63話 命脈をつなぐ
蝋燭にともされた火を吹き消すかのように俺の命の灯火も消されようとしている。死とは唐突で呆気ないものだ。今までの人生が頭の中で駆け巡る、これが走馬灯ってやつか。
だがジュリアが俺の名前を叫んでるのが聞こえて目を開ける。
「ごめん、守るだなんて言っておきながらこんな所で死ぬなんて」
鬼人の刀はもう目前に迫っていた。それでもジュリアの方を向いて、聞こえるとは思えないが最後に伝えたかった。
その時、俺は予想外の物を視界に捉えた。
『氷弾』
氷の塊はすさまじい速度で鬼人の顔目掛けて飛ぶ。完全に不意をつかれた鬼人は易々とくらっていた。そのお陰で俺に迫っていた刀は地面に突き刺さった。
「ははっ、首の皮1枚繋がったらしいな」
安堵のため息と一緒に言葉が漏れる。
獲物を仕留める瞬間は獲物に集中するから周囲を警戒出来なかったんだろう。そもそも攻撃されるとは思っていなかっただろう、俺だってそうだ。
「こ、これ以上お前の好きにさせてやるもんか。に、人間舐めんなよ」
「アルバ、お前..」
足は小刻みに震えているが、俺には最高にカッコよく見えた。何より驚いたのは無詠唱で魔法を放った事だった。確かに良く考えれば俺と似たスキルを持っていたなら可能だろう。
「小僧、俺が1番好きなものを教えてやる。それは相手の死ぬ瞬間だ、しかしそれを邪魔されるのが1番嫌いなんだ」
迸る殺気が増し、その矛先はアルバに変更された。
「余程殺されたいらしいな、小僧。よし、望み通りにお前から殺してやろう」
このままでは確実に殺されてしまう。どうにかしたいのに···。
「身体がなんで動かねぇんだよ!」
相変わらず脚に力が入らず立ち上がりもできず地面を力無く叩く事しか出来ない。
「正面切って戦うのは馬鹿らしいからね。時間を稼がせてもらうよ。『氷牢』」
アルバとジュリアを包む様に卵型の氷が現れる。アルバの顔色がかなり悪くなった、今ので魔力切れにかなり近い状態に陥った様に見える。
「そんなに長くは持たない。
ゲイル、ほんとにそんなもんでやられるのか?
頼む、あんたが頼りなんだ。どうにかしてくれよ」
「諦めろ、あいつはもう無理だ。すぐにお前の後を追わせてやるよ」
鬼人は氷に斬りかかり始めた。微かに表面が削れる程度で守りは強固の様だがアルバの魔力が尽きれば消えてしまう。
誰か他に戦えるのは···。周囲を見渡すが戦意喪失した魔導師達では無理だろう。そう言えば、終始動く気配の無かった聖騎士が3人いたはずだが···。いくら見渡しても姿が無い。
「くそっ、あいつらが裏切り者だったのか。最悪のタイミングじゃねぇか」
アルバが信じて頑張ってくれてるのに。くそっ。
絶望に包まれた時、微かに身体に魔力を感じる。魔法が使えて1回分だろう。
「これを外したら終わりだ。確実に最大の威力が出るタイミングで···今だ。『土槍』」
鬼人の背後の土が盛り上がり槍の先の様に形成されると身体に突き刺さる。
「よし、やったろ」
土煙が巻き起こりよく見えない。
「まだ、動けたのか。やはりお前を殺らないと危ないみたいだな」
土煙の晴れた其所に鬼人は立っていた。
僅かに避けられ致命傷は与えられなかった様だ。
身体の脱力感は増して目が霞みだした。
終わりだ。
諦めたその時脳内に声が響いた。
『魔力切れを感知。生命の危険を感知。直ちにワイズオペレーションへ移行』
「なんだって?」
今までが嘘のように身体が動き出した。しかしそこに俺の意思は存在しなかった。




