第2章 FILE30:内乱20 目的
「通しなさい。ラスに用があるといっているでしょう」
しかし、門番は譲らなかった。
「そう言うわけにはいかない。ラス様は作戦中だ」
フェンリアには珍しく、感情を抑えるように門番に言い返す。
「なら、問合せだけでもしなさい。ガイア教の伝道師、フェンリア=ヒルデガルドが王国軍従軍神官として面会を求めている。と伝えなさい」
「ガイア教の伝道師? その伝道師様が暗殺にでも来たのか? 後ろの兄ちゃんは、純白の死神だろ」
どうやら、ゼロの素性を知っているらしい。フェンリアもゼロが有名な傭兵であることは知っていたが、門番がひと目でわかるほど有名人だったとは思わなかった。
「ゼロ、なかなか有名人だったのね。彼は、3ヶ月前から私の従者よ。簡易でとはいえ、ちゃんと洗礼も受けているわ」
門番にゼロとの関係を説明したところに、物見台から報告が入る。
「味方が敗走してくる。門を開けろ! 部隊を編成、ロス公爵様をお助けするのだ」
門が開き、騎馬隊が出て行く。フェンリアが周りを見回す。先ほどの門番の姿は見えない、物見の兵達の視線も敗走してくる自軍に釘付けだ。
「ゼロ、行くわよ」
「いいのか?」
いつものように無表情に問い返すゼロ。
「こんな所で押し問答している時間ないもの。ここは、忍び込みましょう」
「露払いは、俺がやろう」
ゼロはフェンリアの手を引いて走り出した。
「ファル、ラス、どこにいる!」
息を切らせながら広間に入ってきたロスは、息子達を呼んだ。セル亡き今、頼れるのは彼らだけなのだ。
「何処だ。返事をせんか」
視界の片隅に、金髪の青年がイスに座っているのが見えた。あの後姿はファルだ。
「ファル、返事をせんか?」
いささか乱暴に肩を揺さぶる。すると、ファルは力なく床に倒れた。今まで気が付かなかったが、床はファル自身の流した血液で血の海だ。
「ひぃ〜」
ロスはへなへなと床に座り込み、必死に後退る。腰が抜けたらしい。
「父上」
「ひぃ!」
突然の呼びかけに悲鳴をあげ、逃げ回ろうとするロス。
「父上、どうなされたのです?」
声の方向を向くと、ロスを見下ろすラスが立っていた。
「ラ、ラ、ラス。ファ、ファルが……」
「兄上が、どうかしましたか?」
そう言って、無表情に兄の姿を一瞥する。
「ああ、見たのですね。兄上は先に行って待っているそうですよ。私が送って差し上げました」
ロスにそう告げると、左手に持ったショートソードを引き抜く。
「な、な、何故だ? どうして?」
「いいですよ。教えて差し上げます。説明する義理はないのでしょうが、自分の死ぬ理由ぐらい知りたいでしょう? 父上。いや、兄上というべきですかな。ロス公爵」
ロスは自虐めいた笑みを浮かべ、ショートソードの切っ先をロスの喉元に突きつけた。
次回予告
ロスに明かされる真実。
その場に飛び込んだフェンリアは……
次回 内乱21 終結
風は貴方にどんな物語を残しましたか?
門番。仕事しろ(笑
なんかラスが最後に気になることを……
では、次のページへ。