第2章 FILE24:内乱14 命令違反
早朝、セルは物見の兵に起こされた。国王軍の奇襲、昨夜から5度目の攻撃だ。
500騎ほどの少数部隊が、火矢を打ち込んでくるだけで実害は少ないのだが、放っておくわけにもいかない。
「騎兵の準備は?」
「はっ、700準備できております」
「兄貴の命令など聞いてられるか。出るぞ! 俺の馬をもて!」
「アルゴ百騎長。城門が開きます」
部下の報告を聞くまでもなく。アルゴの眼にも、その様子が見えた。
「とうとう、痺れを切らしたか。全軍、陣形を再編成!」
アルゴがよく通る声で命令を下した。陣形が敵を半包囲するように左右に伸びる。敵の騎馬 部隊は城門の前に固まっている。
アルゴは剣を持った右手を高々と掲げた。
「全軍! ……逃げろ!」
敵を半包囲していた陣形が、あっという間に崩れた。余りのことに一瞬遅れて敵軍が追撃に移るが、四方に散る敵軍を追撃するのは困難だ。そして、周りにある森は国王軍に味方した。
王国軍が我先に逃げ出すのを見たセルは、部下の騎兵隊をまとめる。ここで深追いしてもあまり意味はない。
兵の士気を高めるために、王国軍を蹴散らしたという事実があればよい。
「ガハハハ。見ろ、たわいも無い。敵はただ攻めあぐねているだけであろうよ。兄貴は慎重になりすぎて、敵の陰に怯えているだけだ」
上機嫌で笑った後にセルは全軍に、退却命令を出す。
「よし、引き上げるぞ。俺は帰って寝る。誰も起こすなよ」
セルは部下たちに言い放った。
「アルゴ様、他に言いようがあると意見いたします」
集結した部隊をまとめていると、アルゴのところに来た副官に言われた。
「良いんだよ」
「良くありません。士気にかかわります」
アルゴも軍人だ。副官の言いたいことも分かるが、頭が固くなる歳でもあるまいにと思う。
「十騎長、良いんだよ。何故なら、アイオリア様が『逃げろ』と仰られた。フハハハ」
アルゴはひとしきり笑うと副官に聞いた。
「なぁ十騎長。アイオリア様をどう思う。いや、答えなくていい。俺はあのお方が好きになったぞ。軍隊で『逃げろ』等と平気で使う。あの方の元なら死神のカマから逃げおおせる事が出来そうだ」
副官はまだ不服だったが、後半の言葉には同意できたのでこれ以上、うるさい事を言うのをやめた。
「親父。いや父上、命令違反の厳罰なら謹んで受けましょう。だが、臆病な総司令官のよって処罰されるのは我慢なりません。処罰するならいっそのこと、父上の手で私の首を切捨ててください」
軍の士官、下士官、文官達が集った広間に芝居がかった大声が響いた。
そのセリフに父親のロスはなにやら感銘を受けたらしい。
長男のファルは忌々しげに弟を睨むと髪をかきあげた。
そして、三男のラスは「とんだ茶番だ。猪が大根に化けやがった」と呟いた。
「知略の基礎も分からぬ猪が、何をぬかす!」
ファルが、一喝する。
「ファル、そう怒るな。セルが敵を撃退したことも事実……」
ロスが、ファルをなだめるように言う。
「セルの行動は、おごった愚か者達に正義の鉄槌を下したのだ。よって今回の命令違反の厳罰は無きものとする」
父のロスの言葉を聞き、ファルは怒り心頭といった感じで広間を出て行った。
ラスは父と次兄に冷笑を向ける。
「そうだ。このまま踊ってもらおう。兄上も運さえよければ、最後まで舞台の上にいられるかもしれませんなぁ」
ラスの呟きを聞いた者は居なかった。
次回予告
時は来た。両軍がとうとう激突する。
アイオリは2,000の兵を率い戦場に立つ。
次回 内乱15 コウレクト河畔の戦い
風は貴方にどんな物語を残しましたか?
もうすぐ1ヶ月近く放置するところでした(汗
まあ、ともかく第2話もクライマックスです。
しかし、ラスさんはなにやら裏がありそうです。
そしてどこかで聞いたことのあるセリフと状況…… (汗
分かる人は感想ででも指摘してやってください(笑
ヒント: ブラウンシュバイク候 wwwww