30話 アビウスの堕落
遡ること半年前 炎獄の番犬 にエルフの村が襲撃された時。
「兄さん、父さん、他の皆は何処にいるの?早く傷を癒して戻らないとゲイルが・・・」
「アビウス、分かってる。彼が我々より強いのは分かる、あの場に居た者なら問題は無いが恐らくどこかに・・・」
「炎聖のアルフレッド、だよね」
「そうだ、奴の強さは規格外だ。ゲイル君でも無事ではすまんかもしれん」
兄さん、父さん、傷ついた自警団の4人で村人の避難場所へ向かっている。村人の中に治癒魔法を得意とする者がいたからだ。
「それにしてもどうしてこんな事に」
「恐らく魔族排斥派の誰かが動いたんだろう」
王都アルステリアは1人の王とそれを支える教会で成り立っている。教会内部は2つの派閥で分かれていた。
1つは過去の歴史から魔族を忌み嫌い、排除しようと考える魔族排斥派、もう一方は魔族も話せば分かる、悪い奴らじゃないだろう、と理解を示してくれる魔族擁護派に分かれている。
しかし大多数は排斥派である。今までも迫害されながらも、なんとか耐え辿りついたこの地で静かに暮らしていたのにこの仕打ち、あんまりだろ俺らが何したってんだ。
「ゲイル君は今まで出会った中で最も魔族に理解を示してくれた。そんな彼をここで失う訳には行かない、治療が終わり次第微力ながらもすぐに加勢に行くぞ」
「「「「おう」」」」
暫く進むと人影が見えてきて村人達が集まっていた。すぐさま治療に入りその間にも準備をする。
突然更に奥から人間の声が聞こえた。
「おうおう、あいつら逃がしてんじゃん。説教してやんねぇとな」
父さんがいち早く反応した。
「まずい、アルフレッドだ、みんな・・・」
それでも時すでに遅し、村人達が薄青色の炎に包まれていた。
「逃がすわけ無いだろう。ここで全員死んでもらう」
余りの力量差に死を覚悟し動けないでいた。
「アビウス、お前だけはどうにか逃がしてやる、元気でやれよ」
「そんな兄さん、やめてくれよ。俺も皆と一緒に最後まで戦ってみせるよ」
「アビウス、お前には才能があると信じている、きっと俺も超える存在となるだろう。唯1つ言わせてくれ。彼ら人間を憎んではいけない」
「父さん・・・兄さん・・・ぐすっ、やめてくれよぉ」
父さんと兄さんが魔法を詠唱すると俺の周りを強く、優しい風が取り囲んだ。同時に浮かび上がり魔王の領域の更なる奥へと飛んでいく。
「ちっ、1人逃しちまったか。まぁいい他は逃がさねぇぞ」
次々と薄青色の炎に包まれ、消えていく。骨すらも焼き尽くす炎。
徐々に降下していき静かに地面へ降りる。10分程飛んでいたので結構な距離を移動した。俺だってアルフレッドの強さを知っている、だから皆が絶望的なのは分かっている。しかし足は皆の元へ向かっていた。
到着した時にはやはり誰の姿も無い。焼け焦げた地面を眺めただただ涙を流す。
「何だ?人間の魔力を感じたから来たのにエルフのガキがこんな所で泣いてやがる」
背後から声がしたので振り返ると1人の男が立っていた。細身のスラッとしたシルエット、黒い服とマントを身に付け金色の長髪がよく映える。
「小僧、お前1人か、他のエルフは何処いった?」
「見たら分かるだろう」
一瞬焼け焦げた地面へ視線を移す。
「そうか・・・誰にやられた?」
「アルフレッド」
「炎聖のか?なるほどそれは相手が悪かったな。で、小僧お前はどうする?」
「家族や仲間をやられて悔しくないのか?」
悔しいに決まってる。だが圧倒的な力を目の前に為す術無く死ぬのがオチだ。
「悔しいさ、でも勝てっこ無いだろ」
「今のままなら、な。お前は鍛えれば強くなる、そんな気がするんだがどうする、俺と共に来るか?」
こいつが誰かなんて分からないけど家族や仲間をやられて黙って引き下がるなんて俺には無理だ。
「本当に強くなれるんだな?炎聖のアルフレッドを倒せる程に」
「あぁ、俺に任せろ。小僧、名前は?」
「アビウスだ。あんたは?」
「俺は、この地を統べるヘイトリウスだ。人間の言うところの魔王って奴だ」
その後ヘイトリウスの城に行き鍛えられた。しかし訓練を開始した時から既に魔力が増していた。ヘイトリウス曰く
「エルフは大事な者を守る時に真なる力を発する、だがお前はそれが失った悲しみ、憎しみが引き金となり解放されたんだろう」
と言っていた。歪なきっかけとアルフレッドへの憎しみのせいか、火魔法は触れた物を焼き尽くす黒炎へと変化していた。
城に来て3ヶ月程、新たな力の制御にも慣れてきた頃
「アビウス、いい知らせがある。エルフの村襲撃に絡んでいる闇ギルドを見つけた。アドラメレクのメンバーが各地で事件を起こしてエルフに擦り付けたらしい」
ヘイトリウスが色々と調べてくれていたようだ。
「助かる。場所を教えてくれ、俺がぶっ潰してやる」
最早俺には憎しみしかない、許せる筈が無いだろう、全てを俺の炎で焼き尽くしてやる。俺の痛みを知るがいい。




