第2章 FILE09:ティータイム 前編
「ヒルトさん。お茶を付き合ってもらえないかしら?」
ルノアは扉のそばに立っているヒルトに声を掛けた。
「いえ、私は護衛のためにいるので」
ヒルトはそっけなく断った。ドアの外にはシャリアールたちが交代で護衛についている。女性の護衛という事でヒルトがルノアに張り付いていた。
「そんな所に立たれると、軟禁されているみたいだわ」
「いいえ。そんな事は……」
ルノアは、くすっと笑った。
「カインの命令なのだろうけど、しゃちほこばって護衛しなくても大丈夫よ。今の所、私を殺して得をするような人間はこの国には居ないわ。カーライル王が本気で和平を考えているのなら、事情は変わるかもしれないけどね」
ルノアは、ヒルトの背中をイスの前まで押していき座らせる。
「市場に出た時に、いい葉を見つけたのよ。あと、美味しそうなクッキーもね」
ルノアはなれた手つきで紅茶を注ぐと、ヒルトの前にクッキーと共に置いた。
「カインも心配性になってしまって、自分の身ぐらい守れるわ。あ、ごめんなさいね。冷めないうちに飲んで」
ヒルトはおずおずと口をつける。
「美味しい」
ヒルトが感嘆の声を漏らす。よい葉を使っていることもあるのだが淹れ方が良いので葉の美味しさを残さず抽出したという感じだ。
「そうでしょう。グレタ産のセカンドフラッシュ。パンドラさんが居たらきっと買い占めていたでしょうね」
ルノアは苦笑して見せた後、ヒルトを見つめる。
「それでね。ヒルトさんに聞いておきたい事があるのだけどいいかしら?」
「はい。何でしょうか」
ルノアは紅茶を一口飲んでから口を開いた。
「理由を教えてもらえないかしら?」
「理由?」
「ええ、魔族の貴方がここに居る理由。もし、周りに知れたら大騒ぎよ。お父様の復讐?」
ヒルトは首を横に振った。
「アイオリア様を憎いとは思っていません。親不孝かもしれませんが…… 何故だか、自分でも分からないのですが、今はアイオリア様の側に居たいと思います。ルノアさま、私を覚えていたのですか?」
ルノアは頷いた。
「ヒルトさんの怪我を治療した事がありましたね。まだ、半年も経っていないでしょう?」
ルノアが魔王軍に身を置くことになって1週間も経たない頃だ、訓練中の事故で瀕死の重傷を負ったヒルトが、ルノアの元に運びこまれたのだ。応急処置が的確だったこと早めにルノアの下に連れてこられたこともあって、怪我の深さのわりには傷跡すら残らなかった。
「はい。アイオリア様が、置いてくれるならですが……」
「そうなの。でも、気をつけるのですよ。魔族という事だけは、知られないようにね」
「ええ、気をつけます」
窓からは、暖かな日差しが差し込んでいた。
次回予告
勇者と呼ばれる青年と、蒼い聖女。
その邂逅は穏やかで
次回 ティータイム 後編
風は貴方にどんな物語を残しましたか?
グダグダとストーリーが進まなくてごめんなさい。
ルノアとヒルトの関係を少し書いておきたかったもので、しかも生かされるとしたら本作『前奏曲』の次のお話、『恋歌』でのことになりますねぇ(笑
元々、『恋歌』の設定と物語があって、『前奏曲』の物語が出来たので『恋歌』への伏線ぽいのが多いです。
ちなみに、ミシュエルの目やヒルトの怪我の件はキャラを作ったときに、そのキャラの過去のこととして設定されているのもです。
この作品では、特にこのような事項が多いので説明不足になってしまった場合はごめんなさいです。