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第2章 FILE33:内乱23 新たなる戦いの序曲

「よく無事で戻った」

 宮廷の前でアイオリアを待っていたのは、カーライン公爵だ。

「只今、帰りました。申し訳ありません」

「なにを謝るのだ。よく我が軍の犠牲を最小限に抑えてくれた」

「いえ、たくさんの血が流れました」

「……」

 カーラインは黙って、アイオリアの肩を叩いた。確かに自軍の被害は最小限に抑えられたが、戦闘途中や敗残兵による略奪等で全滅した村も、ひとつやふたつではすまない。

「兵達はしばらく隊舎で待機させておいてくれ」

 カーラインの言葉を受けて、シャリアール達は隊舎に引き上げていく。

「王との謁見だ。疲れているだろうが、付き合ってくれ」

「はい。わかりました」

 宮仕えの辛さだ、断るわけにもいかない。アイオリアは諦めを含んだ笑みをこぼした。




「リア姉さん」

 カーラインの屋敷を訪れたフェンリアとゼロは、杖を持った女性に声をかけられた。

「ミ、ミシェイル?」

 聞き覚えのある声に、フェンリアは思わず聞き返した。

「やっぱり、リア姉さんだ」

 ミシェイルは、そう言って微笑んだ。

「ミシェイルは変わったわね。一瞬わからなかったわ、こんな美人さんになるなんて…」

 目の前にいるミシェイルに何か違和感を覚えた。手に持った杖とフェンリアを見る視線の焦点がずれている。

「ミシェイル…あなた、目が…」

 言葉が出ないフェンリアに、ミシェイルは意識して明るい声で答える。

「あっ、わかっちゃった? もう、ほとんど見えないの。明るさとか人影くらいなら何とかわかるのだけどね。カインには、王位まで放棄させてしまって申し訳なくおもうのだけど、そばにいてくれるだけで良いと言ってくれるのよ。ちょっ、ちょっとリア姉さん」

 フェンリアは、ミシェイルを抱きしめていた。ミシェイルの明るく告白する姿、しぐさから、目の事はそれほど重荷になっていないことがわかる、嘘も言っていない。それでも、フェンリアは聞かずにはいられなかった。

「ミシェイル。今、幸せ?」

 ミシェイルは、静かに目を閉じ、はっきりと答えた。

「うん、とっても」




「なぁ、いいのかよ」

 従卒とはいえ謁見の間まで付いていくわけにも行かず、控えの間に残るように言われたリュエルがいつもの丁寧な口調でなく、年相応の物言いで少し離れた場所に座る同僚に話しかけた。

「なんのこと?」

 話しかけられた同僚、ヒルトはいつものように他人事のように答える。

「次は多分、魔族征伐だ。同族なんだろ」

「珍しいわね。心配してくれるの?」

「そうじゃない。途中で裏切られると迷惑だ」

 リュエルにしては珍しく、イラついているらしい。

「私はアイオリア様に剣と忠誠を捧げたの。アイオリア様の側にいる限り、敵が誰だろうと関係ない。アイオリア様の敵は、私の敵」

「信じてもいいんだよな」

 ヒルトは答えなかった。リュエルも答えを期待したわけじゃない、いや、答えは既に聞いている。

 リュエルにしてもヒルトにしても、アイオリアが戻ってくるまでのわずかな時間が、こんなにも長く感じたのは初めてだった。




「そう、ルノアは魔王軍の従軍神官をしているのね」

「ええ、とってもお元気そうでした。あの…リア姉さまは、今後どうなされるの?」

 ミシェイルの問い掛けに、フェンリアは考え込んだ。

「そうね。ルノアにも会いたいけど、結婚祝代わりにミシェイルの願いを聞いても良いわよ」

 側で紅茶を飲んでいたゼロがフェンリアのほうをちらっと見たが、声に出しては何も言わなかった。

「言ってみなさいな。迷惑だなんて思わないから」

「リア姉さん」

 ミシェイルが目線を手元のカップに落す。そして数分の時間が流れたがフェンリアも何も言わずに待ち続ける。

「リア姉さん、カインに力を貸して、私たちの前では平気な顔をしているけど、微妙な立場にいるの」

 フェンリアはにっこりと微笑み即答する。

「いいわよ。どれほど力になれるかわからないけどね。ゼロもいい?」

 ゼロはいつもと変わらず無表情のままで、手に持っていたカップをテーブルに戻す。

「俺はお前についていく。それだけだ」




 高さが3メートル程ある扉をくぐると、そこには赤い絨毯が真っ直ぐと王座に続いていた。絨毯の右手には武官が、左手には文官が並んでいる。その中をカーラインは平然と進み、その後をアイオリアがついていく。王座前まできたカーラインが片膝をつき頭を垂れる。アイオリアもそれに習った。

「カーライン公爵、叛乱の鎮圧ご苦労であった。面を上げよ」

 カーライル王の力強い声が、広間に響いた。

「はっ、ありがたきお言葉。しかしながら、功績のほとんどはここにいるアイオリア千騎長と現場の兵士達です。私より彼等に声をかけていただきたいと存じます」

 広間が一瞬ざわめいた、謁見の間で王に意見するなど前代未聞の出来事だ。

「公のいう事も、もっともであるな。アイオリア千騎長ご苦労であった。他の者達には声をかけることはできぬが、心ばかりではあるが兵士達に褒美を取らす」

「はっ、兵達も喜びます」

「ふむ、アイオリア千騎長、そなた達の働きには期待させてもらうぞ。千騎長、私の前へ」

 アイオリアが玉座の前へ進み出ると、カーライル王は一振りの剣を手渡す。

「将軍達の列に加わる事を許す。その忠誠、王国の為に使え」

「謹んでお受けいたします」

 アイオリアは剣を受け取ると、アイオリアの為に開けられた場所に着く。

「カーライン公爵。そなたには、まだ領地がなかったな。フーリレイ家の領地をすべて与える。つつがなく統治せよ」

 あまりの事に言葉が出ないカーライン。

「どうしたのだ? 不服か?」

「いえ、そんな事は、身に余る事に言葉が出ませんでした。粉骨砕身、王国の為につくしましょう」

「それでよい。さて、アイオリア将軍。今一度、公爵の側にこられよ」

 アイオリアがカーラインの側で膝をつく。

「両名に、20日間の休暇の後、魔族討伐を命じる」




 フィロス砦、会議室。

 金眼の魔王、レイバが会議室の中央に立つ。

「ミレイ=アルスご苦労であった。そなたの労には充分報いよう。これからもよろしく頼む」

「はい。ありがたきお言葉」

 レイバは、ミレイから視線を外し会議室に集まった部下たちを見回す。

「我が軍は、これよりリューム王国の5つの拠点を攻略する。非戦闘員に対する保護は続けるが、今回の目的は5つの拠点の完全破壊である。パンドラ、後の説明を頼む」

 パンドラの声を聞きながら、レイバは自分の席に座る。側に座っているルノアがレイバの顔を覗き込んでいる。

「司祭、私の顔に何かついているか?」

「はい、少しお疲れのようです」

「案ずるな。今回の作戦はすべて部下達に任せる」

 ルノアは、何も言わなかった。

「すまぬな。また血が流れる」

「レイバ様が御決断なされた事です。わたくしごときを気になさいますな。いえ、自信をもって胸を張っていてください。微力ながら力をお貸しします」

「そう言ってもらうと、助かる」

 季節は夏から秋に変わる。しかし、戦乱の風はまだ収まる事を知らなかった。

 勇者と魔王、両者の運命が回り始めた……




 第2章  完


ここまでお付き合いいただきありがとうございました。

第2章も終了です。

第3章は開始まで1ヶ月ほど空くと思いますので、予告編を来週辺り更新したいと思います。


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