 一体何様のつもりなんだろう?いっそのこと、断ってしまおうか・・・ 

 「この世界の主人公はとても優秀な素質と信念を持ち合わせているわ。でも、ちょっとガキ臭・・・未熟なのよね。彼女が主人公として成すべきことは、一人じゃ到底達成できないものなんだけど、ちょっと協調性がね?要は、ちゃんと仲間ができるのか心配なのよ。」

 俺に対する扱いとは雲泥の差だな。口の悪さは相変わらずだが、所々に主人公に対する愛情の様なものを感じる。

 それよりも「彼女」って言ったか?この世界の主人公は女性なのか?その・・・可愛いのか!?

 「ええ、もちろん。それもとびっきりにね。」

 そうか、なるほど・・・それで俺は何をすれば良いんだ?

 「いきなり協力的になったわね。いいわ、順に説明するわよ。」

 ようやく本題か・・・

 「まずあんたはこの世界の主人公と合流する。これは私に任せておきなさい。」

 「次にあんたはこの世界の主人公と共に、この世界に発生している問題を解決する。ほぼ確実に戦闘になるけど、あんたは自分の身を守ることに専念すればいいわ。」

 「最後に、この世界の主人公の仲間になってくれそうな奴と親交を深める。ほら言うでしょ、友達の友達は友達ってね。これがあんたの一番大切な仕事よ。」

 要はあれか、戦闘はこの世界の住人に任せて、俺は仲間を増やすことに専念すればいいのか?

 「あんたは何の特徴もない凡人だけど、だからこそ奇人変人ともある程度折り合いがつけれると思うの。」

 胃が痛くなりそうだが、危険な目には遭いにくそうだな。何か注意点はあるか?

 「一つ、あんたが違う世界の住人だということは、致し方ない場合を除いて人に話さないこと。絶対じゃないから、拷問されそうになって吐くのはいいけどね。」

 「二つ、あんた自身は極力戦闘をしないこと。あんたの実力は下の上くらいよ?戦ったら瞬殺されるし、運よく生き延びても目立ってしまうわ。」

 「そして三つ、亜木々一族と6人の英雄のことよ。この問題を解決するにあたって彼らとの接触は避けられないけど、あんた自身が彼らと敵対することは絶対に無い様にして。味方にすると大きな戦力だけど、敵に回したらほぼ詰むわよ?」

 最初の二つは「できるだけ頑張って?」っていうニュアンスだったが、最後のは「警告」という感じだった。亜木々一族と6人の英雄・・・一体どれだけ力のある連中なんだ?

 「いわゆる特権階級って奴ね。何しても許されるし、逆らう奴もほとんどいない。質の悪い連中だけど、ポイントを押さえればどうにかなるわ。大丈夫、連中に遭遇したら私が助言するから。」

 大体わかった。成功するかわからないが、やれるだけやってみる。その代わり、約束を忘れるなよ?

 「もちろんよ。それじゃ、頑張ってきてね。」

 その瞬間、景色が暗転した。


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