第1章 FILE14:見舞客 前編
「ルノア、起きたのか」
血相を変えたグロウが、部屋に飛び込んできた。
「ええ、もう大丈夫よ」
微笑むルノア。
その姿を見てグロウが号泣する。
「俺、たくさん、ガイア様にお祈りした。よかった。よかった」
余りの騒がしさに、ハットが退室を命じるがグロウは頑として聞き入れない。
「やだ、ルノアの側にいる」
ハットとにらみ合う。今にでも取っ組み合いになりそうだ。
「グロウ。教会にいる。子供達の世話をお願いね」
教会にいる子供たちは、全員が戦災孤児だ。魔族の子供もいれば人族の子供もいる。手空きの者が交代で世話をしているが、グロウは子供受けがいい。
「わかった。俺に、任せろ」
そう言ってうれしそうに部屋を出て行く。尻尾があったら、思いっきり左右に振っていそうな勢いである。
「やれやれ、単純と言うか……」
「違いますよ。ハット殿。彼は純粋ですよ。教えたことも砂が水を吸うように覚えますし」
ため息をはくハットに、ルノアは微笑んで言った。
「失礼する」
そう言って部屋に入ってきたのは、いつもはレイバの側に控えている。黒騎士達だ。
黒騎士の筆頭でその容赦ない戦闘スタイルから『殲滅者』という異名を持つダストレス=ヒューガーを先頭に、隻腕で自分の身長ほどの大剣「天羽々斬」を振るう『隻腕の騎士』ジェニス=ハス、その拳で完全武装の騎士でさえなぎ倒す『剛拳』のディーバ=ショット、紅一点、2本の長剣を巧みに使い敵を斬り伏せる『二剣』のフレイア=セレス、皆が一騎当千の強者たちだ。
ルノアやハットが何事かと見守る中、一斉に左膝を床につく、携帯していた己の武器を目の前に置き頭を下げる。普通、騎士達が主君に忠誠を誓う時の礼のとり方だ。
騎士が仕えるべき主君以外にこのような礼を取ることは無い。慌てたのはルノアのほうだった。
「か、顔を上げてください」
「ルノア殿、貴女に敬意をあらわしたい。レイバ様を良く守ってくれた。本来は我々が盾にならねばならなかったのだが、遅れをとった」
そう言って更に頭を下げる。
ルノアが慌てて手をパタパタと手を振り、何度も頭を上げるよう頼むが、彼らが礼を崩そうとしない。
「おい、ルノア司祭が困っているぞ」
部屋の入り口に、いつの間にか笑みを浮かべたレイバが立っていた。どうやら最初から事の次第を見ていたらしい。
「ジェニス、主だった者を会議室に集めてくれ。軍議を開く。司祭、迷惑をかけたが、こいつらの偽りない気持ちだ、わかってやってくれ」
ルノアはレイバに頷き、黒騎士たちに礼を言った。
ヒューガーたちを連れて部屋を出て行くレイバの背中を見送り、ルノアは「はぁ」とため息をつく。
「魔族の人達って、性格が直線の人が多いのですね」
部屋の隅で一部始終を見ていたハットが、ぽつりと呟いた。
次回予告
ルノアの元を訪れる軍師パンドラと囚われの身のヴァネッサ。
そしてもう1人、ルノアにとってはうれしい再会。
次回 見舞客 後編
風が貴方に物語を運ぶ。
今回も読んでいただいた方に感謝。
聖魔戦記第1章も残るは数話。どうにか年内には終了して年明けから2章の勇者側の話に突入できそうな予感です。
と言いつつ明日明後日は、更新どころかここをのぞく暇も無いのですが(汗
ちょこっと補足
グロウ
魔王軍の戦士。ルノアに助けられたのを機にガイア教へ入信。
ルノア役に立ちたいという想いから、ルノアの後をついてまわっている。体中に獣のような体毛と鋭い爪を持つ。魔法は使えない。
ルノアさんの下僕と化してます。純粋な戦闘力なら結構強いのに(笑
そういや、グロウのふたつ名を考えて無かったです。
今の状態からすると『犬』ですかねぇ(笑
ダストレス=ヒューガー
黒騎士筆頭、外見年齢32歳ほど、灰色の短髪でブルーの瞳、がっしりとした体格をしている。漆黒の鎧に刀身まで黒い剣を持つ、身長は、190cm弱。魔王に忠実に使え、右腕として信頼されている。その戦いぶりから「殲滅者」の異名をとる。
ジェニス=ハス
魔王を守る、黒騎士の一人。
炎のような灼眼に紅い髪を持つ人族と魔族のハーフ。
左腕を失っているが、強靭な腕力で2メートル近い大剣『天羽々斬』を振るう。
詳しくは『外伝2 隻腕の騎士』参照。
ディーヴァ=ショット
魔王に仕える黒騎士の一人。獅子のような頭をもつ純潔の魔族。武器を嫌い、その肉体のみで戦う。その握力は鉄をも握りつぶす。
フレイア=セレイ
黒騎士の紅一点。
2本の長剣を自在に使いこなすことから、二剣のフレイアとの異名をとる。
紅い髪と瞳を持ち、兵士たちに隠れファンが多い。
現在の悩みは胸が小さいこと。
ヒューガー様ラヴ(笑
黒騎士と、ひとくくりにされていた人たちです(笑
1章では大規模な戦闘シーン無かったで活躍の場が無かったのですが、3章では活躍の予定(笑