第2章 FILE03:酒盛り
アリア砦攻略は成功に終わった。
敵を深追いした部隊が敵の援軍に殲滅されたという被害はでたが、当初の目的は達成された。
「アイオリア十騎長殿に乾杯!」
「勇者アイオリアに乾杯!」
大きな焚き火を囲み、酒を振舞われた兵士達が騒いでいる。
アイオリアが「褒美は何がよい」と言う問いに、「酒を下さい」と答えたことから、全軍に普段飲めないような上等な酒が振舞われた。アイオリアとしては飲まなきゃやっていられない心境だったのである。
そして、アイオリアの部隊には特別に王族や将軍達しか飲めないような上等なワインが一樽下賜された。
アイオリアは皆から離れた所で、チビリチビリと杯を重ねている。その横には酒瓶を持ったリュエルが尊敬の眼差しでアイオリアを見ていた。
「なに、暗い顔しているんだ?」
声と同時に背中を思いっきり叩かれ、口に含んだ酒を噴き出した。
「シャリアール殿、一体何を?」
「うまい酒をだな。そんな顔して飲むな」
シャリアールは持ってきた酒瓶を置き、アイオリアの隣に座る。
「昨日、見たときは目立ちたがりやの、大馬鹿野郎だと思ったのだが少し違うようだな。見たぜ、敵を深追いしようとした部下を止めている姿をな。深追いしていたら、今頃全滅だ」
シャリアールの言葉にアイオリアは首を横に振る。
「とんでもない。偶然が重なっただけですよ。昨日だって馬にしがみ付いていただけですし、今日も、気がついたら…… て、やつです」
実際に深追いを止めたのは、敵の援軍が来ることを予期していたからというわけではない。勝敗がすでに付いていたため、これ以上の流血沙汰を嫌っただけだ。
「それでもたいしたものさ。何もしなくても勝てる。そこまでの強運なら、てめーに命を預けてもいいぜ」
アイオリアは慌てて言い返す。
「そんな、たいしたものじゃありませんよ」
「そうか? でも、お前さんが部下を止めなかったら、他にも深追いした部隊も出ていたはずだぜ。まあ、今日はそんな話は止めだ。せっかくの酒が不味くなる」
シャリアールは、アイオリアの杯に溢れるほど酒をそそぐ。
「それじゃ、今日も生きぬいたことに。そして、また美味い酒が飲めるように。乾杯!」
シャリアールの声が響いた。
「明日から、百騎長だ」
デフロット将軍に呼び出されてそう告げられたのは、王都に帰還して3日後のことだった。
「明日からは、十騎長が十人に、兵百十人が貴様の直属となる。普通なら7年かかるところを、騎士任命1ヶ月で百騎長だ。戸惑うこともあるだろうが期待させてもらう」
その言葉を聞いた、アイオリア心中は複雑なものだったが、デフロット将軍はアイオリアの肩をバンバンと叩き上機嫌だ。
「百騎長は、カーライル国王が任命し武具一式が下賜される。式典用だから実戦では使えないが、国の式典に出席するときには着用しろ。それから、任命式典は明日の午後だから、今日中に鎧のサイズ合わせをしておけ」
無言のアイオリアを了承と受け取ったのだろう。デフロット将軍は力いっぱい肩を叩いて部屋から送り出した。
「はあ…」
ため息と共に体中から力が抜ける。出世すると給料も上がるし、嬉しいのだが部下に対する責任も生まれる。それを考えると嬉しさより不安のほうが大きい。
デフロット将軍の執務室のある建物の入り口までくると、アイオリア付きの騎士見習になったリュエルが待っていた。
「どのようなお話でした、アイオリア様」
「百騎長に昇進だ」
「それは、おめでとうございます」
リュエルの本心から喜んでくれる笑顔が、今のアイオリアには重い。それが表情に出たのだろう。
「どうかなさいましたか?」
リュエルが不安げに、アイオリアを見上げる。
「いや、なんでもない。ちょっと仕事が増えるな。と思っただけだ」
リュエルに預けておいた剣を受け取り、ちょっと笑って見せた。
翌日、真新しい鎧を着て式典の間中、見世物にされたアイオリアは、うんざりしたような顔で軍部が用意した館に帰ってきた。
館で何が待っているかも知らずに……
次回予告
アイオリアの出世を祝っての大騒ぎの中、騎士見習いになりたいと訪ねてきた少女。
その少女の正体は?
次回 魔族の少女
風は貴方にどんな物語を残しましたか?
最近、『天駆ける戦乙女の翼』にかかりきりだったので、久しぶりの更新です。
あちらも落ち着いたので、あちらで読者の大きな反響がない限りは、こちらメインでいけると思います。
反響がないならないで、悲しいですが(笑