第2章 FILE23:内乱13 決戦前 後編
コウレクト砦、現在はフーリレイ=ロス侯爵の支配下にある。
「親父、出撃許可を」
フーリレイ=ロス侯爵の前に、今にも噛み付きそうな勢いで現れたのは、次男のフーリレイ=セルだ。貴族というより、蛮族といった感じの巨躯は、筋肉の鎧に覆われている。
「落ち着け、何事だ」
「貴族とは名ばかりの青二才の率いる部隊相手に、何故、篭城戦をやらねばならない。同数の兵を貰えてくれたら、一気にひねり潰してやる」
「そ、それは頼もしいな」
ロスは息子の剣幕に、汗をかきながら答えた。
「煩いぞ、猪武者」
柱の影から貴公子然とした長身の男が現れた。長男、フーリレイ=ファルだ。均整のとれた体躯に甘いマスクは、さぞ女性に持てることだろう。実際、今も傍らにいる女性の腰を抱いている。
「お前が騒ぐと、彼女が怯える。私としては、腕力だけでなく品性を求めたいのだが」
「兄者は、こんな時にも色ボケか?」
「慎め! レディーの前だ。余り下種な言動をするなら、その舌、切捨てるぞ」
「まあ、兄さん達も落ち着いて」
又、若い男が現れた。黒いローブを着ており、手には大きな杖を持っている。三男のフーリレイ=ラスだ。
貧相な体つきで、顔色が悪い、まるで病人のような顔色だ。そして、いかにも魔術師という格好をしている。魔術師が忌み嫌われるこの世の中で、そのような格好をしているのは、外に出る必要のないせいか。もしくは他人の目を気にしないですむだ。
彼の場合は両方だろう。
「セル兄上、軍の司令官はファル兄上だ。ここは、ファル兄上に従うべきではないか」
「そんなことは分かっている。だが、敵は好き放題攻撃を仕掛けてきやがる。しかも、小規模な部隊で…… おかげで兵達の消耗は激しい、ここで叩かねば、士気が落ちる一方だ」
セルがファルをにらむ。
「だめだ、俺の命令があるまで動くな。命令違反は厳しく裁くぞ」
ファルはセルに念を押すと女性を伴なって部屋を出ていった。
「ちくしょう!」
セルが、壁を殴りつける。
「説明も無く、ただ命令を聞け、だと、ふざけるな!」
セルも今にも暴れ出しそうな勢いで部屋を出て行く。
「父上、大丈夫ですか?」
ラスが三人のやり取りを、柱の影に隠れて見ていた父親に声をかける。
「ああ、大丈夫だ」
「そうですか、それはよかった」
ラスは言葉とは裏腹に、蔑んだ目で父親のロスを見た。
「まあ、セル兄上の言うこともわかります。援軍の当てもないのですから、どこかで敵に打って出なければ、破滅が待つだけです」
「そうか、お前はセルの意見を押すのか」
イスに座りながらロスは末の息子に言う。
「説明もない現状では、そうせざるを得ないでしょう。違いますか父上?」
それだけ言い残すとニヤリと笑い部屋を出て行く。我が息子ながら何を考えているか分からないやつだと、ロスはため息をはいた。
次回予告
いらだったセルは命令を無視して出撃する。
しかしそれは、砦攻略のための布石だった。
次回 内乱14 命令違反
風は貴方にどんな物語を残しましたか?
反乱軍の幹部たちの登場です。
色々と個性のある人たちです(笑
もう第1章の分量を超えてしまっていますが、第2章もやっと終盤です。このままラストまで突っ走れ。