第1章 FILE13:魔王と蒼い聖女
目を開くと見慣れない石作りの天井が見えた。
少しだけ考えて、ああ、そうかと納得する。暗殺者の矢を受けたことその後の事が鮮明に思い出せた。夢かとも思ったが右手の中にひんやりとした感触があり、見てみるとガイアがくれた蒼い宝石だった。
部屋の中を見るとベッドの隣のイスに、レイバが腕を組んだまま寝息をたてていた。他に人の気配はない。
レイバを起こさないようにゆっくりと上半身を起こすと、身につけているのは下着だけだった。慌てて毛布と一緒にかけられていたシーツを身体に巻きつけた。
そっとベッドから降り窓辺へと向かう。窓辺に向かいながら痛みはないかバランス感覚が狂っていないか、その他何箇所かチェックをいれる。
「うん、異常なし」
ふらつきもないし体調はいいようだ。
窓からは心地よい風が入ってくる。窓からは、砦の外まで良く見えた。まだ、朝早い時間なのだが、たくさんの人が動き回っている。
「ルノア」
レイバの声がした。
「ごめんなさい。起こしてしまいましたか」
レイバはルノアに近づくと力いっぱい抱きしめた。
「よかった。本当によかった。司祭は三日も意識が無かったのだ。心配したのだぞ。本当によかった」
ルノアは自分の顔が紅潮するのがわかった。こうやって、異性に力いっぱい抱きしめられたのは初めてだった。
「そんなに力を込められては、苦しいですわ」
レイバが力を緩めた。
「まだ、無理をしないで休め」
と、言うとルノアをひょいと抱き上げる。俗に言うお姫様だっこと言うヤツだ。ルノアの顔がますます赤くなる。
「皆にも知らせてやらねばな。グロウなどは昼夜問わずガイアに祈っている」
ルノアをそっとベッドに下ろす。
「レイバ様。暗殺者はどうなされまして?」
レイバが不機嫌そうな表情をする。
「地下牢だ。自殺防止の見張りをつけてある」
「ヴァネッサ様達は?」
「彼女たちは当初の予定通り西の塔に軟禁している。ハット神官に手伝ってもらっているが、彼には彼の思惑があろう」
「よかった。暗殺しようとした者を赦免してはもらえませんか? 彼もまた自国のために動いたのです」
レイバがルノアの顔を覗き込む。顔には信じられないと言う表情を浮かんでいる。
「それは出来ない。彼はその場で斬られてもしかたなかったのだ。それに彼の方でも望むまい。彼の処罰は軍議にて定める。司祭の参加も許可しよう」
しかし、ルノアは引かなかった。
「レイバ様、お願いします」
レイバがルノアをベッドの上に押し倒す。レイバの金色の瞳がルノアの目の前にあった。
「ルノア。何故、貴女は他人のことばかり優先するのだ? 今ぐらいは自分のことを優先してもいいのではないか? 貴女は命の恩人だし…… 正直に言おう、俺は貴女のことが好きだ、惚れている。貴女の願いは叶えてやりたいが、できる事とできない事がある。そんなことに貴女が気に病むことはない」
ルノアの両手がレイバの背中にまわった。
「ごめんなさい。でも私はそんな生き方しか出来ない女です。それでも、貴女は私のことを好きだと言ってくれますか?」
レイバは何も言わずにルノアと唇を重ねた。と、ドアがノックされ、ハットが入ってきた。慌ててレイバがルノアから離れる。
「あ、ルノア殿、気づかれましたか。レイバ様も早く知らせてくれば代わりの人をよこしましたのに」
そう言って、水差しをベッドの横に置く。
「うん、お二人とも顔が赤いようですが、なにか?」
レイバとルノアは同時に「なんでもない」と否定する。
「それなら、いいのですけど」
レイバは内心この男わざとじゃないかと、思ったりしたが、ハットはいたって真面目であった。
次回予告
意識を取り戻したルノアの元には見舞いのための人影があった。
その人影とは?
次回 見舞客 前編
風が貴方に物語を運ぶ
読んでくれている方がいるかわかりませんが、今回も読んでた抱きありがとうございます(笑
さてはて、ルノア生還です。でもってレイバさんがルノアに対して気持ちを吐露していたりもします。しかし、それ以上は進みません(笑
まあ、そのうちにその辺も進んでいくでしょう。
次回は前編後編に分けて、メインキャラをまとめてみようということです。
一応、年内で見舞い客の前編後編は更新する予定です。
では次回で。