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電波女、見参 その①

前回は作者のポエムでしたが、今回から本編です。よろしくお願いいたします。

駅を一つ、乗り過ごした。


寝過ごした。最寄りの駅から一つだけずれた。急いで帰ろうとは思っていなかったので、別段悪い気持ちにはならなかった。家であれこれ考え込むよりはマシだ。

降りたところと反対側のホームに行き、ベンチに腰掛ける。時刻は午後二時くらいで、誰もいない。

冬の日差しはやはり他の季節と比べるとどこか冷たいように感じる。もう三月とはいえ、暖かいと感じるにはまだ早い。今の精神状態もそんな感じだ。


「落ち着くなぁ……」


田舎というほどのところではないけれど、のどかで優しい時間が流れているような気にさせられる。一駅変えただけで別世界に来たような気分になる。

たぶん今だけだ。こんな気持ちになれるのは。四月になって、高校生になったら。桜が咲いても何も変わらなければ。僕はどこにも行けないのだ。どこにも逃げられないのだ。春は新生活の始まりなどではなく、僕にとっての終わりの始まりだ。

電車の音と風が僕の体を震わせる。アナウンスが聞こえなかった。突然やってきた怪物に、僕はこれからのことを思い、心を沈ませる。

電車の中ですることは電光掲示板を見ることだ。電車の中での暇潰しの定番は人間観察と読書だったけど、最近はそんな気持ちにならない。読書は集中できないし、他人ははっきり言って、怖い。


「世界各地での紛争、激化」

「農作物の出荷量、激減」

「コア改変による崩壊率、試算五%を超える」


そうか、世界は少しずつ終わっているんだ。



四月。春。

入学式の空気。最悪だ。


「おお! 同じクラスじゃん!」

「今年もよろしくねー!」


みんな浮かれている。楽しそうに、笑っている。どこに盛り上がる要素があるのだろうか。ウチは中高一貫じゃないか。高校受験を乗り越えた達成感もないし、顔ぶれも変わらないだろうに。


「下らない……」


やはり何も変わらなかった。一緒に歩いている母の嬉しそうな顔も見ていて辛い。僕も高校生になったことを無理やり喜ばなければならない。本当に何も変わらないのに。

案内に従って体育館を出て、配属先の教室に向かう。僕の気分は戦場に向かう兵士のようだ。母と一旦離れられるのはよかったものの、一人ぼっちになる。


「ここから始まるのか……」


廊下を歩きながら呟いてしまう。僕のぼっち生活が続くだけのことなのに。


「みんなー!! 一年間よろしくなー!!」

「よろしくお願いしまーす!!」


教師と生徒たちの最初の挨拶に僕はただただイラついた。うわべだけの関係、実際の連中は自分勝手で不満だらけで、見せかけだけでまるで心はまとまっておらず、僕と敵対するだけの、愚かで粗野で醜い奴ら。表面だけは綺麗で裏側は汚いものだ。


「今日は席替えをして終わりだ! 先生、クジを用意してきたぞ!!」

「おおー!!」


どうして連中はそんなことで盛り上がれるのだろうか。どこの席だって大して変わらないじゃないか。窓際はいいかもしれないが、檻の中から外の景色を見ることに変わりはないというのに。

ああ、腹が立つ。入学式の校長のスピーチ。胸糞悪くなった。「君たちには未来がある。可能性がある」だの「友情と絆を育んでください」だの。耳障りなポエムのオンパレード。ああいう言葉で学生だろうと社会人だろうと全員踊らされるのだ。何よりイラつくのはその取るに足らないゴミのような言葉で僕の心がかき乱されたことだ。ああ、腹が立つ。

教室でマシンガンを乱射したい衝動に駆られながら、引き金ではなくクジを引く。三十二番。窓際か。

席に座ると、隣の女子と目が合った。


「よろしくね」


声をかけられた。返事をしておかなければ角が立つだろうとすんなり思った。僕にもまだ社会性というものがあるらしい。


「……よろしく」

「かわいい声だね」


コンプレックスを思いっ切り指摘されたが、ここでキレるわけにもいかない。


「声変わり、まだなんだ」

「へー。でもかわいい」

「……」


女子は微笑む。相当の美人だったが、心動かされるのも癪だったので、僕は黙って窓の外を見た。


「チッ!」


舌打ちが聞こえた。その方向を見ると、明らかに僕を睨み付けていた。あれは……名前は忘れたが去年から僕をいじめていた奴だ。取り巻きのもう一人も隣の席だ。こいつらと同じクラスだったのか。なんだ、拍子抜けするほど最悪じゃないか。

僕の隣の女子は秋山さんだったか。中学時代、学年で一番モテていた女子生徒だった。これはこれで地雷だな。なるべく関わらないようにしよう。


「はい! 今日はこれでお仕舞い!」


帰りは母とファミレスでステーキを食べた。母の嬉しそうな顔を、たぶん僕は一生忘れることはないだろう。

ちょっと暗い話ですがお付き合いを。

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