俺は謎の声を聞きました
世の中クソでクズばかりだ─
秋彦──神場 秋彦──は思いながら、さっき買ったばかりの黒色炭酸ジュースを飲む。弾けるようなシュワシュワとした感触が喉を通り、生きてると実感する。
「……こんなことで生きてるとか、どう
なんだろうな」
自嘲気味に笑う。
現在時刻10時28分。健全な17歳高校二年生なら、学校という監獄のような場所でみなさん仲良しこよし僕私楽しいという顔で勉学にはげんでいなければいけない時間帯だ。しかし引きこもりの秋彦には関係ない。
「よくやってるなぁおい」
通りかかった近くの学校を見る。そこでは楽しそうな顔で小さい子がドッチボールをしていた。
ふと、胸元のペンダントに手が伸びる。親父が家を出て、帰って来なくなる前に俺に渡した、綺麗な宝石のペンダント。
母親は俺を産んですぐに死んでしまったらしい。親父は俺が物心着く頃に、このペンダントを残してどこかへ行ってしまった。別に親父を恨んじゃいない。むしろその頃まで男手ひとつで俺を育ててくた親父に感謝している。ただ一つ気になるのは、安否だけだ。
***
「はぁ……」
ため息がもれる。ため息をする事に幸せが逃げると言うが、現在不幸のど真ん中なので相殺されるだろう。
「おい聞いてんのかよ?金だよ金。金よこせって言ってんの。」
ちょっと近道しようと思ったのが運の尽きだったか。もともと目立ちやすい外見だし、ちょくちょくこういったこともあるが
「まさかこんな真昼間からカツアゲされるとは……」
「なにぼそぼそ言ってやがる。さっさと金だせや。それとも痛い目みねぇとダメか?」
秋彦を囲む、三人組の1人が拳を握り俺の顔にぐっと近づける。
「殴られたくなかったらさっさと金だせや」
「へいへい。」
めんどくさい事は嫌いだ。だからさっさと金を渡して帰ろう。金を渡せばこいつらは満足しもう関わろうとしないだろうし。そうさっさと
「しかしなんだその髪。染めてんのか?だせぇなおい」
「あ?」
もう1度言うがめんどくさい事は嫌いだ。嫌いなんだ。だけど。
「おい」
「あん?」
「この髪を馬鹿にすることだけは許さねぇ」
母親ゆずりの髪を馬鹿にされることだけはは許せない。ふっと湧いた怒りにまかせ目の前の顔面に拳を炸裂させる。クリーンヒット。ゲームならクリティカル!と表示されそうな勢いだ。
「いってぇ!!」
拳が痛い。いくら暇つぶしで鍛えてたからって、実戦することはそうそうなかった。しかし、ここまで来たらしょうがない。秋彦はその勢いのまま唖然としてるもう一人に深々と鳩尾パンチを喰らわせる。そのまま何も言えずに男は膝から落ちる。
「て、テメェ!!」
最後の一人がやっと状況を理解したのか、秋彦に右ストレート放つ。それをするりとかわし、あごに渾身のアッパーをかます。これまたクリティカルヒット。ワンパンKOだ。男は除けりそのまま後ろに倒れ込んだ。
「あんま人殴ったことねぇんだよ」
ぱんぱんと手の汚れを払う動作をしながら呟く。
「さて、帰るか」
手が痛いのを我慢しながら何事もなかったのように帰路につく。なんとなくペンダントに触り、一歩歩き出す。
「あっ……?」
その時、違和感を感じた。どのようなものと言われれば答えられないが、それは間違いなく違和感だ。
「なん…だ?」
その違和感がなにか確かめようと周りを見渡す。が、なにも見当たらない。
「あ?がっ…ああああああ!!」
瞬間、頭が潰されるような頭痛に襲われる。
「ああ、ああああ!!ああああああ!!!」
頭痛はどんどん頭を締め付けてくる。大声を上げて少しでも痛みを和らげようとする。全く意味をなさないことはわかっていたが、叫ばずにはいられなかった。
『悪……き……こを……』
「あああああ、ああ、なん、なんだ……声が聞こえ……」
頭痛に混ざり声が聞こえる。
『ほん……すま……』
「あ……」
足元がおぼつかない。目の前が真っ暗になる。意識が途切れる。なにもわからない。この頭痛がなんなのか。この声は誰なのか。でも─
『いばら』
最後に呟いた声が、母親の名前呼んだことだけはわかった。