第1章 FILE02:戦場の出会い
「司祭様…… 魔族を救う必要があるのですか。こいつらは俺達の仲間を」
負傷者の一人が言う。他にも頷いている者もいる。
「貴方達の気持ちは分かりますが、私には目の前で苦しんでいる人を、見捨てることは出来ません。たとえ敵であっても…… ですからこの中ではケンカや、殺し合いは禁止です。分かりましたね?」
そして、一人一人の目を見つめる。見つめられた男達は皆、視線を地面に落とす。なぜだか心の奥底まで見透かされそうな気がしたからだ。
「少し、外の空気を吸ってきます。おとなしくしていて下さい」
ルノアはそう言い残し、魔族の男の剣を持ってテントの外に出る。そして入口近くに剣をつき立てた。動くこともままならないとはいえ、先ほどまで敵対していた男達が同じテントにいるのだ。武器を彼らの目の前に置いて置きたくない。
ため息をついて周りを見回すが、敵軍どころか人影さえ見えない。負けたとはいえ指揮官がよかったのか、総崩れにはならなかったのだろう。それでも、ここが発見されるまでそれほど時間の猶予があるとは思えない。
突然、ズドンと4mほど手前の地面が爆発する。
カタパルトからの投石? いや、ファイヤーボールの魔法。そう判断したルノアは両腕で顔をガードし、爆風に耐えながら魔法の呪文を唱えた。
「ガイアよ。我に不可視の盾を」
魔法が発動すると同時に2回目の爆音。が、ルノアは平然と立っている。魔法の発動がもう一呼吸遅ければ怪我どころか跡形もなくなっていただろう。
「いきなりとは、失礼ではありませんか?」
不可視の魔法で隠れていたのだろうか。ルノアの声に5人の男が姿を現す。血と泥で汚れた硬皮鎧を身に着け、片手で扱う剣と盾を持っている。血に酔っているのか目が血走っていてとても話を聞いてくれる状態にない。ルノアは説得を諦め腰のショートソードを抜いた。
連携もなくただ剣を振り回す男達をすれ違いざまに2人切り伏せる。それを見て男達が距離を取った。と同時に爆音。
まだ1人隠れている。それも魔法使いが。
しかし、魔法の護りがあるルノアには影響しない。逆にその爆炎にまぎれて距離を詰め、また1人切り伏せた。
「引きなさい。3人とも急所は外しています。早めに手当てすれば助かります」
剣を構えたまま男達に警告する。が、男達は引く気はないようだ、恐怖の色を顔に張り付かせたまま突っ込んでくる。ルノアは舌打ちしつつも迎え撃つ。
しかし、剣を合わした瞬間ドスッという重い音と共に男との間に棒状のものが割り込む。男とルノアの剣が宙を舞い、男とルノアの間には3メートルほどの騎士達が馬上で使う騎上槍が地面から生えていた。
騎上槍が飛んできた方向に視線を送ると、黒い板金鎧に身を包んだ5騎の騎兵が進んでくるのが見えた。
ルノアは反射的に腰に残ったショートソードに手を伸ばすが、抜くのはあきらめた。襲い掛かってきた兵士達も呆然と近づいてくる騎士達を見ている。
重量のある騎上槍を40メートル近くはなれて戦う人と人の間につき立てた技量に加勢が4騎。それに対してこちらの武器はショートソード一本のみ。魔法を使えることを差し引いてもとてもかなう相手ではない。
騎上槍を投擲した騎士がルノアの前にくると馬から下りた。背はそれほど高くない。ルノアより10センチほど高い170センチくらいか。
騎士が兜を取ると長い銀髪が流れる。そして金色の瞳。特徴からすると金眼の魔王その人だが、とてもそうは見えない。どこかの貴族のお坊ちゃんという感じだ。
「おとなしく降伏してくれないかな。君の命の保障はしよう」
「金眼の魔王の言葉とは思えないけど……」
金眼の青年は肩をすくめ笑った。その笑顔はまるで子供のように無邪気だった。
「俺が金眼の魔王と呼ばれているのは事実だ。君が俺のことをどう聞いているか分からないが、助かる命をむざむざ失いたくない」
「では、私が傷つけたその怪我人達をテントの中に運ぶので手伝ってください。それとテントにいる人達の命の保障。これを条件に降伏いたしましょう」
金眼の青年は愉快そうに、声を立てて笑った。
「蒼い聖女殿、君の勝ちだ。その条件を飲もう」
時に聖神暦124年4月20日のことであった。
次回予告
捕虜となったルノアは、その後も魔王軍に残った。
そして、ガイア教団より魔王軍の従軍神官として正式に任命される。
次回 従軍神官
風があなたに物語を運ぶ。
第2話をお届けしました。
今回も読んでいただきありがとうございます。
魔王と蒼い聖女の出会いでした。
ドラマティックな展開ではありませんけど(笑
それでは、またお会いしましょう。