第2章 FILE04:魔族の少女
床の上には酔いつぶれた男たちが幾人も、浜に打ち上げられた魚のように転がっている。
ここは百騎長になったアイオリアの為に、軍部が用意した屋敷だ。アイオリアと使用人の幾人かが住むには、少しばかり広い気がしないでもない。
アイオリアが百騎長に任命された式典から帰ってきたら、部下になった十騎長達や友人達が酒宴を始めていた…… 後に聞いた話では、首謀者はシャリアールだったらしい。
今はその大騒ぎも収束し、リュエルとメイド服を着た娘二人が男たちに毛布を掛けて回っている。
そんな中、アイオリアとシャリアールはまだ杯を交わしていた。
「シャリアール殿、これからも宜しくお願いする」
アイオリアが頭を下げる。
「おいおい、こんな時にかたい話はやめようぜ。俺はお前さんのことは気に入っているんだ。ちゃんと補佐するさ。他の十騎長達も軍歴が長くてクセのあるやつらだが、腕は確かな連中だ。お前さんは堂々としていればいい」
そして、口元に笑みを浮かべる。
「それに酒も強いしな。俺とここまで飲めるやつも珍しい」
そう言ってゴブレットにワインを注ぐ。そこにリュエルがやって来た。困ったような顔をしている。
「リュエル。どうかしたのか?」
「あ、あの、アイオリア様。騎士見習いになりたいという者が…… 明日にするように言ったのですが、会ってくれるまでここで待つと。門の前に……」
先の戦の活躍で、騎士見習いとして使えたい。という者は後を絶たない。だが、アイオリアが自分付きの騎士見習いとしたのは、今の所はリュエルだけである。
通常、百騎長クラスで3人から4人の騎士見習いが仕えるのが普通だ、雑務をこなす為の人員でもあるし、それだけの給料も貰っているのだ。
アイオリアは少しだけ考えて、その者を執務室に通すように言った。
執務室に通されてきたのは、ボロキレを身に纏った少年に見えた。
衛兵に浮浪者として、王都からつまみ出されても仕方ないような格好だ。
「私を貴方に仕えさせて欲しい」
春風に揺れる鈴のような声…… この一言で、アイオリアは自分の間違いに気づいた。目の前にいるのは少年ではなく少女だという事に。よく見ると、幼いながら胸の膨らみも確認できるし、身体つきも男としては細いリュエルよりもさらに華奢だ。
「何故、私なのだ?」
アイオリアは静かな声で聞いた。
「貴方が、私の父様、ガウロ=アルフォンスを討ったから……」
少女は、まるで天気の話しでもするような調子で言った。
次回予告
騎士見習いとして仕えたいと訪ねて来た少女。
少女はアイオリアが討った敵将の娘だった。
次回 ヒルト=アルフォンス
風は貴方にどんな物語を残しましたか?
ようやく2章のヒロイン登場。
引っ張ったつもりはないのですが、砦攻略戦の戦場に少女を出すわけにもいかなく。出すとしたら騎士見習いという事で完全に、アイオリアと敵対関係になってしまい、後のストーリーと整合性が取れないので、この形になりました。
途中の時間経過が省かれていますが、アリア砦攻略から王都に帰還するまで3週間近く流れています。