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第2章 FILE31:内乱21 終結

「あ、兄だと……」

「ええ、あなたは気がついていなかったでしょうけど、私の本当の父は先代のニスです。驚きましたか?」

 自嘲的な笑みを浮かべるラス。

「私があなたの息子だと名乗り出た時にあっさりと認めたときには笑いましたよ。そうですよね、あなたには思い当たる事があったのですから。動くな!」

 少しずつ逃げようと身体を動かすロスの首筋に、ラスが持つショートソードが浅く刺さり血玉が浮く。

「どこへ行くのです? せっかく、あなたが死ぬ理由を説明して差し上げているのです。大人しく聞いたらどうです」

「い、命だけはた、たすけて」

 ラスは軽蔑しきった視線を向けながら再び口を開く。

「あなたにとっては、只の遊びだったのでしょうね。私の母を監禁し、1週間に渡り犯し続けたことなど……」

 ロスが首を横に振る。

「ち、違う! ワシは、ただソニヤを……」

「喋るな! その口で母の名を言うな! ……そして、その事を知ったニスは、母を捨てたのですよ。母が自分の子を身ごもっている事を知りながらね」

 ラスが今までロスに隠し続けた憎しみが目に宿る。

「ワシは本当に……」

「黙れといっている!」

 ラスの剣幕にロスは黙り込む。

「あなた方、貴族のやり口はわかっている。欲しいものがあれば力ずくでも手に入れ、それに少しでも他人の手がつけば、あっさりと捨て去る。捨てるだけでは飽き足らず壊そうとしましたね。おかげで母は私の目の前で殺された」

 ラスはそこまで言って、気持ちを落ち着けるためか深呼吸をする。

「母が息を引き取る前にすべてを語ってくれましたよ。そのとき私は、母に誓ったのです。フーリレイ公爵家の血筋を根絶やしにするとね。そう、私も含めてね」

 ラスがショートソードを振り上げる。次の瞬間、金属同士がぶつかり合う甲高い金属音とともに、ラスの手からショートソードが弾き飛ばされ床に転がる。

「カレル=ラス!」

 ラスは自分の名を呼ぶ人物の方に顔を向けた。

「リア…… フェンリア=ヒルデガルド」

 蒼い神官服にダークブラウンの髪と瞳をした女性と、全身白づくめの男性が立っていた。

「次からは突く事だな。振りかぶると隙ができる」

「ゼロ! ちょっと黙っていて!」

 神官服の女性が白づくめの人物を一喝する。

「リア、君をここに招待した覚えは無いのだがな」

「忘れたの? 私はこうと決めたらやり遂げる女よ。それに、幼馴染に会いに来ただけだけよ。復讐なんてものにうつつを抜かすおばかさんは止めないとね」

 フェンリアの答えにラスが冷笑をもらすが、何故か楽しそうだ。

「それでどうするつもりだ? どのみち王国軍に捕まれば、ロスも私も王家に対する反逆罪で死刑だ。その意味では私の復讐は完了している」

「そうね、でも幼馴染として私の願いを聞いてくれないかしら。今すぐ降伏してちょうだい。これ以上、あなたの復讐の犠牲者を増やさないで」

 フェンリアは真っ直ぐラスの瞳を見据える、ラスも視線を外さなかった。

 どれくらいそうしていただろうか、ラスが瞳を閉じた。

「昔から、君にはかなわないな」

 突然、狂ったような大声が響き渡る。

「終ってたまるか! こんな所で死んでたまるかぁぁぁぁ!」

 ロスがラスのショートソードを拾い、叫びながらラスの腹に突き立てる。

「ぐはっ」

 ラスは腹にショートソードが刺さったまま床に座り込む。床には血液が滴り落ち血溜まりを作る。

「ゼロ!」

 フェンリアが叫ぶよりも早く、ゼロがロスを取押えるが、もはや正気を保っているとは思えない。顔を歪めたまま笑い、唇の端からは涎が糸を引いている。

「ラス。今、傷口を塞ぐから」

「無駄だ、ショートソードには毒が塗ってある。ここまで深く刺されたら致死量を超えているし解毒剤はない。ここで生き延びても処刑されるだけだ。ここで死ねるならいっそ幸せだろう」

 フェンリアは答えずに治癒の呪文スペルを唱える。傷口から焼けるような痛みが引いていくのがわかる。

「私を軽蔑けいべつしてくれていいわ。今、ここであなたを死なせるわけには行かない。ここであなたまで死んだらフーリレイ一族の首だけではすまない」

 傷口がふさがったのを確認して、今度は毒消しの呪文スペルを唱えるフェンリア。

 そう、王国の威信を保つために首謀者しゅぼうしゃの死刑は動かしようはない。だが首謀者達が死んでいれば、その指揮下にあった者が生贄スケープ山羊ゴートとして処刑台に上げられる。それを防ぐためにフェンリアはラスの命を助けると言っているのだ。

 魔法が発動した後も、俯いたままフェンリアが言葉を紡ぐ。

「あなたの命令に従っただけの者たちへるいを及ぼさないために、あなたとロス公爵の命は国王の元まで持っていく」

 その言葉を聞いてラスが笑う。今までの冷笑ではなく愉快そうに。

「俺の首一つで、そこまで出来るのか?」

 寂しそうに笑いながらフェンリアは頷く。

「私ではもうあなたは救えないけれど、助けられる人は助けたい」

 まだ力のはいらない身体に鞭打ち、ラスが立ち上がる。

「肩を貸してくれないか? バルコニーに行きたい」

 フェンリアは黙って肩を貸し、バルコニーに向かう。バルコニーに出るとラスは砦を守ろうと準備を始めている部下達を見る。

「全軍に告ぐ。白旗を揚げろ。武器を捨て城門を開け!」

「ラス。ありがとう」

「あいつらを頼む。言えた義理ではないが守ってやってくれ」

「ええ、必ず」

「まあ、君と再会できて良かったよ」

 と、ラスは憑き物が落ちたような表情で笑った。

 こうして、フーリレイ公爵家の起こした反乱は幕を閉じた。




 次回予告


 勝利した王国軍。


 しかし町の住人との間にはいざこざが増え始め。


 次回 つかの間の平穏 そして帰還


 風は貴方にどんな物語を残しましたか?


衝撃の事実(笑

このエピソードを入れる必要があったのかと言うのは、私が後に生かせるかどうかでしょうね。

王国の腐敗がわかる場面を入れておきたかったのですよ。外伝1にも多少入っていますけどね。


さて内戦も終わり2章もまとめを残すのみです。


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