第2章 FILE14:内乱04 蒼と白
村のあちらこちらから火の手が上がっている。粗末な皮鎧を着た兵士が村人を殺し略奪に興じている。その横では村娘の服を剥ぎ取り、その上に覆い被さっている男が下卑た笑みを浮かべる。
兵達昨日まで友軍であったのだが、今日の戦で敗残兵となり統率を失った彼等は村を襲った。
奪い、殺し、犯し、火を放つ、惨劇の宴は始まったばかりである。
「これはひどいわね」
蒼い神官服に身を包んだ女性が、村の入り口で事切れていた子供の瞳を閉じてやる。
女性は首からガイア教のホーリーシンボルを下げていた。ガイア教の神官である事は間違いない。
「そうか? 戦場では当たり前の事だ。弱いものから死ぬ」
女性神官の呟きに答えたのは、純白のロングコートに身を包んだ人物だ。
中性的な顔立ちで、男と言われればそう見えるし、女と言われても疑問には思わないだろう。少なくとも外見で性別を判断できない。白い肌に白い髪、全身白一色の中で、その双眸だけが深紅に染まっていた。
「ゼロ。敗残兵たちを撃退するわ」
女性神官が当然というように言った。
「追い返すのか? 殺す方が遥かに楽だぞ、フェンリア」
ゼロと呼ばれた人物は、銀色に光る三節棍を取り出しながら、表情を変えずに言い返した。
「駄目よ。殺さないで。あなたになら出来るでしょう?」
フェンリアと呼ばれた神官もソードブレイカーと呼ばれる1メートルほどある剣を引き抜いた。この剣はガイア教の神官戦士が好んで使用する剣だ。剣の背には大きなのこぎりのようなギザギザの刃が並び、その部分を使って剣を絡め取ったり、細い剣ならその名のとおり折る(壊す)こともできる。
「ゼロ、逃げる奴は追わなくていいわ。村人を助ける事を最優先にして」
「敵は殺すな。村人は助けろ。いつも難しい事ばかり言う」
フェンリアは心外ね。という顔をする。
「あら、できない事は言っていないわよ。信じているからね、ゼロ」
その言葉を聞いて、ずっと無表情だったゼロの口の端が少しだけ綻んだ。
裸にした村娘に覆い被さっている兵士の後ろから、そ〜と近づいたフェンリアは、狙いを定めると、鉄板を貼り付けたブーツで兵士の股間を蹴り上げた。兵士は形容しがたい悲鳴を上げ、泡を吹き悶絶する。
「何をする! 貴様何者だ!」
一緒に村娘を嬲っていた兵士が剣を構え威嚇するが、下半身丸出しではいささか間が抜けていて迫力に欠ける。格好についてはさておき、その手に持つ剣には、まだ赤さを残す血液が付着している。人を斬ってからそれほど間がない。それを見たフェンリアの目が細くなる。
フェンリアは無造作に間合いを詰めると、手にしたソードブレイカーを起立したままの兵士の一物にピタッと当てた。その場所から鋼の冷たさが伝わる。
「降伏すればよし、でなければ、この場でちょん切るわよ」
フェンリアはニッコリと微笑を浮かべたまま、のたまうがその目は笑ってはいなかった。
兵士はその目に射竦められた。この目は本気だ…… 少しでも抵抗すれば、本気で切り落とされる……
兵士は恐怖でしぼんだイチモツを、手で隠しながら剣を捨てた。
「お願いです。切り落とさないで……」
「死ねぇぇ!」
叫びながら剣を振り上げて襲ってきた兵士の喉元に、若干手加減した一撃を加えたゼロは、地面をのた打ち回る兵士の両膝を、三節棍を使い表情も変えずに砕いた。
「6人目」
ゼロはフェンリアとわかれてから、出会う兵士を叩きのめした上、逃げられないように両膝を砕いた。
このまま、村人達にくれてやってもいいかもしれない。おそらくなぶり殺しにされる事だろうが。
だが、フェンリアがそのような事を許すはずがないと考え直す。
また1人、物陰から兵士が襲ってきた。ひょいと、その攻撃を避け、手にした三節棍を兵士の両膝に叩き込む。骨の砕ける感触が手に残った。
フェンリアはやりすぎだと怒るかもしれないが、剣を向けてきたのだ、殺される覚悟ぐらいは出来ているだろう。命があるだけ感謝してもらいたいものだ。
ゼロは村のメインストリートを歩いているだけで、ゴキブリのように次々と湧いて出てくる兵士を叩きのめしながら、余りの手ごたえの無さにため息をついた。
結局、フェンリアとゼロは、半時を待たずして敗残兵達を制圧した。
次回予告
凶器を手にフェンリアの前に立つ村人。
フェンリアは冷笑で答えた。
次回 内乱05 復讐の刃 前編
風は貴方にどんな物語を残しましたか?
仕事から帰ってきたら寝ちまいました(笑
というわけで深夜の更新です。
やはりフェンリアは書きやすいです。
小説を何本か書くとこういうキャラが出てきますねぇ。
欠点は、深刻なシーンなのに、ちょっと軽くなってしまうことでしょうか(笑
ゼロは外伝2の最終話のあとがきで書いた、外伝3で書くつもりのキャラでした。今のところ(外伝の反応がまったくないので)外伝3の執筆予定はありませんけど。