第2章 FILE32:内乱22 つかの間の平穏 そして帰還
「フェンリア、大丈夫か?」
ゼロが窓の外をボーと眺めているフェンリアに声を掛けた。戦闘が終結して4日になるが、フェンリアはずっとこんな感じだ。
「フェンリア?」
「…ゼロ…変よね。私は今でも間違ったことはしていないと思っているけど、やるせないわね」
ゼロは、何も答えなかった。いや、答えられなかったというのが事実か。ゼロは生まれてからずっと戦場にいたのだから、死は絶えず彼のそばにあった、自分の死を覚悟した事も1度や2度ではない。人の生き死に近すぎる場所にいた。人の生死について深く考えたこともない。
「よおーし」
フェンリアは突然大声をあげると、ゼロに向き直る。
「ゼロ、病院に手伝いに行きましょう」
「いいのか?」
「何いっているの。いつまでも、空を眺めていたってしょうがないじゃない」
フェンリアがゼロに向けた笑顔は明らかに作ったものだったが、ゼロは何も言わずに頷いて、フェンリアの後をゆっくりと歩き出した。
「くそったれ、どうしてこんなに忙しいんだ」
シャリアールが頭を掻きなら、大声をあげる。
「しかたないですよ。戦死者のリストだけでも大変な量ですし、食料などは日々消費されていますからね。誰かが管理しないと」
リュエルが、笑いながら答える。
「アイオリアとヒルトはどうした?」
「見回りに行っています。住人と兵士達との諍いも増えていますからね。衛兵の皆さんも大変みたいです」
「そうか。治安維持の部隊だけ残して、早いところ引き上げた方がいいかもしれないな」
シャリアールはため息をつく。
「シャリアール様、アイオリア様が戻られるまでに、書類をまとめてしまわないと…」
言葉とは裏腹にニコニコとしているリュエル。そんなリュエルにシャリアールは呆れ顔を向ける。
「楽しそうだね。お前」
「武術よりは、こっちの方が向いているみたいです、僕」
そう言って笑顔を向けるリュエルに対して、シャリールは肩をすくめた。
場末の酒場では、非番の兵士たちが騒いでいる。
「あの、そろそろお勘定の方を……」
「おい親父、本気か? 俺達は貴様らを解放してやったのだぞ。その俺たちから金を取るのか? ああ?」
兵士は腰の剣に、手をかける。
「私どもは、商売人です。売り物を無料で出せと、と言われるのは死ねと言われるのと同じ事」
店主は震えながらも引かない。
「いい根性だ。そこに直れ」
兵士が剣を抜くと、周りから歓声が上がった。
「いいぞ! ばっと斬ってしまえ!」
「さっさと斬らぬか!」
酔った周りの兵士達が煽る。
「やめぬか!」
酒場にいた全員の視線が酒場の入り口に集まる。そこには、きっちりと王国軍の制服を着込んだ若い騎士が立っていた。
「剣をしまい、勘定を払って原隊に戻れ!」
「ああ? お偉い騎士様がこんなところに何のようですか?」
おどけた様子で兵士は言うが、剣は抜いたままだ。
「今ならば、不問にすると言っている」
「うるせー」
兵士が剣を振るう。次の瞬間、ガキンと金属同士がぶつかる音が響いた。
「アイオリア様!」
男の剣を弾いたのは、騎士見習いの少女だ。彼女の叫びとともに衛兵が酒場になだれ込んでくる。
「全員、拘束しろ」
衛兵長が叫ぶ。
「ヒルトすまない。助かったよ」
「アイオリア様、無茶なマネは止めてください。お願いします」
ヒルトの瞳には涙が浮かんでいる。アイオリアは、ヒルトを抱き寄せて落ち着くようにと、背中をポンポンと軽くたたく。
「衛兵長、非番の兵士達を原隊に戻らせろ。それからシャリアールに連絡して残党狩りも打ち切らせ、部隊を集結させろ」
「アイオリア様……」
アイオリアはヒルトに笑顔を向ける。
「あまりここにいては、ああいう連中が出てくるからな。ヒルト、王都に帰ろう。主人、勘定だ」
アイオリアは、自分の財布を店主に渡す。
「足りなければ、俺を訪ねてこい」
「いえ、多すぎます」
「そうか、ならば残りは迷惑料だ。すまなかった」
「いいえ、こちらこそありがとうございました。アイオリア様、これをお持ちください。ウチの酒蔵にある一番上等の酒です」
そのボトルは、幻の酒といわれるほどレアな名酒だった。アイオリアは店主の心遣いをありがたく受け取ることにした。
「ありがとう、主人。今度ここにくることがあれば、ゆっくりと寄らせてもらうよ」
しかし、この言葉は果たされることはなかった。
次回予告
帰還したアイオリア達
しかし、待っていたのは新たなる戦いだった。
次回 新たなる戦いの序曲
風は貴方にどんな物語を残しましたか?
今回も読んでいただいた方には感謝。
さて第2章も次回で終了です。で、最終章の3章に移動して、とうとう魔王軍VS王国軍の戦いが始まります。というか始まるといいなぁ(笑
で、2章のラスト1話ですが、個人的には明日中に更新したいと考えています。
遅くとも今週中に……