第2章 FILE28:内乱18 反撃
「ミュラー司祭、今、ラスといいましたか? カレル=ラス」
後方の野戦病院で、フェンリアはミュラーからフーリレイ公爵家のことを聞いた。
「フーリレイ=ラス。公爵家の三男です。フェンリアさん」
「ああ、カレルは、母方の姓だったはずです。彼がロス公爵に味方するなんて…… ミュラー司祭、馬を借ります」
言うが早いか、フェンリアは繋いである馬に飛び乗る。
「何処へ行くつもりですか?」
「コウレクト砦へ」
そう答えてフェンリアは馬にムチを入れる。しばらく走り、コウレクト砦が見えてきたところで、ゼロが追いついてきた。
「ゼロ、危険よ」
「相棒を置いていく理由にはならない。俺はついて行く」
ここまで追ってきたのだ、大人しく帰るわけがないと悟ったフェンリアはただ一言、「好きにしなさい」とだけ言った。
セルは、先頭に立って逃げる王国軍を追撃する。
「ふはは、敵を殲滅しろ! 突撃!」
この時、反乱軍は大軍を配置する事のできない地形と、迅速に後退する国王軍の追撃のため、アイオリアの思惑通りに細長い陣形になっていた。
戦斧を振り回し、王国軍を追撃するセルの視界が開けた、森を抜けた開けた場所で彼ら反乱軍を迎えたのは、剣山のような槍衾と無数に降り注ぐ弓矢のシャワーだった。
半数以上の騎馬兵が馬上より叩き落されたところで、弓矢のシャワーが止む。そして、長槍を構えた歩兵が前進してくる。セルは敗北を悟ったが、勝機の残された唯一の手を打つことにした。
「俺はフーリレイ公爵家次男、フーリレイ=セルだ! 王国軍総大将、アイオリア=ロウ殿に一騎討ちを申し込む!」
「公爵家の三男と知り合いなのか?」
馬を走らせながらゼロがフェンリアに訪ねる。
「孤児院で神学校へ行くまでの2年ほど一緒だったの。自分は公爵家の血を引いていると言っていたけど」
フェンリアは当時を思い出す。公爵家の血を引いていると語ったときのラスの目には憎悪しかなかった。母親を失い一人行き倒れていたところを保護されてことと、何か関係があるはずだが、結局、詳しい事情を知ることはできなかった。
「認知されたと言う事か?」
フェンリアは首を傾げた。
「だとは思うのだけど……」
フェンリアには、ロスがあれだけ憎んでいたフーリレイ公爵家に協力するとは考えられない。そこで思い当たるのが復讐という言葉。
「おかしな点でもあるのか?」
「うん、それを確かめたいの。そして、場合によっては全力で止めるわ」
フェンリアはこの反乱自体、ロスが復讐のために仕組んだのでないかと考えていた。
「いかがなさいますか? アイオリア様」
セルの口上を聞いたヒルトがアイオリアに訪ねる。
「ほぼ勝ちかけた戦だ。それを捨てる事はない」
10年ほど前なら一騎打ちを断るのは恥とされていた時代だった。決闘ならまだしも今の時代、一騎打ちを断ったからと言って蔑まれることもない。無理に一騎打ちに応じ勝利を逃がすことの方が物笑いの種になるだろう。
アイオリアは抜剣し高々と剣を掲げる。
「全軍突撃!」
王国軍による反撃が始まる。
次回予告
総崩れとなる反乱軍。
リヒッター百騎長はセルを討つ。
次回 内乱19 セルの最後
風は貴方にどんな物語を残しましたか?
一騎打ちというのは、日本の武士によって行われたものらしいです。
元寇以降は、日本も集団戦闘がメインになり廃れました。
本作では集団戦に移行した状態ですね。
西洋の騎士が行う一騎打ちはほとんどが試合(決闘とは別物)です。
集団戦がメインで日本のように、戦場では行われなかったようです。
と言うことで、一騎打ち云々やアイオリアが馬上で弓(馬上で弓を使うのは日本の武士とモンゴル辺りの騎馬民族)を使っているところは、日本の武士がモデルです(笑
ではまた。
追記 30日 0339時
誤字の修正。報告ありがとうございました。