第2章 FILE13:内乱03 ぬくもり
「投降者2,321人。討ち取った騎士が28人。後は、まんまと逃げ延びたか戦死者だ。ちなみに、暗くなるまでに確認できた戦死者は954人。我が方の被害は戦死者2人、重軽傷者26人、行方不明2人だ。負傷者と投降者は後方へ移送済みだ」
天幕の中で、アイオリアはシャリアールの報告を聞いていた。
「兵達はやはり平民か?」
「ああ、無理矢理どころか、女房子供を人質にとられた例もある」
「そうか……」
アイオリアは俯いた。シャリアールの位置からは表情が読みと取れなくなる。
「アイオリア。あまり気に病むな。剣を向けた相手はどのような理由があろうと、敵だと割りきれ。そうでないと身が持たないぞ」
シャリアールの言うことは間違っていない。戦場で躊躇したら血溜まりに沈むのは自分のほうだ。
「頭ではわかっているが、やはりな……」
「戦はまだ続く。リュエルにでもメシの用意をさせるから、食ったら休め。残りの雑務はやっておく」
そう言うと、シャリアールは天幕から出て行こうとするが、入り口で立ち止まった。
「アイオリア。お前のそういうところは甘いとは思うが、嫌いじゃない」
シャリアールはそれだけ言うと天幕を後にした。
「アイオリア様?」
ヒルトは夕食の食器を下げに来たのだが、夕食にはほとんど手をつけられていなかった。そして、アイオリアの様子がおかしなことに気がついた。
アイオリアは広げられた地図の前で、震える両手を見つめていた。
「アイオリア様、いかがなされました?」
少し声の大きさを上げ、肩に触れると、ビクッとアイオリアが身体を震わせた。
「ヒルトか。少し考え事を……」
「嘘です!」
無理に笑顔を作ろうとするアイオリアの返答を最後まで聞かずに、ヒルトは否定した。
アイオリアは、ヒルトから視線をそらし、まだ震えている両手を見つめ苦笑を浮かべた。
「手が、血に濡れているんだ。気がついたら真っ赤に…… それなのに僕はまだ人を殺す事を考えている。僕は……」
言葉の通り、地図の上には敵味方の部隊を示す駒が、配置されている。
ヒルトはいきなりアイオリアの頭をその胸にかき抱いた。
「ヒ、ヒルト?」
「大丈夫…… 大丈夫です」
ヒルトは左手でアイオリアの頭を抱え、右手で背中をポンポンとたたきながら、母親が幼子を諭すようにやさしく呟く。
ヒルトの華奢な身体から感じるぬくもりは心地よく、いつのまにか両手の震えは止まっていた。
「私は、いえ、私達は皆、アイオリア様のことが好きです。だから苦しい時は苦しいと言ってください。アイオリア様が一人で苦しんでいるのを、ただ見ているしかできないのはとても辛いです」
どのくらいの間そうしていただろうか。アイオリアが口を開いた。
「ヒルト、ありがとう。もう大丈夫だ」
ヒルトは微笑むとアイオリアの頭を優しく撫でた。
「早かったな。アイオリアの様子はどうだった? ほっとくと思いつめる性質だから心配でな」
食器を抱えたヒルトにシャリアールが声を掛けた。
「大丈夫です、シャリアール様。明日にはいつものアイオリア様に戻っています」
断言したヒルトの目をシャリアールは見る。
いつも、表情の変化を隠そうとする(成功しているとは、いいがたいが)少女の目が「私は、アイオリア様を信じています」と雄弁に語っていた。
「わかった。信じよう」
シャリアールはヒルトに笑って見せた。
次回予告
敗残兵に襲われた村にたどり着いたのは一組の男女。
2人は村を救うために動き出した。
次回 内乱04 蒼と白
風は貴方にどんな物語を残しましたか?
設定的には、アイオリア17歳、ヒルト14歳です。
この世界では、15歳から成人として認められます。20前のルノアなど、もう2,3年したら立派なお局様です(笑
次回、陰の主役(笑)が登場です。
ぶっちゃけ、外伝の主人公のフェンリアさん。この人がサブタイの『蒼』です。(でもって、この人も行き遅れ)
では『白』は? それは次回を読んでみてください。
多分、月曜日辺りまでには更新(土日は更新できそうにないので)すると思います。