第2章 FILE01:先陣
今年もよろしくお願いします。
聖魔戦記、第2章突入です。
「でや!」
裂帛の気合と共に漆黒の板金鎧に身を包んだ大男が地に臥す。残っているのは、白銀の板金鎧を着て大きく肩で息をしている細身の青年が一人。
部屋の中には四つばかり死体が転がっている。状況から見て青年が倒したのだろう。
青年はゆっくりと部屋の中を見回し、他に人影がないのを確認してから壁を背にしてズッズズと座り込むと大きなため息をつく。その剣を握る手はブルブルと小刻みに震えていた。
どうしてこんな事になったのか。昨日までは叙勲されたばかりの下級騎士だったのに、それが勇者だの英雄だのと呼ばれ、少ないながらも部下もいる。
それもこれも、昨日乗っていた馬のせいだ。あの時、暴走しなければ……
青年は、もう一度ため息をついた。
「誰か、先陣をきる者はおらぬか?」
千騎長であるグエン卿が声を張り上げるが、皆無視している。
親が大臣というだけで千騎長になった者の言うことを、素直に聞く者はいない。自分で先陣をきるだけの勇気があれば、話はかわるのだろうが。
「あのボンクラ千騎長の部隊なら、最前線はないと思っていたのだがどうしたものかな」
十騎長のシャリアールが部下たちに言う。
部下の全員が初陣の下級騎士達だ。何人、生きて帰れることか。
その部下たちは全員青い顔をしいて、引きつった笑みを浮かべる。
「なんだ、緊張しているのか? なに、戦が始まったら俺の後ろをついてこい。大丈夫だ」
自分でも、半分しか信じていない言葉を部下に言う。上官のつらい所だ
前方ではグエン卿の演説が続いている。他の部隊では、先陣争いは苛烈を極めるのに、我が部隊は臆病者だけしかおらんのかだの、先陣をきるのは武人の誉れだ、とか言っているが聞いている者の大半はだったらお前が真っ先に突撃しろと思っていた。
グエン卿が苦虫を噛み潰したような表情でさらに声を張り上げようとしたその時、馬のいななきと共に敵陣に向かって飛び出していく一騎の騎馬。それを見た数騎が彼の後に続いた。
そしてグエン卿の顔にも喜色が浮かぶ。
「あの者に続け! 全軍突撃!」
そのグエン卿の命令に騎馬隊全体が突撃を開始する。
「くそ! お前ら、ちゃんとついて来い」
シャリアールが部下達に声をかける。最初に飛び出していった騎士は、自分の部下達と同じ叙勲されたばかりの下級騎士だ。
「気にいらねぇ。一騎駆けとはな。それだけの実力があるのか、ただのボンクラか見極めてやる」
シャリアールは険しい顔のまま槍を構えなおした。
次回予告
自分の意思とは無関係なところで先陣を切ることになった青年。
青年は他人事のように自分の不運を嘆いていた。
次回 暴走
風は貴方にどんな物語を残しましたか?
主人公はまだ名前の出ていない青年の方です(笑
シャリアールもメインキャラですが。
今年1回目の更新も無事終了しました。
次回の更新までたぶん2,3日は空くと思います。ちょっとお疲れモードなので(笑