36話 待ち伏せ
翌朝、俺とジュリアは身支度を済ませ水冷の守護龍の入口に立っていた。
「それじゃあゲイル君とジュリアちゃん、頼んだわよ。大丈夫だと思うけど無茶はしないでね」
任務へ出発するだけの隊員をわざわざリーダーが見送りに来るなんてまず他の部隊ではありえないだろう。
レイラの考え方は隊員は家族らしい、だからこうして見送りに来るし、何かあれば命懸けで助けに来るだろう。そんなレイラを信頼するのに時間がかからなかった。
「大丈夫ですよ。じゃあレイラさん、バトラさん、行ってきます」
早速任務の為王都から北に向かって1ヶ月の位置にあるブルトハーゲルに向かう。レイラによるとこの街は余所者を強く嫌う傾向にあり、交流が滅多にないらしい。
その周囲で魔族による被害が出ていて、自分達では対処できず渋々依頼を出したということだ。
1ヶ月後
ブルトハーゲルに到着したのが昼頃だった事もあり情報収集も兼ねて食事をすることにした。食事を出来る所を探し街中を歩いているだけで住民の視線が痛い。
「ねぇ、ゲイル。思った以上にこの街居づらいわね」
「そうだね、覚悟はしてきたけどこうも全員から見られてる様な感覚はきついね」
まるで未知の物を観察するかの様に街中の人が俺達を見ている。
何とか店を見つけ食事を済ませる。店員の対応も素っ気なかったが、そこは割り切ってくれよと思ったのは内緒だ。
まずは店内に居た人に話を聞いていく事にした。
「すいません、ちょっとよろしいですか?」
「なんだい、あんたら見ない顔だな」
「我々、水冷の守護龍の者なんですが。魔族による被害で困っていると聞きまして・・・」
「あぁ、その事か。それなら街の中央に領主の屋敷があるからそこで聞いてくれ」
最初にチラッとこっちを見ただけでその後はこちらを向かずに話を終えられた。話したくも無いのか俺の話を遮ってまでだ。何があったらこんなになってしまうんだ。
ともあれ領主に詳しく聞かないと何も始まらないので屋敷へ向かう。
屋敷に着くと部屋に通され、かれこれ10分程待たされている。
「いや〜お待たせして申し訳ない」
小太りの男が少し息を切らせながら部屋へ入って来た。ハンカチで額の汗を拭いながら俺達の前の椅子に腰を掛ける。ストレスが多いのかそれが頭部に現れていた。
「どうも、水冷の守護龍のゲイルとジュリアと言います。早速ですが依頼の件について教えてもらいたいのですが」
「そうですね、まず被害者は5名出ています。被害者は皆街の外で倒れている所を発見されてます」
「それでどうして魔族によるものだと?」
「被害者の死因が同じなのです。鋭い爪の様な物で心臓を引き裂かれていて、とても人間の仕業とは思えません。しかし姿を見た者は誰も居ないのでどの魔族かもわからんのです」
「なるほど、他に共通点はありませんか?」
「被害者は寝静まった夜に被害にあっている点です。被害者の家族等から聞くと、仕事から帰らず翌日に発見された者や家で寝ている所を確認されているのに翌朝忽然と姿が消えているのです。また若い女性や少女ばかりが狙われているのです」
夜行性の可能性が高い。そして人に見つかる事の無い素早さを持った魔族、女性を狙う理由もさっぱり分からない。
「すみませんが見当がつかないので今日から暫く様子を見させてください」
「と言いますと?」
「街全体に感知魔法を張ります、人以外の者や人以上の動きをする者が現れるのを待ちます」
「それはつまり、次の被害が出るのを待つと」
急に空気が張り詰める。
流石は領主、自分の領土の民を餌のように使われるのは不快なのだろう。
「相手が現れた瞬間に命が奪われない限りは助け出します。勿論被害が出ない様に最大限の努力はします、今はこの手段しか思いつかず申し訳ない」
領主は暫く考えてから
「仕方ないですが、それでよろしくお願いします」
その日の夜から俺は夜通し監視を続けた。ジュリアは何時でも動けるように待機してもらった。
3日経つが未だ変な感じはしない、毎日少し俺の気分が悪くなるぐらいだ。実のところ街中を張り巡らす様に感知魔法を展開すると一気に街中の人の情報が流れ込み頭がパンクしそうになる。何とかワイズのお陰で気分が悪くなる程度で済んでいる。
しかし正直今夜が怪しいと見ている。領主によると被害は2週間に1度のペースで出ている。そして今夜で5人目の被害から2週間経つのだ。それ迄に被害が出ない様に監視はしていたが本命は今夜だ。
「今まで通りなら今夜現れる筈だ。ジュリア、その気で頼むよ」
「任せて。それよりゲイルは大丈夫なの?いつも具合悪そうにしてるけど」
「心配無いよこのぐらい。じゃあ今日も始めるよ」
ジュリアはいつもの位置に待機し、俺もいつもの場所で集中する。
街中が寝静まり、虫の鳴き声しか聞こえない。その時街の上空から何かが街に入って来た。
「ジュリア、来たぞ。行こう」
すぐさま感知した者の場所へ向かう。そこは3人家族で子供がまだ幼い女の子の家だった。
「また女の子を狙ってるな」
すると2階の窓が開き、何者かが姿を現す。そこには月明かりに照らされマントを羽織った青白い顔の青年が居り、腕にはこの家の少女が抱えられていた。
彼にはまるで生気が無いが彼女の生存は感知出来たので一安心だ。
「おい、お前何してる」
青年はこちらを見下ろす。燃えるような紅い眼をした彼に一瞬身体が固まった。
青年は無言で飛び立ち街の外へと向かう。
「待て、この野郎」
ジュリアと2人で追いかける。しかし全く追い付かない。離されはしないが追いつけない、全力ではないにしろ纏気で追いつけないとは、もう少し上げるか。
「ジュリア、俺が追い付いて動きを止めるから追い討ちを掛けてくれ」
「分かったわ」
青年の背中が近付いてきた。ある程度近づいた所で青年の目の前に氷の壁を出現させる。両側は家で阻まれていわば袋小路だ。少女を抱えている青年は手が使えない為飛び越えようと一瞬のタメが発生した。
「そうはさせないよ」
準備していた小規模の零度の息吹で足元を凍らせる。そして追いついたジュリアが青年の腕ごと切り落とし少女を救出する。
腕を切り落とすのはやり過ぎな気もしないでもないが
「ねぇ、話は出来ないかな、腕も今なら治癒魔法で治せるかもしれないし」
そこで異変に気付いた。青年は全く声を発していない。腕を切り落とされてるにもだ。
「ここ迄の実力者が来たか、ここは引くべきだろうな」
ようやく青年の声が聞こえる。かなり小声の為微かに聞こえた程度だが。
「逃がすと思ってるの?色々聞きたい事あるんだけど」
突然青年を中心に突風が吹いて視界が塞がれた。目を開けるとそこに青年は居らず、氷の壁の上にいた。しかも驚くべき事に腕が存在している。地面には切り落とされた腕が転がっているのが確認出来る、つまり新たに生えてきたという事か。
「君は何者なんだい、話し合えないかい」
「下等な人間が何を言う。次は万全の態勢で相手をしてやる」
そう言い残し壁の向こうへと消えていく。
「彼は何なんだ一体」
「分からないわね、でもこの子は救えたわ。とりあえずこの子を連れて帰りましょう」
被害は出さずに済んだが謎は明かされないままだった。




