第1章 FILE18:レイバの決断
誰も居なくなった会議室で、レイバが難しい顔をして座っている。その背後には、黒騎士ジェニスが影のように控えていた。
「ジェニス。何故、アリア砦なのだろうな?」
質問の意図を、掴みかねてジェニスが怪訝そうな顔をするが、レイバはかまわずに続ける。
「あの砦は戦略的にたいした価値は無い。四方を山に囲まれ、守るにはともかく打って出るには不向きだ。ガウロの隊が駐留していたのだって訓練の為だ。相手の意図がわからない」
レイバの意図を理解したジェニスが答える。
「アリア砦の近くには金鉱脈があったはずですそれが目的では? そもそもこの戦の発端自体がガリアの金鉱を譲り渡せ。というものですから」
「弱いな。あの金鉱脈は産出量も少ないし、質もそれ程良いわけでもない。だから、捨て置いたのだが」
そのとき、会議室の扉が開き、パンドラが入ってきた。子犬と猫耳の少年がパンドラの後ろについている。
「お呼びでしょうか。レイバ様」
「大事な話なのだがな」
レイバが、猫耳の少年に視線を向けた。
「この者のことは、お気になさらぬようお願いします」
「アリア砦進軍中の部隊に密偵を送り込んで欲しい。敵の意図を知りたい。王国側としてもアリア砦よりフィロス砦のほうが戦略的には重要拠点のはずだ。だがフィロス砦への増援の数を減らしてまでアリア砦を攻略している」
「行意。早速手配いたします」
会議室から退室するパンドラを呼び止める。
「パンドラ。今回の救援、恐らくは間に合わない」
「私もそう思います」
パンドラの返答にレイバが頷いた
「補給物資と補給ライン確立の時間稼ぎの為に和平交渉を行なう。だが、敵の動きを考えると成立はしないだろう。そこでだ、交渉決裂と同時にフィロス砦周辺、5つの拠点を同時攻略する。その準備をしておいてくれ」
「このことは、従軍神官には?」
「まだ話していない。この作戦は奇襲になる魔術師たちをうまく使え。短時間で落とさねばならん」
「では、指揮官の人選はこちらで行います。それでは失礼します」
パンドラが退室した後、再び沈黙が訪れる。
「さて、ルノア司祭の所に行くぞ、ジェニス」
「必要なら呼びに行かせますが」
「いや、必要ない。こんな所に居ると気が滅入ってしまう。しかし、また仕事の話になるな。ルナ侍祭の呆れ顔が目に浮かぶ」
ジェニスが笑みを浮かべる。
「でもそれは、レイバ様を司祭の相手として認めているからではありませんか?」
「だと言いがな」
会話を交わしながら2人は会議室から出て行った。
1章 完
次章予告
昨日まで下級騎士だった青年は、初陣で英雄と呼ばれるようになる。
青年の元に集う人々。
そして、魔族の少女との邂逅。
それは、どのような未来を生むのか。
聖魔戦記前奏曲。第2章、『勇者と魔族の少女』
風が新たな物語を運ぶ。
今年最後の更新でした。読んでいただきありがとうございました。
年明けから第2章に突入です。
まずはアリア砦の攻防戦で、勇者と呼ばれるようになる青年のお話から。