第2章 FILE21:内乱11 決戦前 前編
「密偵の情報によれば、総兵力約4,200です」
ヒルトが、報告書を読み上げる。
「当初の予測戦力の倍じゃないか」
シャリアールが声を上げる。
「先の戦闘の部隊も含めると4倍強の戦力ですね」
ヒルトは、いつものごとく淡々と返す。
「あれは、平民の寄せ集めだしなぁ」
シャリアールが苦笑した。
「ヒルト、増えた兵力の素性は分かるか?」
今まで、黙っていたアイオリアが訊ねる。
「半数は、徴兵したものらしいのですが、残り半分は国境警備に出していた兵です。兵士として、訓練された部隊と見ていいと思います」
「シャリアール。今、投入できる全兵力は?」
「ろくに訓練も終わっていない新兵も含めてか?」
アイオリアが頷く。
「特等席で、観戦させるわけにはいかないだろう?」
「4,000だ。先の戦闘で、こちらのために戦うと表明している投降兵も使うなら5,000弱…… それで、どうする?」
アイオリアは、テーブルの上にあったワインのボトルを手に取ると、自分のグラスにそそいだ。ヒルトが酌をしようとするのを手で制す。テーブルの上に戻されたボトルは、シャリアールの手に渡り、幾人かの手を経て、あっという間にテーブルの反対側まで行ってしまった。
一方、アイオリアは、せっかく注いだワインを飲むわけでもなく、手の中で弄んでいる。何かを手の中で弄ぶのは、考え事をしている時のアイオリアのクセだ、周りも承知しているので、新たに意見を発言する者もいない。
「ミュラー司祭」
不意にアイオリアがミュラーを呼んだ。
「は、はい」
ミュラーが慌てて立ち上がった。
「そんなに慌てなくても良い。無駄だとは思うが、降伏勧告を出してくれ。必要なら、フェンリア伝道師の同行を許可する。フーリレイ侯爵家は代々ガイア教徒だから、仕事はやりやすくなるだろう」
「わかりました」
ミュラーが恭しく頭を下げた。
「シャリアール、今ある兵力のうち2,000を4つに分けてくれ。直属部隊で使う。指揮官の人選も頼む」
「俺では駄目か?」
アイオリアは、苦笑しながら答えた。
「だめだな。お前には副官として苦労してもらう。現場指揮は、他の者に任せろ」
「では、リッヒッター、アルゴ、サカキ、ナレスでは?」
シャリアールが挙げた名前は、いずれも古株のベテラン騎士達だ。能力も信頼できる。
「わかった。では4人に命ずる。昼夜を問わず変則的に敵砦への攻撃を行なえ。だが戦うな。敵が出て来る前に逃げろ。半分は嫌がらせだが、作戦の要だ。分かったな」
4人の騎士が、踵を踏み鳴らし敬礼した。
「それから、シャリアールは残りの部隊を500ずつの部隊に分けてくれ。部隊の基幹には熟練兵を当てて命令系統を確保してくれ。何日かかる」
「3日あれば」
「2日でやれ」
シャリアールはため息をついた。
「俺の配下の騎士見習達を、過労死させるつもりか? わかった、どうにかやろう」
シャリアールの返事を聞いて、アイオリアはイスから立ち上がった。
「詳しい作戦は、部隊が編成された後おこなう。以上解散」
皆、それぞれの部署に散っていった。
次回予告
会議の後、疑問を述べるヒルト。
アイオリアはリュエルとヒルトに宿題を出す。
次回 内乱11 決戦前 中編
風は貴方にどんな物語を残しましたか?
いよいよ決戦も近いです。
また集団戦闘を書かないといけないなぁ。
集団戦闘のシーンは難しいです。