第2章 FILE18:内乱08 狂戦士
じりじりと肌に殺気立った空気が刺さる。ゼロの顔には微笑が浮かんでいた。心が躍る。戦闘マシーンとして作られた。そう、魔道士達に作られた人造人間である自分の故郷は、戦場だという実感が気分を高揚させる。この場にいる全員を相手にしても一瞬の出来事だろうが、戦場には違いない。
遠回りにゼロを包囲した村人達は、それぞれの武器を手にしたまま動かない。いや、ゼロの発する殺気に動けないでいた。一流の戦士が発する、それだけで人を殺せそうな殺気。ピーンと張り詰めたロープの上に立っているような感覚。村人達は引くことも、進むことも出来ないでいた。
教会の中は、いつ崩れるかもしれない均衡を保っている。何か言葉を発しただけで、脆くも崩れ去ってしまいそうな均衡…… 教会の中は、耳が痛くなるほどの静寂に包まれる。と、次の瞬間、教会の扉が開かれた。
「何をしているのです。双方、引きなさい!」
教会に響く女性の声。しかし、その声に微妙なバランスの上に立っていた均衡が崩れる。
「うおぉぉぉぉぉぉ!」
ゼロが、吼えた。三節棍の一振りで、村人をなぎ倒し、ゼロは教会の入り口に向かい駆ける。そこには、黒衣の女性。その顔に三節棍を振り下ろす。
ギン! 次の瞬間、金属が打ち合う音が響く、2本の剣が、三節棍を寸での所で受け止めている。
「ミュラー様は、下がってください」
ゼロの三節棍を止めた1人、亜麻色の髪の少年が、黒衣の女性に言った。
「この場は、私たちで止めます」
金髪の少女が、感情を消した抑揚のない声で言う。
その2人を見てゼロの顔に笑み、いや、おかしくてたまらないという喜びの表情が浮んだ。
ダン! ヒルトは背中から壁に叩きつけられた。
「くっ」
衝撃で息を吐くことも吸うことも出来ない。剣から手が離れた。目の前の白い髪の男、ゼロは強すぎた。
リュエルが、少し離れたところで倒れているのが、視界の端に写った。生死はここからでは確認できない。
手探りで剣を拾う。その動きに気がついたゼロが、ゆっくりと近づいてくる。
「やめなさい!」
黒衣の女性、ミュラーが叫んだ。男はその言葉を無視してヒルトに近づいてくる。
「……ミュラー司祭、逃げて」
ヒルトが壁を背を預けるように立ちあがりながら呟くように言った。
「そういうことは、自分で決めるわ」
ミュラーがヒルトとゼロの間に立ちゼロを睨み付ける。しかしゼロの顔には狂喜の笑みが張り付いたままだ。ミュラーはゼロを睨み付けたまま呪文を唱えた。
「断罪の刃 神の裁き 光の刃 ルールブック」
ゼロの四方に光の教典が現れ、光の刃がゼロを襲う。
だが、次の瞬間信じられないことが起こった。ゼロが光の刃をすべて叩き落し、あまつさえ光の教典を三節棍で破壊したのだ。
この魔法は内側からの破壊は不可能だとされている。ファン教団内部でもその試みがなされたが、幾人かの犠牲者を出した末、破壊は不可能だと結論付けられた。
それを、ゼロはいとも簡単にやってのけたのだ。破壊された魔法の余波によって、ヒルトは再び吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた、意識こそ飛ばなかったが、再び立ち上がることはできない。
ミュラーも無事では済まず、やはり壁に叩きつけられ咳き込んでいる
「逃げてください。ミュラー司祭……」
ヒルトがミュラーに言うが、どう見てもヒルトの方が不利な状況だ。
だが、ゼロはヒルトが無力化されたと判断したのか、深紅に燃える瞳をミュラーに向けた。
次回予告
絶体絶命のミュラー。
それを救ったのは蒼衣の女性だった。
次回 内乱09 答えなさい!
風は貴方にどんな物語を残しましたか?
狂戦士化したゼロ。これを止めるのはあの女性しかいません。
それにしても、フェンリアの本編登場シーンだけでえらいページ数を消費してしまいました(笑
登場キャラの中で、書いてて一番楽しい娘だからなぁ。
『ルールブック』の魔法は、ファン教の神官が使う魔法で、外伝2にて登場した魔法です。
そこでも破壊不可能な魔法として紹介してるのですが、何事にも例外はあるということで(笑