act.3 自衛
―神域―
収められていた日本刀に恐る恐る手を伸ばす。いかにもよく切れる様に見えるそれは、刃のついていない模造刀だった。
「ここはあんたのいた世界と違って危険な場所なの。妙な化け物が徘徊しているし、そこに生きている人間もかなり好戦的だしね。逃げるのがベストだけど、戦闘が避けれない場合もある。」
逃げるのがベストって・・・この世界は魔術が使えるんだろ?俺にも魔術の力を与えてくれてくれよ!
「もう与えているわ、ただし、最低限だけど。この世界で魔術が使えないのは、それだけで障害者ってことになるからね。」
・・・最低限だと?
「詳しい内容は後で話すけど、部外者が目立ちすぎるのは困るのよ。それにあんたの役割は戦うことじゃないしね。」
戦うためではなく、世界に溶け込むために与える力ということか。
「さあ、これからあんたがこの世界で生きていけるかテストするわよ。さっさと鳥居をくぐっちゃって。」
―神域―
鳥居をくぐり、最初の魔法陣のある空間の方角へ進む。しかしたどり着いたのは、中央に小さな炎が揺らめく寂しい空間だった。
どうやら声の主はこの空間を自由に操作できるらしい。もし声を無視してこの空間をさまよえば、永遠に迷子となるだろう。
「それじゃ、戦闘のテストをするわよ。中央にある炎がわかるかしら?それに触れてくれる?」
・・・火傷しないよな?恐る恐る近づくと、炎の中から何かが現れた。
黒く輝く球体の側面に人間の頭蓋骨がびっしりと生えたグロテスクな怪物だ。まさかとは思うが、これと戦えなんて言わないよな?
「百鬼夜行の終わりに現れる強大な妖怪、空亡・・・をモデルに私が作った化け物よ。大丈夫、ただの雑魚だから。」
やっぱり戦えと言っている。こうなればなるようになれだ!手に持っている日本刀を抜き、渾身の力で空亡に振り下ろす。しかしほとんど効いていないように見える、素人の剣術では有効打を与えられないということか!?
空亡は俺に敵意があったのか判別に悩んでいたが、しばらくして臨戦態勢を整えて突撃してきた。もたもたしていたのが嘘だったかのような猛スピードに俺は避けることもできずに直撃する。
「ったく、何やってんのよ。ほら、魔術を使いなさいよ。」
確かに剣術が効かない以上、遠距離から魔術を使うのが得策だ。でも、どうやるんだ?呪文でもとなえてみるか?
「効果のイメージと、やってやるぞっていう決意だけで発動できるわ。呪文とかは効果的だけど、手の内がばれやすいからおすすめしないわ。」
ずいぶん簡単な発動条件だ。魔術にどんな種類があるかわからないから、とりあえず漠然と空亡を倒すイメージをする。今まで感じたことのない、熱が体を走る感覚が伝わってきた。後は決意だけ。
俺は必ず現実に帰るんだ!お前みたいな得体の知れない化け物にやられるわけにはいかない!
周囲の気温が急上昇し、空亡に向かって巨大な火球が放たれた。確か拝借した魔術書の一つにこう記述されていたことを思い出した。
【炎の力は調和を知る者に開かれる。協調性があるが、半端者ともいえる】
協調性があるが、半端者・・・現実にいたころの俺の事そのままだ。少し苦々しいが、今回はそれが良い結果となった。まさか初めてでここまで上手くいくとは。
空亡は黒煙に包まれ姿が見えない。しかしあんなのが直撃したんだ、無事な訳がない。そう思って煙が晴れるのを待つ。
徐々に薄くなる煙の合間に見えたのは・・・ほぼ無傷の空亡の姿だった。何なら剣術で与えた傷の方がはるかにマシなぐらいだ。
「まあ、属性の相性もあるしね。そういう場合もあるわ。」
結局、空亡の突撃を毎度肝を冷やしながら避け、隙を見て斬るという作業を数時間続け、ようやく俺は空亡を倒すことに成功した。




