64話 戦慄の最期
「ゲイル、大丈夫なの?」
直立したまま動かない俺に不安そうにジュリアが問いかけるが、返事は出来ない。声すら発する事が出来なかった。
『直ちに脅威を排除します』
口調が完全に俺ではなくワイズのそれだった。
「雰囲気が違うな、小僧。何が起こった」
突然の出来事に理解が追いつかない。
身体の所有権を奪われ、さっきまで動けなかった筈が今では難なく動いているのは何故だ。何をした。
『生命エネルギーを少し魔力に変換する事で無理矢理動かしています。後は鬼人から取り返します』
ご丁寧にワイズが説明してくれたが、鬼人から取り返すとはどういう事だ?
鬼人に向かってゆっくり歩きはじめた。様子の違いを感じ取った鬼人は警戒して身構えているが、そんな事など気にせず落ち着いた様子で歩み寄る。
トンッ
瞬きほどの間だった。数メートルの距離が一瞬にして0になり、俺の右肩と鬼人の右肩が触れていた。
鬼人は動きを追えてなかった様で目を見開いてこっちを見ていた。
「うわぁぁぁ」
鬼人は驚き飛び退きながらも、的確に俺の首目掛けて刀を振り抜く。しかし、その先にある筈の刀は握られていない。
「右手から力が溢れるぞ。これは、何だ」
『こちらがあの鬼人の持っていた刀の隠れた能力です。切りつけた物や人から魔力を吸い取り、刀に蓄積させ持ち主の魔力へと変換する―搾魔刀―』
ワイズはいつの間にか鬼人の刀を奪い、右手に掲げながら説明してくれた。
『これで先程の分は取り戻せました。後は速やかに排除するのみです』
「馬鹿な、いつの間に。小僧、さっきと動きが違い過ぎるぞ。力を隠していたか」
『丸腰の貴方は最早脅威ではありません。諦めて死ぬのです』
ワイズはまた一瞬にして距離を詰めると的確に脚の神経を切り裂く。鬼人は地に崩れ落ちると同時に奪った魔力が更に身体へ流れ込む。
『主人を危機に追いやった償いとして苦しんで逝かせましょう』
顔色を変えること無く鬼人の右腕を切り落とす。
「ぐわぁぁぁぁ」
左手で右肩の位置を抑えもがき苦しむ鬼人。更に躊躇なく身体中を切りつける。死なない程度に。
「やり過ぎだ、ワイズ。ここまでする必要は無い、無駄に甚振るのはやめろ」
語りかけたところでワイズの動きは止まらない。恐怖だ。俺の身体で俺の意思とは関係なく目の前の命を奪おうとしているのだから。
「頼む、やめてくれ。お願いだから」
もはや瞼を閉じる権限すらない。
蚊の鳴くような声で鬼人がつぶやく。
「も、もう殺してくれ。たのむ、ころしてくれ」
必死の形相で懇願していた。早く苦しみから解放して欲しいのだろう。出来ればしてあげたいが。
こっちを見上げる鬼人の顔が宙を舞う。必死の懇願を聞き入れたのか、はたまた満足したのか分からないがワイズは無表情で首を刎ねる。
ワイズは血を拭き取るとアルバの方へ歩み出す。
アルバとジュリアや他の聖騎士も異常な制裁に脅えていた。
『アルバさん、もう大丈夫です。これを解いてください、貴方の生命が危ない』
アルバが氷牢を解くと刀を握らせる。鬼人から奪った魔力がアルバの体内へ。顔に生気が戻ってきた。
『脅威排除、ワイズオペレーション解除』
ワイズがそう言うと同時に身体の感覚が戻ってきた。
「ゲイル、今のは・・・何なの?」
俺にも衝撃が大きすぎてジュリアの問いかけに返す言葉が無い。
辺りを静寂が包み込んだ。




