電波女、見参 その③
公園での出会いです。伏線あります。
「中高一貫じゃ、高校デビューできないじゃんか……」
「する気あったの?」
「うん、金髪にしてさ。『ヤンキーになったんじゃないです! クリエイター志向なんです!』って宣言してさ」
「へー、なんかかっこいい」
僕は一人で会話をしていた。虚しい。虚ろだ。誰もいない公園というのも、この世の終わり感が出ている。夕陽が眩しい。
「はぁ……今さら友達は作れないだろうな」
「俺がいるじゃないか」
「君は幻想世界の住人だろ。僕が造り出した幻影に過ぎない」
「どうかな。案外、君のもう一つの人格、というところまで実体化してるかもしれないぜ?」
「じゃあ僕は精神病か」
「切り離せばいいだろ。ユング心理学で言うところの『影』というやつさ」
「『影』は僕に何をさせる?」
「抑圧された感情を解放するのさ。君を破滅か救済に導くだろうよ」
「ふーん」
なぜこんな不毛な一人対話を続けているのだろうか。子供の頃、なぜか人形遊びが好きだったが、子供がぬいぐるみ相手に架空の友人を作ることを、高校生にもなって続けるほど病んでいるとは思わなかった。
「小説でも書けばいいんじゃないか。公園で空想の友達としゃべるよりマシだろ」
「いいアイデアだな。僕は自分の考えをまとめるために君と話している節があるし」
「どんな話にするつもりだ? 俺は出てくるんだろうな?」
「そうだな……魔法使いとか超能力者とかの話がいいな。その力で世界を変えるんだ」
「君の願望だな」
「そうだね。現実の僕は何もできない弱虫だから」
「落ち込むなよ。俺が付いてる」
「私もいますよ!!」
「そうだったね、ありがとう」
「どういたしまして!!」
「気のせいか、僕の女の子と話したいという願望か、声がかわいくなったね」
「告白ですか!?」
「違うよ。自分に告白する人間はいないだろう?」
「私はあなたではありませんよー」
「じゃあ誰だよ? …………ってええ!!??」
隣には女子がいた。中学生くらいの。なんだ? 何が起こっている? ついに幻覚が視えてしまったのか?
「あなたもこの『やなぎ公園』の波動を感知していらっしゃったんですね!!」
「へ?」
少女の髪は真っ白だった。目の色は夕陽と銀杏?の木で陰っているが、赤いような気がした。アルビノというやつだろうか。レアだ。実体の少女なら。
「確かにここはなんというか……何十年か前に邂逅したエンパス星人のものにそっくりです!! 彼らも地球に降り立っているのでしょうか……?」
「は……?」
思い出した。この女、近所で有名な電波女だ。実在の女だ。自分はこの星の人間ではないとか、宇宙人とコンタクトが取れるとか、とにかく頭のおかしい変わった少女ということで評判の美少女だ。美少女、そこは認める。僕のタイプではある。僕よりも色が白くて透き通ったような肌。ひ弱な僕が守ってあげたいと思うほど華奢な体。全てを見通す超能力者のような赤目。鋭く突き刺さるのではなくレーザー光線で射抜かれるといった感じの。そんな視線が僕に向けられている。
「あなたはどう思いますか?」
「そ、そうだね……宇宙人かな……やっぱり……」
思わず同意して話を合わせてしまった。
「やはり!! 私もそう思っていました……。お見受けしたところ、あなたは地球人のようですが、霊的な感受性が強い方なのですか?」
いかん、乗ってきた。しかも興味が僕に移っている。凌げるか。
「ああ、そうだよ」
言葉少なめに答える。ボロが出てはいけない。
「そうでしたか!! ナイス霊感!!」
少女は親指を立てる。なんとなく悔しいほどかわいい。
「ああ、サンキュー」
英語には英語で返しておいた。
「実はですね……私は探しているのです。この地球、日本での現地調査員を。どうです? 私の仕事に協力してくださいませんか?」
「え? それは……」
どうしよう。突拍子もない申し出。友達のいない僕の暇潰しにはなるかもしれない。しかし、この少女とつるむということは、地元住民から奇異の目で見られるということである。
「どうです!? きっとあなたの霊的進化が促進されるであろうことをお約束いたしますよ!!」
「はぁ……」
この少女は確かにかわいい。目鼻立ちはシャープさと柔らかさがちょうどいいバランスで配合された整った美形であるし、声も、どこぞのアイドル声優のようにコケティッシュだ。だが、それを差し引いて余りある人格というか傾向性に問題がある。
「どうです! どうだす!」
ぐいぐい迫る少女。いつ以来だろう、こんなに女子と会話したのは。ふとその事実に思い至ると、急に恥ずかしさがこみ上げてきた。
「い、いやさ、気が向いたらね! 今日はもう帰らないと!」
僕は慌ててその場から逃げた。
「あ! 待ってください!」
少女は呼び止めるが、僕はそのまま振り返らずに公園を立ち去る。
この出来事。学校の帰り道にある公園で、電波女の話に同意したこと。そのことを僕は後悔もするし、感謝することにもなる。この少女との邂逅が僕のすべてを変えてしまった。いや、変えたのではない。あるべきように回帰させたのだ。
次回、女の子と一緒に帰ります。ちなみに筆者は男子校でした……