第1章 FILE07:世界樹のシンボル
「グロウ、ここでいいわ」
ルノアはフィロス砦の前まで護衛をしてくれた魔族の青年に言った。
「俺、ルノアの為に、働きたい。心配。連れて行ってくれ」
そんなグロウにルノアは穏やかな笑みを向ける。
「大丈夫よ、グロウ。このような話し合いの為に私達従軍神官がいるの。魔族である貴方が行ったら大変なことになるわ」
「ルノア、俺、邪魔か?」
しょんぼりと呟く青年に、ルノアはクスリと笑う。
「まさか、貴方には感謝している。私やガイア教がこんなに早く皆に受け入れられたのは、貴方のおかげよ。貴方のせいじゃなくて私達、人族が狭量なのよ」
「きょ、きょうりょう?」
グロウは考え込んでしまった。それを見つめるルノアの眼差しはとても優しい。
グロウはずっと戦士として生きてきたのだが、ルノアに助けられて以来、人が変わったと周りから言われている。
ガイア教の教えを守り、怪我人の世話をして過ごすようになった。彼のいた部隊からは貴重な戦力を腑抜けにしたと、わざわざ部隊長が抗議にきたくらいだ。
「難しい言葉を使ったわね。私たち人族は、自分と違う姿や、力を持った人を恐れるのよ。たとえそれが同族でも…… そして、それを排除しようとするの。私にも強い魔力があるから、ガイア教の神官にならなければ魔族として殺されていたかもしれないわね」
「ルノア……」
そう悲しげに語るルノアに心配そうな顔をするグロウ。
「貴方は優しいわね。グロウ、私が無事に砦に着いたことをレイバ様に伝えて頂戴」
「ここで、待っている」
首を横に振るグロウ。
「そんなこと言わないで、お願い」
「わかった。行って、きてから、ここで、待っている」
ルノアは胸に下げた世界樹をデザインしたホーリーシンボルを外し、グロウの太い腕に巻きつける。
「いい、もし人族が近づいてきたらこれを見せて、従軍神官ルノア=ティアの従者だというのよ。もし襲ってきたら真っ直ぐ逃げなさい。いいわね」
グロウの身体能力なら、先制攻撃を受けても逃げることなど簡単だろう。
「わかった。それじゃあ、レイバの所へ行ってくる」
走り出したグロウの姿が、どんどん小さくなっていく。
この分では、半時と待たずに戻ってくるだろう。
ルノアは緊張をほぐす為に、深呼吸を2、3回すると砦に向かい歩き出した。
次回予告
降伏勧告を携えてフィロス砦を訪れるルノア。
ヴァネッサは、降伏勧告を受け入れるのか?
次回 降伏勧告
風が物語を貴方に運ぶ。
今回も読んでくださり、ありがとうございます。
外伝2 隻腕の騎士が終了したにもかかわらず、ノロノロ更新の本編です。
ごめんなさい。仕事が終わると、ばたんきゅ〜状態なので(汗
デスマーチ状態からいつ抜け出せるだろう……
さて今回は、それほど大きな動きも無く、このパートだけなら「つまらない」と言われそう(笑
でもグロウ君とルノアのシーンを書いておきたかったので短いながら(普段の3分の2程度)、入れさせていただきました。次々回辺りから新展開になる予定です。