表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/53

第1章 FILE04:魔王軍の軍師


 天幕には先客がいた。白磁の肌とフワフワの金髪、フリルとリボンのついたワンピースを着て胸に子犬を抱いている。一見するとお人形のようだが、その美しさより生気に満ちた瞳が印象に残る。そんな少女だ。

「お持ちしておりました」

 少女がレイバに頭を下げる。

「待たせてすまなかったパンドラ。さて軍師殿と従軍神官殿に集まってもらったのは、フィロス砦の攻略についてなのだが……」

 レイバの言葉の途中で少女が挙手した。左手では蜂蜜茶の入ったカップを弄んでいる。

「パンドラ、何かあるのか?」

「レイバ様の口ぶりからするとお心はお決まりと思いますが、軍師として意見を申し上げてよろしいでしょうか?」

 レイバは頷く。

「では、フィロス砦の守備兵3000。殲滅すべきです。それも、できるだけ惨たらしく。敵軍の頼みであった補給部隊と増援は既に叩いてあります。この情報を流せば敵は打って出るしかありません。そうなれば数で潰せます。それに、後々の戦いでも我々に対する恐怖を植付け有利に進めることが出来ると存じます」

 初夏の風のような涼やかな声で、天気の話でもするように敵兵を皆殺しすべきだと話す少女。

「私は反対です」

 テーブルの反対側に座っていたルノアが立ち上が、発言する。

「あら、どうしてかしら? 半年前にあなたの同胞である人族が私たちを相手にやったことよ。あのときは非戦闘員の女性や子供達も犠牲になった。今回、非戦闘員は非難した後だから犠牲になるのは軍人だけ。戦って死ぬことも軍人の仕事のうちよ」

 パンドラはそう言って、ルノアの視線を真正面から受け止める。

「それであなた達は戦争を止めましたか? 恐怖より憎しみにとらわれませんでしたか? 身内が殺されれば力なき者でも剣をその手に取りましょう。追い詰められれば窮鼠と化します。そのような連鎖はどこかで断ち切らねば、戦争は泥沼になります」

 ルノアも真っ直ぐパンドラの視線を受け止める。先に視線を外したのはパンドラだ。

「それでは、ルノアさんはどうすればよいとお考え?」

「降伏勧告を…… 必ずまとめて見せます」

「無理ね!」

 パンドラが即答し続ける。

「彼等が何故これほど粘れるのか考えたことありますか? 彼らは自分たちが犯した影におびえているのです。半年前に自分たちがやったことと、同じことを我々がするのではないかと恐怖におびえ、それが背水の陣となっているのです」

 パンドラの言うことはルノアにもわかっていた。しかし、それでも無駄に血が流れるのを嫌った。すでに勝敗は決している。これ以上の流血は敵味方共に無用なものだ。

「今のフィロス砦の守備隊長は、ヴァネッサ=クロウリー上級千騎長です。彼女は純粋な武人であり話もわかる人物です。交渉さえさせてもらえば必ず」

パンドラは、カップに残った蜂蜜茶を飲み干すと、ルノアのほうを見る。

「仮に敵が降伏したとして…… 失礼ですけど我が軍の台所事情はご存知? 3000もの捕虜をどうやって食べさせろと言うの? そんな余裕ないわ。武装解除して開放? 冗談じゃない! 後の禍根を残してどうするの? 戦術的に予備兵力3000、あるのとないのでは大違いよ」

 部屋に沈黙が流れる。パンドラの言うことは正しい。捕虜を食わすことが出来なければ、殺すか解放するしかない。開放するとなれば戦場であいまみえるのは確実だ。

 今まで2人の発言に口を開かなかったレイバが、沈黙を裂いて発言する。

「軍師殿には悪いが今回は降伏勧告を出すつもりだ。無血開城できるならそれに越したことは無い。捕虜は取らず武装解除の上開放する。ただし、砦の指揮官及び主だった部隊長には、ルノア司祭に束縛の魔法をかけてもらった上で解放する。こんなところでどうだろうか? パンドラ」

「御意。そこまでお考えでしたら私の出る幕はありませんわ」

 パンドラは、新たに注いだカップの蜂蜜茶を飲み、幸せそうな顔をする。

「ルノア司祭、聞いての通りだ。書状は準備してある。後は頼む」

はい、お任せください。必ずや成功させます」

 書状を受け取り天幕から出て行こうとするルノアに、パンドラが声をかける。

「従軍神官殿、お帰りになられたら一緒にお茶でもいかが?」

「そうね。戦闘にならなければ時間取れると思うわ」

「では、ちゃんとまとめてきて下さいね」

 軍師パンドラは、蜂蜜茶の入ったカップを頭上に掲げて、ルノアを送り出した。




次回予告


降伏勧告のためにフェロスとりでに赴くルノア。

その頃フィロスとりででは。


次回 フィロス砦


風があなたに物語を運ぶ


王国軍の階級についてですが、簡単に説明すると上からこういう並びになります。

上級将軍(軍の最高司令官)

将軍(1万以上の兵を率いることが出来る実戦部隊の長)

上級千騎長(1万以下の兵を統率。砦の指令官や地方の治安維持部隊長、後方支援部隊の長など)

千騎長(1千以下の兵を統率)

百騎長(100人程度の部隊を統率)

十騎長(10人程度の部隊を統率)


その他質問などがあればメッセージか感想をください。あとがきなどで対応いたします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ