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第1章 FILE06:凶報


 城門では血だらけで倒れている男の周りに、幾人かの兵士が集まっていた。

 ハットはとりあえず男の脈を取る。診るまでもなく手遅れだ。たとえ魔法を使っても苦痛を長引かせることになる。

「何か、言い残したい事はあるか?」

 男に訊ねる。荒い息の下男が必死に言葉を紡ぐ。

「…ぞ…増援ぶ……たい…は……ぜんめ…つ」

 男の体から力が抜けた。

 ハットは男の瞳を閉じ、手を胸の前で組んでやる。そして、ガイアに祈った。

「ガイアよ。傷つき力尽きしこの者を楽園へと導きたまえ」

「ハット」

 いつの間にかヴァネッサが背後に立っていた。

 ハットは困ったような顔をして、頬を掻きながら向き直る。

「ヴァネッサ。いい話と悪い話がある。どっちから聞きたい?」

 ハットの言葉を聞いて憮然とした表情をするヴァネッサ。

「悪いことからにしてくれ」

「増援部隊が全滅したらしい。おそらく補給もパーだ。兵を5000しか出さないからこうなる。増援より敵の部隊のほうが、数が多いのだからこうなるのも当たり前だ。よほどの軍師が付いていたら、結果は変わっただろうけど」

 ハットの言葉を聞いても、ヴァネッサは表面上は平静を保っている。

「それで、いい話とは」

「魔族側の従軍神官に、ルノア=ティア司祭が正式に任命された。つまり、降伏の可能性も出てきた。もしかしたら降伏勧告がくるかも知れない。これで選択肢が増えたわけだ」

 ヴァネッサは頷き、目でハットに続きを促す。

「ひとつ目が、全滅するまで立て篭もる。が、長くは持たん。陥落も時間の問題だ。ふたつ目は、敵の包囲網を強行突破する。可能性は無くも無いが増援の援護も得られない今、全滅の可能性のほうが高い。みっつ目は、降伏。こいつの結果は分からない。でも部下の命を最優先するならこちらがお奨めだね」

「相手がルノア司祭なら、なおさらみっつ目の選択肢が現実的というわけか」

 ヴァネッサもルノア司祭とは面識がある。この戦、勝敗はすでに決している。次の増援が来る前に砦は落ちるだろう。だが……

 ハットはヴァネッサの黒い瞳を見つめる。それに気が付いたヴァネッサがハットから視線を外した。まだ迷いがあるようだ。だが次の瞬間彼女は力強い声で従卒の少女に指示を出す。

「ハットも会議室にきてくれ皆の意見が聞きたい」。

「いいのか、本当は戦いたいのだろう?」

「その言葉、神官の言う言葉には聞こえんな…… すまない。武人としては戦って死にたい。と言うのが本音だが、私にはその自己満足の為に3000人もの兵を犠牲にはできない」

 ハットの顔に笑みが浮かぶ。そんな貴女だから自分は従うことが出来るのだと。

「貴女はいい指揮官ですよ。でも僕は貴女には他人を犠牲にしてでも生き残って欲しい。他人を犠牲にしてでも生き残れなんて、それこそ神官にあるまじき言葉ですがね。僕も人間ですから好意を抱いた相手には幸せになってもらいたいですし、その横に僕がいたら完璧なのですけどね」

 その言葉を聞いた、ヴァネッサの顔が真っ赤になる。うつむいたヴァネッサは、小さな声で呟いた。

「ばか」




次回予告


フィロス砦の近くでグロウと別れ単身フィロス砦に向かうルノア。

グロウとの別れ際に、ルノアはホーリーシンボルを渡す。


次回 世界樹のシンボル


風が物語を貴方に運ぶ。


ここまで読んでいただきありがとうございました。


ヴァネッサとハットのコンビいかがだったでしょうか?

実は脇役の2人なんですが、2話にわたりメインを張っちゃってます(笑

次回は、メインのルノア司祭に場面が戻ります。


今頃になってですが、ガイア教の神官位階は以下の通りです。


教皇きょうこう

司教しきょう

高司祭こうしさい

司祭しさい ルノアは今ここです。

助祭じょさい

侍祭じさい FILE01に登場したルナはここ。

修士しゅうし ハット君はここ。外伝のフェンリアもここ。

見習い


フェンリアは実績から評価すると、司祭の地位にあってもおかしくはありませんが、本人が叙階じょかいを拒否しているため修士しゅうしのままです。(叙階じょかいとは聖職者を任命する儀式のこと)

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