表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/53

第2章 FILE15:内乱05 復讐の刃 前編


「ガイアよ、傷つきし者に、癒しの光を」

 4歳くらいの女の子の額に当てたフェンリア手が光る。手をどけると傷一つ無い滑らかな肌が見えた。

「はい、もう大丈夫。傷跡一つ残っていないよ。女の子だから、顔に傷が残ったら大変だものね」

 フェンリアは目線の高さを女の子に合わせて微笑んだ。すると女の子は、恥ずかしそうにして母親に抱きついた。フェンリアは、何度も頭を下げる母親に今日はゆっくりと休ませるように言い、部屋から送り出した。背伸びをすると骨がコキコキと鳴った。

 150人ほど村人の内、26人が死亡し、生き残った人間も、そのほとんどが怪我をしていた。なかでも村長と、この村、唯一の教会ファン教の神官が殺されてしまったのが痛かった。村の意思を代表する人間が居ないのだ。

 仕方がないので、フェンリアは村の中では一番立派な村長の屋敷を借り受け、怪我人に治療を施していた。

 重傷者も幾人かいたが、命にかかわるような者は今のところいない。だが敗残兵達に犯された娘のように心の傷を抱えたものも少なからずいる。魔法を使えば外傷は簡単に治せるが、こればかりは時間が必要だ。

「やっと片付いた……」

 フェンリアは机の上に突っ伏した。

 魔法の使い過ぎで動く気にもならない。しかし、現実はそれほど甘くは無かった。 すうっと意識が暗闇に吸い込まれようとした時、荒々しくドアが開かれた。

 フェンリアはぴょんとバネ仕掛けの人形のように背筋を伸ばした。

 ドアの方に目を向けると村の若者が3人立っていた。それぞれの手にはかまくわなどの農機具が握られている。

「今から、野良仕事…… のわけないわね」

 あと2時間もすれば日が落ちるし、雰囲気が尋常じんじょうではない。あきらかに殺気立っている。フェンリアはそっとふところのダガーを握る。

「あ、あいつらを、俺たちに渡してもらおうか!」

 くわを持った、如何にでも田舎のあんちゃんといった感じの青年が叫ぶように言った。極度の緊張のためか声が裏返っている。

「あいつら? 誰の事よ?」

 フェンリアはすっとぼけた。あいつらとは村を襲った兵士達のことだろう。今は丁寧に縛り上げ、教会の地下室に閉じ込めてある。地下に続く入り口でゼロが見張っているから、脱走はまず無理だ。

「む、村を襲った奴らだ」

 3人の内で一番背の低い青年が答えた。手にはかま何故なぜか鍋のふたを持っている。盾の代わりだろうか。

「それで。彼らを引き渡したら、あなたたちはどのようなショーを、見せてくれるのかしら? 詳しく聞かせてくれない?」

 フェンリアの声は氷ように冷たい。先ほどまで、怪我人達に慈愛じあいに満ちた声をかけていた女性と同一人物とは信じられない。

「う、うるさい!そんなのは、俺達の勝手だ!」

 上ずった声で叫ぶ青年達にフェンリアは冷笑で答えた。その氷の刃は青年たちの心をえぐるが要求を撤回させるまでにはいかない。殺気だけが高まっていく中先に口を開いたのはフェンリアだ。

「はっきりと、言ったらどう? 僕ちゃん達は縛られて無抵抗の人間をなぶり殺すのが好きですって、それとも村が襲われた時は怖くて隠れていたけど、縛られて抵抗できない奴らは怖くないぞー! かしら?」

 フェンリアは青年達にしんらつな言葉を浴びせる。事実、死者のほとんどが村を守ろうとして敗残兵に立ち向かった人達だ。

 フェンリアとゼロが助けに入った時には、村人で抵抗している人間はいなかった。隠れていたか、村の外まで逃げ出したのであろう。

 それが悪いと切り捨てるつもりはない、自分の身を守る為にしたことだ。だが、それなら、それらしくしていればいいものを、抵抗できなくなった加害者を嬲り殺しにしようとするのだから救われない。

 もう少し自分のしようとしている事が、どんなに恥ずかしい行為か客観的に見て欲しい。と思う。

 理不尽りふじんに平和な暮らしを壊された憤りは理解できる。ならばあの場で戦って、己の手で大事なものを守ればよかったのだ。己の命を懸けて。

 自分は安全な場所に居て、復讐ふくしゅうを遂げようとする。それがフェンリアには気に入らない。

「なんだと! ガイア教の神官だと思って下手したてに出ていれば!」

 何時いつ、下手に出ていたのかはわからないが、激昂げきこうする青年達。手にした凶器きょうきえる。

「痛い目にあわないと、わからないみたいね? いいわ、その性根しょうねが真っ直ぐになるまで、たたき直してあげる」

フェンリアは、不敵ふてきに笑った。





 次回予告


 凶器を手にした村人たち。


 斬り捨てるのは簡単だが、ゼロは困っていた。


 次回 内乱06 復讐の刃 後編


 風は貴方にどんな物語を残しましたか?


なべのふたというたてがあったのはドラクエだったかな?

今回もフェンリアが主役です。

しかし、本当に書きやすい娘です。もしかしたらルノアより書きやすいかも。

次回はゼロの出番です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ